第35話 暗殺者へ辿る道
気紛れに闘技へ参加して、あれよと言う間に王者すら倒してしまったバティン。
最初こそクレアはバティンの我が道を行く行動を咎めようとしていたが、途中からは「もう、やりたい様にやったら良いよ」の精神で試合を観戦していた。
ちょっとした混乱が起こったグラップ内だが、実況の女性にクレアとレミエルが説明し、拡散して貰ったので酷い事にはなっていない。
闘技場の外でバティンを待っていると、やっと此方へ歩いてきた。
「む、待たせたしまったようだな」
「バティンさん、新チャンピオンおめでとうございます」
「流石はバティン殿だ、良い試合だった」
「相手が情けないわよ、ちょっとはバティンの苦戦も見たかったのに!」
もしここにローヤー司教がいたら、何をしてるんですかっ!と雷が落ちていただろうが、最早バティンの行動を咎める人間は居なかった。
闘技場での一幕が終わり、次の目的地の話し合いが行われる。
「ふむ、では此処が良さそうではあるな」
話し合いの結果、この国コロセスとパルテナの間にある国。
魔法王国マジーク。その首都を目指す事にした。
まだ太陽は沈んでおらず、今から行くのかと思っていたのだが、珍しくバティンが
「今日は疲れた。明日出発するとしよう」
と言うので、今日はナーリアの街に宿泊となる。
クレアは闘技場で疲れたんだろうと思っていたので違和感は感じなかったが、レミエルとドゥルガは何かあるようだと感づいていた。
特にドゥルガはあの程度で疲れるなどあり得ないのは知っていた為、バティンが何か企んでいるだろうと訝しむ。
(ふーん、何かありそうね……これは事件の匂いがするわっ)
ドゥルガの勘は当たる。
ナーリアの街で宿を取り、明日に備える一行。
宿はバティンで1部屋、クレア、レミエル、ドゥルガで1部屋を取った。
その夜、隣の部屋にいるはずのバティンの気配が消えたのをドゥルガは察知した。
(ふふん、女神たるアタシを煙に巻こうなんて無理なのよっ!)
ドゥルガはバティンの気配を追う。
着いた先はナーリアの街で治安の悪い、スラムのような所だった。
そこを悠然と歩いているバティンを発見する。
「ちょっとアンタ、何やってんのよ?」
「掃除のようなものである。暗殺者が邪魔になったのでな」
「ふーん、そう。良い? やり過ぎは良くないわよ? アストが怒るわ」
「我の知った事ではない」
「アタシは忠告したからねっ! まぁそういう事ならアタシは戻るわ」
「ドゥルガよ、娘を頼んだぞ」
ドゥルガが瞠目した。
あの天上天下唯我独尊を体現する悪魔が、敵対していた女神に頼み事をするなんて一体どんな変化があったのか。
「それが貴様の仕事であるからな? しっかりとこなせない場合は消してくれるぞ」
「なっ……!? やっぱりアンタ悪魔だわっ!」
バティンはクレアを守らなければドゥルガを消すという。
人間に対して優しさを見せたバティンに感動すら覚えたが、ちゃんとやらなきゃ殺すだの言われたらたまったものではない。
「何を言っている? 我が悪魔なのは当たり前であろう?」
「ちょっと感動して損したわっ! けっ!」
悪態を吐き、逃げるように飛んで行く妖精。
その態度は想像する女神とは思えない。が、現実はこんなものである。
「さて、奴等の根城を探さねばな」
バティンはそれっぽい人間を見つけると片っ端から魔術を用いて情報を引き出す。
すると、17人目にしてようやく当たりを引けた。
「あっ……この先の……あっ……あっ……建物の中に……仲介者が……あっ……あっ……」
「ふむ、なるほど」
引き出した情報を元に仲介者とやらに会いに行くバティン。
外壁はボロボロであり、今にも崩れそうな廃墟といった建物であった。
あって無いような扉を開け、建物内へと進む。
「……誰だ? こんなとこまで来る物好きな悪魔は」
柱の影から誰何の声、所々糸がほつれた顔まで覆う黒いローブ姿の男が現れる。
「我はバティン。
「はっ! あんたがそうかよ。あんた、有名だぜ? 奴等に狙われてるってな」
「ほぉ、そうであるか」
「ああ、そんで此処に来る事も予測されてるぜ」
ローブの男がそう言った途端、バティンに襲い掛かる不可視の暗殺者。その人数は10名。
音もなく襲い掛かる暗殺者は、その対象の命を確実に刈り取る。
その筈だった。
ローブの男が見たのは血飛沫。
だが、予定されていたバティンの物ではなく襲い掛かった暗殺者の物。
地面や柱に叩きつけられた暗殺者はおよそ人の形を保っていなかった。
「お、おい……マジかよ……聞いてねぇぞ……」
「さて、情報を頂こう」
「ちょっ! ちょっと待ってくれ! 情報は渡す、だから殺さないでくれ!」
バティン少し考える顔をしてローブの男に問いかける。
「ふむ、正直に答えよ。貴様は
ローブの男は恐怖で震えながら考える。
どっちだ……? 正解は、どっちだ?
誤魔化しはバレる? わからない、違うと答えてもそうだと答えても、どっちにしろ死ぬかも知れない。
奴の目的はシェディムだ。俺じゃ無い筈。
ならば、嘘がバレて逆鱗に触れるよりは正直に話すべきか……?
「どうした、早く答えよ」
「そ、そうだ。あんたの言う通り俺も
「そうか。ならば貴様らの頭目の居場所は知っているな?」
「ああ、知っている」
「ならば良し」
バティンはその答えを聞いた後、ローブの男の頭を掴み上げる。
「まっ、待って! 待ってくれ! あんたの目的は俺達のボスだろうっ!? 殺すのはボスなんだろう!?」
ローブの男は懇願する。
だが、悪魔はその言葉を聞いて、よく分からないと言う顔で質問をする。
「貴様、狩りはわかるか?」
「か、狩り……? 兎とか鹿の……?」
「そうだ。貴様は狩りをする時、目の前に兎、遠くに鹿がいるならば兎を狩ってから鹿を追うだろう?」
「ひ……っ!」
「誰だってそうする。我もそうする」
スラム街の廃屋に人間の死体と思われる残骸が11名分転がる。
暗殺者との決着は近い。
★★★★★★
何とかしてこの台詞が書きたかった
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