第22話 悪魔の宝石

 ギルド長から聞いたホープ伯爵の屋敷のある街の北東に向かうバティン達。

 進むに連れ、周りの建物が大きく、豪華なものが増えてきた。

 すると、前方に一際大きな屋敷が見えてくる」


「あ、あそこ。大きなお屋敷がありますよ」

「恐らくホープ伯爵の屋敷だろう。皆、気合を入れるぞ!」

「いや、レミエルさん…闘いにいく訳じゃないんですよ…」

「おい、聖騎士。お前はまた周りが見えなくなってるんじゃないか?」

「す、すまない…。つい、気が早ってしまった」


 クレアとレプラに注意され、しゅんとするレミエル。

 ある意味、バティンよりも危険人物なのではないか。とクレアは思い始めていた。


 程なく、伯爵の屋敷の前へ到着する。


「あ、悪魔!? 貴様ら何の用だ!?」

「ここを伯爵様の屋敷と知っての事か!? おい、誰か呼んでこい」

「あー、待たれよ。私はパルテナの聖騎士レミエル。この方は悪魔だが、アストライア教も認めている悪魔だ。問題無い」


 レミエルがそう言うと、一応話を聞く気になった門兵達。

 こういう時の聖騎士は便利である。


「パルテナのレミエルだと…っ!? 確かに鎧は聖騎士の物だ…」

「何故パルテナの戦乙女ヴァルキュリアレミエルがここに? 偽物ではないのか?」


 戦乙女ヴァルキュリア? 誰が?

 クレアはレミエルを見る。

 本人は当然かのように堂々としている。見た目だけなら確かにそう見えるほど美しい。だが、中身が伴っていない。


 偽物に疑われたレミエルだが、光の翼を作り出すと門番達は慌てて通してくれた。


 屋敷に入ると年老いた執事に応接間に通され、この屋敷の主人をそこで待つ事になった。


「いやぁ、貴族の屋敷に入ったの初めてですよ。豪華ですけど、ただ、何となく不気味ですね」


 今バティン達が座っているソファやテーブルなどは確かに豪華で、調度品も高そうな物が揃っている。

 だが、壁に掛けられた土色で目の所だけ穴が空いている仮面や、火炙りを写した絵画、こちらを見ているかのような綺麗なドレスをきた人形などが、豪華な応接間を帳消しにしている気がする。


「クレア殿、普通の貴族の屋敷とは少し違うぞ。恐らく……」

「うむ、聖騎士の言う通りである。そこの物らは呪われておる」

「ひぇっ! だ、大丈夫なんですか?」

「すぐに命に関わる事はなかろう」


 そんな『直ちに影響はない』みたいな感じに言われても。とクレアは不安でソワソワしてしまう。


 そんなやり取りがあった後、応接間へやって来た人物。

 恐らく館の主人のホープ伯爵であろう。

 見た目、恰幅の良い中年男性といった感じで口髭を生やしている。

 クレアのイメージする道楽貴族といった風であった。


 伯爵は応接間に入りバティンを見るとギョッとするが、事前に話を聞いてのだろう、慌てふためく事はなかった。


「ほ、本当に悪魔なのだな……して、そなたらが呪いの剣を発見したと?」

「うむ、こちらである」


 バティンが皮袋をテーブルに置く、すると伯爵がその中身を改める。

 中にある剣を見るや否や、目がカッと見開き震える手で袋から取り出した剣をテーブルに置く。


「いやはや…私も趣味で呪われた物を集めているが、ここまでの物は中々無いぞ……」

「見ただけでわかるのか伯爵殿?」

「あぁ、色々な呪物を見てきたので、呪いの中身まではわから無いが強さは何となく分かるのだ」


 流石、趣味で呪物を集めている変人である。


「良いだろう。依頼は達成だ。報奨金は上乗せしておこう」

「それだがな伯爵よ、1つ貴様に頼み事がある」


 バティンがそう切り出し、オークションの件を告げる。

 それを聞いた伯爵は唸りながら悩んでいる様子。


「エルフの奴隷か…オークションの紹介状を渡すのは良いが、今回の報奨金では買えないだろう。この呪いの剣は大した物だが、コレにそれほどの金は出せん」

「紹介状だけで良い、金銭は当てがあるのでな」

「当て…?」


 伯爵が疑問に思うとバティンが宝石類をいくつか取り出し机にばら撒く。


「これらを売るつもりなのでな」

「ほぉ、コレは凄い。本物であれば実に見事な宝せ―――っ!?」


 バティンがテーブルに乗せた宝石を見ていた伯爵が突然立ち上がり、身を乗り出す。

 そして、その内の1つを食い入るように見ている。


「こっ、こっ、コレはっ…! これを売るつもりかっ!?」

「伯爵殿? どうなされた?」


 突然慌て出した伯爵にレミエルが声をかける。


「どうなされたも何も…! コレほどの呪いの宝石は見た事が無いっ!! た、頼む…悪魔よコレを売ってくれ! 金貨5,000、いや6,000出すっ!!」


 口から唾が飛ぶほど興奮した伯爵。

 どうやらバティンが持っていた宝石の1つが呪われていたようだ。

 しかしこの伯爵がそこまで慌てるとは一体…


「バティンさん、この宝石って…?」

「ふむ、確か…ある悪魔をそのまま宝石にした物だったか」

「え!? それじゃコレは悪魔そのもの…?」

「うむ、その通りである。その石が何か出来るという訳ではないが、悪魔は消滅せねば死なぬのでな、その状態でもまだ生きておるぞ」


 とんでもない宝石である。

 生きた悪魔そのものだなんて、普通の感性の人間は絶対に欲しくないが、この伯爵は違った。


「あ、悪魔そのものを宝石に…!? まだ生きているだと…!? ぬぅぅ…8,000だっ! 金貨8,000でどうだ!? 売ってくれ!」

「売るのは問題無いぞ。金貨8,000枚というのはどうなのだ聖騎士よ」

「パルテナの王都の一等地に屋敷が建つほどの大金だ。恐らくエルフの奴隷は買えるだろう」

「そうか、人間の伯爵よ。貴様に売ろう」

「ほ、本当か!? あぁ…ありがとうございます神様…この悪魔に巡り合わせて頂いた奇跡、感謝します」


 悪魔に巡り合わそうとする神様は恐らく邪神の類になりそうなものだが、伯爵が喜んでいるのでまぁ良いかとクレアは突っ込むのをやめた。


 望外にも紹介状だけでなく、資金まで確保が出来た。

 これで後はオークションでレプラの妹を購入するだけである。


 だが、このオークションで恨みを買う事になるのだった。

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