第30話 女神降臨

 2作目書き始めました。


 俺は負け犬じゃない!【負け犬アルバートは何とか勝利を手にしたい】 https://kakuyomu.jp/works/16816927861111175821


 こっちは不定期更新になると思いますが、もし良かったらこちらも一読下さい。


 多分、夜にもまた悪魔を投稿すると思われる。


 ★★★★★★★



 レシルの昔話を聞いた後、バティン達はエルフの里にて歓待を受けていた。

 クレアとレミエルも見た事のない料理や果実に舌鼓を打ち、バティンも「ほぅ、リグの実を凌ぐか。この果実をもっと持って参れ」などと満足していたようだ。



 次の日の朝。


「では我らは街に戻るとしよう。手紙配達の任を完了させねばならぬ」

「手紙…? あっ、依頼受けたやつですね。すっかり忘れてました」

「うむ。普通の配達人よりも大分早く街に到着したのでな、今からでも通常よりは早かろう」

「ですね。じゃあレシルさんお世話になりました!」


 ティオンの街でギルド長から受けた配達とは別の手紙配達依頼を受けていたのをすっかり忘れていたクレア。

 バティンの言う通り、普通であればまだナーリアの街に着いて居ないであろう速度で移動してきたので時間にはかなり余裕がある。


「では世話になった老エルフよ」

「ああ、今のアンタ達であれば構わないさ、またおいで。レプラ、森を出るまで見送ってあげな」

「わかっている」


 エルフの里を満喫したバティン達、名残惜しい気持ちもあるが旅を続けるために里を後にしようとする。

 その時の事だった。


「ぬ…? この気配は……」

「どうしたんですかバティンさん?」

「少し離れていよ娘」


 バティンが見上げるのは空。

 太陽が輝き、良い天気であるがバティンは何かを感じ取った。

 レミエルも遅れて気がつく。


「バティン殿! この神気は…っ!」


 瞬間、空からキラキラと光輝く粉のようなものがバティンの目の前の地点に降り注ぐ。

 その光の粉はだんだんと集まり、人の形を作り出す。

 その神秘的な光景にクレアや他のエルフ達は見惚れている。


「これは……まさか、女神様が降臨するのかい……!?」


 女神を知るただ1人のエルフは感じた事のある気配に恐れ慄いている。

 十分に集まった光の粉が完全に人の形になった時、光は弾けた。


 光の中から出てきたのは、虹色に輝く翼をもった者。

 その顔は誰が見ても溜め息と共に、『美しい』としか形容できない程整っており、男とも女とも取れるが身体付きを見てやっと女性とわかる。

 神秘的な光沢の鎧を纏い、腰に差した聖なる気を放つ剣。

 まさに戦女神だった。


 その戦女神は閉じていた目をゆっくりと開く。

 皆呼吸を忘れて、戦女神の挙動を見つめていた。


 凛とした戦女神は開いた目で悪魔を見る。

 瞬きを何度もし、目を擦って再度悪魔を見る。

 首を左右に振り、目頭を押さえたのちに再度悪魔を見る。

 三度見であった。

 先程まであった誰も逆らえないと思わせるような荘厳な雰囲気が一瞬で霧散した。


「ババババババティンんんんん!? なななな何で!? えっ!? 嘘でしょ!?」

「久しいなドゥルガよ」

「ドゥルガ!? 今ドゥルガと言ったのかバティン殿!? そ、それはあの、闘いの女神ドゥルガ様の事かっ!?」


 レミエルが早口でバティンを捲し立てる。

 当のドゥルガは方針状態のようだが……。


「あのドゥルガかと言われても我にはわからぬが、まぁ此奴は女神であるぞ」


 開いた口が塞がらないとは正にこの事。

 闘いの女神ドゥルガといえば、闘う事を生業としている冒険者や闘技者にアストライア以上に信仰されている最上位の女神の1柱。

 その女神ドゥルガが、いきなり目の前に現れる。


 熱心な教徒ですらその姿を見た事はないと断言できる。というか、女神が人の前に顕現するなど、聖書に書いてあるくらいで創作だと思っていた程。

 それが、今、目の前で起こっている。


「ふっ……そうか私はまだ寝ているのか……。すまんがバティン殿、私を起こしてきてくれないか?」

「何を言っている聖騎士。現実である」

「嘘だっ! こんなこと夢以外であり得るかぁっ!」


 レミエルは錯乱しているが、現実である。

 絶賛混乱中のレミエルに対してクレアは冷静であった。


「ビックリしましたぁ。女神様だったんですか、道理で凄い神秘的な人ですね」


 クレアは女神と聞いても、いつも通りである。

