第28話 老エルフは知っている

【祝2,000PV over 2022/2/24】

より楽しんで頂けるよう頑張ります



★★★★★



「あ、バティンさん来ましたよ。おーい」


 クレアが赤い花畑の中で空を飛ぶバティンに手を振っている。

 つい先程、此処に到着しバティンを待っていたがすぐに悪魔は追いついてきた。


「来たか。では此処からは我らエルフの縄張りだ。俺から離れると弓で射られるかもしれんから気をつける事だ」

「ひえっ! 気をつけます」


 馬を手で引き先行するレプラの後ろを着いて行く3人。

 すると、レミエルがススッと後ろに下がりバティンと並ぶ。


「バティン殿、どうだった?」

「予想通りである。伝言を持たせたが、諦めるとは思えぬ」

「そうか、しばらく警戒は必要だな。なに、パルテナに着けば問題は無くなるさ」

「あれ? 2人ともどうしたんですか?」

「何でもない。娘よ前を見て歩かねば転ぶぞ」

「もぅそんな子供じゃありませんよっ!」


 と言った側から木の根に引っ掛かり転びそうになるクレアをレミエルが笑う。

 バティンは森の中の植物や虫に興味を抱いたようでレプラに質問攻めをする。


 何かあるたびに質問してくる悪魔に、多少疲れたレプラだがようやく目的地に着く。


「着いたぞ」

「え? レプラさん、何にもありませんけど?」


 クレアの言う通り、目の前は鬱蒼とした森が続くのみ。

 とてもエルフが居住している気配はないのだが。

 クレアが混乱していると、バティンが言う。


「娘。目で見える物が全てでは無い。幻術の類だろう」

「流石は悪魔だな」


 レプラはそのまま大きな木の側を奥に進むと姿が消えた。空間に溶け込み見えなくなってしまったのだ。


「えぇ!? 消えましたよ!?」

「あの木が入り口だと思うぞクレア殿。素晴らしい術式だ。さぁ、我々も続こう」


 レミエルもそう言って同じように空間に消えていった。

 クレアも目を瞑り勇気を出して踏み出す。


「うわぁ…」


 クレアが目を開けると、先程の森の景色とは一変し、木造の家や、噴水、色とりどりの花が咲いている花壇など美しい景色に様変わりしていた。


「ようこそ、エルフの里へ。此処に来た人間は50年振りか、悪魔は初めてだな」

「我は常に先端を行くのでな」


 バティンがよくわからない発言をしているが、クレアは周りに夢中だった。

 自然と一体になっているというか、不自然さの無いエルフの里に偉く感動していた。


「はぁぁぁ、凄いですね…溜め息でちゃいます…」

「確かに美しい里だ。私もエルフの里に来たのは初めてたが、これほどとは思わなかった」


 女性2人は里の美しさに感動しっぱなしであり、それを見たレプラは自慢気に笑う。


「そうだろう。人間の街とは違い我らエルフは自然との調和を尊ぶ。人間からすればさぞ美しく感じるのだろうな。まずは里長に面通しをする、着いてこい」


 しばらく立ち止まっていたクレアとレミエルだが、バティンから早くしろと言う声で我に返り、レプラの後に続く。


 向かうは里の中央に鎮座する巨大な大木の切り株。

 大人200人が手を繋いで周りを囲ってもまだ足りないであろう大きさの木。

 そんな切り株に木製の扉がある。


「ほぉ、これは世界樹であるな」

「わかるか、悪魔」

「せ、世界樹だとっ!? ではパルテナにあるのは一体!?」

「正確には元世界樹だ。聖騎士の言う通り、今の世界樹はパルテナの国にある。1,000年前にその役目を終えた、世界樹の名残だ」


 女神が植えたとされる世界樹は地脈を整え、自然を広げる。

 世界樹の周りは森が栄え、草木が生い茂り、多く果実が実る。

 現在はその世界樹に込められた聖の力を利用して、魔を退ける結界に使われている。

 だが、本来の世界樹は森の奥深くで大地を見守るのだ。


「役目を終え、寿命は尽きたと言えまだその力の残滓は残っている。我々エルフはその恩恵を受け、此処で生活している」

「我は書物でしか見た事が無かったのでな。これだけでも此処に来た甲斐がある」

「私も話でしか聞いた事無かったです…。ほんと大きいですねぇ」


 切り株とは言え、未だ見上げる程の大きさを誇る元世界樹を目に焼き付けているとレプラが扉を叩く。


「レシルの子レプラ、客人を連れて参った」

「入りな」


 扉が女性の声を発する。

 扉が喋った事でクレアとレミエルは驚愕する。

 固まった2人だが、レプラは気に留めず扉を開けてバティン達を中に誘導した。

 中に入ると一本の長い廊下、左右にはこれまた木製の扉があり突き当たりには他の扉と違う装飾が施された大きな扉。

 恐らく里長のいる部屋であろう。


 その扉をレプラが開くと、広間には何人ものエルフが座っており奥の一段高い場所に老齢のエルフの女性が居る。

 顔に皺が出てきており、人で言えば60歳ほどだろうか。だが老いて尚美しいと感じさせるエルフだった。この人物こそが里長だろう。

 その里長がバティンを見て、目を見開く。


「レプラ……とんでもない者を連れてきたね……!」

「説明はしたぞ長よ。悪魔だが妹を救ってくれた恩人だと」

「聞いちゃいたがね…ここまでの大物とは思ってなかったよ……はぁ、まぁいいさ」


 諦めたように溜め息をつく里長。


「すまないね客人。あたしゃこの里の長をやらせて貰ってるレシルってババアさ。そこのレプラとアンタらに助けた貰ったレミアの母親さね」

「我はバティン。悪魔である」

「私はレミエル、パルテナの国の聖騎士をしております。この度は里に招いて頂き感謝致します」

「わた、私はクレアです。その…普通の行商人です」


 里長レシルはチグハグな身分の客人を見て目を細める。


「悪魔と聖騎士と行商かい…よくわからない繋がりだねぇ。長く生きるとこんなこともあるんだね」

「あの、失礼かも知れませんが里長さんっておいくつなんですか?」


 クレアが怖い者知らずの質問をする。

 普通に行商をしていた頃では考えられない行動。

 バティン達と居ることにより、通常の感覚が麻痺したいた。悪魔と一緒にいることの弊害である。

 そんな不躾な質問だったが、レシルは笑って答える。


「ハッハッハ! 人からするとエルフの年齢は分かりにくいからねぇ、疑問に思うのも無理ないさ。それでお嬢ちゃん、幾つに見えるかい?」

「えっと……50歳くらい?」


 女性から幾つに見える?という質問には、少し若めに回答するのが円満なコミュニケーションのテクニックである。

 クレアは本当は60歳くらいだと思ったので、そう答えたのだが。


「アッハッハ!! 聞いたかいレプラ? あたしもまだまだ若いだろう!?」

「煩い、人間から見たらそうなる」


 先程よりも大声で笑うレシル、涙が出るほど笑っている。

 何がツボに入ったのか分からずオロオロするクレアにレシルが正解を言う。


「ふぅ…久々に笑わせて貰ったよ、可愛いお嬢ちゃん。あたしは3,000と少し、そんくらい長く生きてるババアさ。

ちょっと特殊なエルフでね寿命が長いのさ。この世界でも有数の年寄りだよ」


 衝撃の事実。

 だが、その後に続いた言葉にはもっと衝撃を受けることになる。




「だから、アンタの事も知ってるよ。絶望の悪魔バティン」

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