 信仰心が足りないのか、事情を理解していないのか、バティンの影響か。

 恐らく全てだろう。


「ドゥルガ、貴様何をしに来た?」

「はっ……! ふぅ、はぁ……バティン? 本物?」

「本物である」

「何でアンタ人間界にいるのっ!? 協定はっ!? 絶対ダメでしょ!! つーか、ふざけんなよアスト! アイツ絶対知ってたじゃん!!」

「落ち着け」

「落ち着いてられるかぁー!」


 バティンが地面を踏み付け暴れる女神を宥めること数分。

 ようやく話を聞けるくらいには落ち着いたドゥルガ。

 掻い摘んだ事情を説明すると、一応の納得をみせた。


「はぁー人間界を見て回りたいって、アンタ相変わらず頭おかしいわね」

「失礼であるな。未知に興味を示すのは当然であろう」

「限度があるでしょうよ」


 ドゥルガの言う事は正論だ、本来バティン程強大な悪魔は人間界に来てはならないという制約がある。

 戦争終結時に魔界と天界で決められた条約の1つで、ある一定以上の魔力を持つ者は、他界に侵入してはならない。


「てか、協定違反……いや魔力は抑えてるのか。いや、それでも上限超えてるよね?」

「この抑えていた魔道具が壊れてしまったのでな」

「何そのバケツ? ダッサ」


 バティンが人間界に来た当初は協定内の魔力であったのだが、早々に破損してしまったのだった。

 バティン自身も協定の事は分かってはいたが、不可抗力だと開き直っていた。そもそも、協定を遵守する気もあまり無いのも事実である。


「で、貴様は何用で人間界に来たのだ?」

「アタシはアストに頼まれて来たんだけど、アンタがいるって知ってたら来なかったわよ。何が様子見だよあいつ……。

 まぁ良いわ。アストが知りたかったのって、アンタの目的が何なのかだろうし。アタシは帰るわ」

「ご苦労である」

「本当よ……」


 ドゥルガはフワリと空中に浮き上がり、虹色に輝く光を纏う。


「エルフと人間よ、騒がせて申し訳ありませんでした。私は天界へ戻ります。其方らに幸多からんことを……」


 今更ながら神聖な雰囲気を作りだし、そう言って光の粉になって消えていった。

 未だ固まっているレプラにバティンが声をかける。


「エルフよ、我らは行くが」

「あ……ああ……」

「娘、聖騎士よ。いつまでも呆けているな。行くぞ」

「あ、はい。行きましょう」

「……女神ドゥルガ様が……あんな口調……信じ……」


 ブツクサと言っているレミエルをクレアが引っ張って里を後にするバティン一行。

 女神顕現という、旅一番の事件だったがバティンは興味が無くパルテナへ向かうのだった。





 森を抜けレプラと別れ、草原から飛んで行こうと思った時、先程と同じような光が降り注ぐ。


「またであるか……しつこい女神であるな」

「バ、バティン殿! また女神様が来るぞ!?」

「忘れ物とかですかね……?」


 光が収まり、現れたのは人の顔位の大きさの虹色の羽を持つ妖精だった。


「あ、可愛い」

「バティン殿……こちらも女神様か……?」

「何を言っておる、先程も会ったではないか」

「な、何!? では、この小さい妖精がドゥルガ様だと言うのか!?」


 先程の純然たる戦女神とは似ても似つかない小さな妖精をバティンはドゥルガだと言う。


「ドゥルガ、また何用であるか?」

「はぁ……不本意だけどアタシも一緒に行く事にするわ」

「拒否する。帰るが良い」

「うるっさいわね、アストと契約交わしたのよ。もう決定事項ですぅ」

「駄目だ。帰るが良い」

「ねぇ、貴方達も別に良いでしょ? アタシがついて行っても」


 嫌そうなバティンを他所に、ドゥルガはクレアとレミエルに問いかける。


「あ、私は別に構いません。女神ドゥルガ様、私はクレアって言います。よろしくお願いします」

「クレアね。固いわね、ドゥルガで良いわよ。そっちのアストの加護持ちも良いわよね?」

「はっ、はいっ!! 私はレミエルと申します!! よ、よろしくお願い致しますっ!!」


 多数決で決まりとばかりにドゥルガはバティンに対して勝ち誇った笑みを浮かべる。

 珍しく苦虫を噛み締めたような顔でバティンは諦めた。


「……此奴らが良ければ我は何も言うまい」

「決まりねっ! じゃ行きましょ! 実はアタシも人間界ってよく知らないのよね、楽しみだわ」


 こうして、バティン達に新たな仲間が加わった。

 悪魔、女神、聖騎士、一般人のデコボコなパーティの旅は続く。


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