第21話 (超)特級呪物
呪物を作るにあたり、バティンはレミエルの大剣を呪物に仕立てようとしたが、レミエルが涙目でやめてくれと言うので仕方なく武器屋で何本か剣を購入した。
バティンはその場で呪物を作製しようとしたが、街中でやるのは何かヤバい気配を感じ取ったクレアとレミエルに止められ、一旦街の外に出てきた。
「この辺で良かろう」
「そうですね、このくらい街から離れれば多分大丈夫ですかね」
「ああ、ここなら爆発しても街まで被害がいくことはないだろう」
「ば、爆発!? 一体何を作るつもりだ!?」
恐怖するレプラにバティンは言う。
「なに、ちょっと珍しい呪い武器を作るつもりである。爆発などはせぬから安心すると良い」
「そ、そうか」
ホッとするレプラだが、クレアとレミエルは警戒を解かない。
絶対にヤバい物が出来上がる。と確信していた。
「では、始めるぞ」
買ってきた剣を一本地面に置く。
何の変哲もない鉄の剣だ。
バティンが鉄の剣の前に立ち、呪文を唱える。すると、地面に置かれた剣の周りから瘴気が湧き出る。またその瘴気から怨念のような声が辺りに響く。
念のためレミエルは3人に結界を貼っていた。多分あの怨念を聞いただけでも精神に影響がでただろう。
見ただけで危険とわかる瘴気に、3人は鳥肌が立っていた。
そして、鉄の剣に瘴気が吸い込まれて辺りが静かになる。
「終わったぞ」
バティンがそう言うので鉄の剣に集まる3人。
先程までごく普通の鉄の剣だったが、今は刀身の部分が濃い紫に変色し、若干瘴気が漏れ出している。
「バ、バティンさん…これはどういう?」
「これは使用者の身体能力を100倍にする呪いを掛けた」
「え?100倍!? 凄いじゃないですか!」
「だが使用者の意識を剣が乗っ取り、三日三晩周りの生物を殺すように暴れ周り、最終的には使用者が死ぬ」
はいダメー!
こんな事だろうと思ったクレアとレミエルはバティンに言う、
「バティンさん、コレはダメです」
「クレア殿の言う通りだ、危険過ぎる。力が100倍になり3日も暴れ回るなど街が滅ぶ」
「む、そうであるか…」
次にバティンが作り出した物は、先程と似たような禍々しい剣。
「バティンさん、これはどんな…?」
「うむ、これは決して折れたり欠けたりせぬ、人間界にある物質であれば殆どの物を切り裂く事ができるであろう」
「それはまた途轍もない剣だな。で、副作用があるだろう?」
「勿論ある。この剣を持った者は幻覚にかかり、周りの者が全て恐ろしい化け物に見えてしまう。また、手に取ったら決して外す事ができぬ」
アウトである。
結局、持った者は錯乱し暴れ回るだろう、そして手に持つのは切れぬ物などないという剣。危険極まりない。
その後もバティンが作ったのは、使用者の魔力を増大させるが化け物に変貌してしまう剣や、そこにあるだけで怨霊や悪霊を呼び寄せ最終的には使用者も悪霊になってしまう剣など、それはそれは超がつく特級呪物であった。
「バティン殿…もう少し抑えた物は作れないのだろうか?」
「そうですよ。最初の剣みたいに強くはなるけど使った後に3日くらい寝込んでしまうとか。そのくらいの奴はどうなんです?」
「その程度では、何も面白くないではないか?」
面白いかどうかで決めて欲しくない。
というより、この悪魔は今作ったような呪物が面白いと思っているのだろうか?
「仕方あるまい、遺憾ではあるが弱い呪いにしてやろう」
結局、作製したのは「身体能力が3倍、だが使用者の精神力を吸い取り、使い過ぎると死ぬ」という呪いに落ち着いた。
使用者が死ぬという部分はバティンが譲らなかった。
バティン曰く、「呪いというのは本来そのくらいのリスクがなければならぬ」とのこと。
何とかそれなりの呪いの剣を作製出来たバティン達。
冒険者ギルドに出されているという貴族の依頼を受け、コンタクトを取ることにする。
―――
ナーリアの冒険者ギルド。
ティオンと然程変わりのない、至って平凡な冒険者ギルドである。
バティン達がギルドに入ると、その場にいた冒険者達がギョッとし立ち上がる。
「おい…悪魔だぜ? あれはまさか…」
「教会の連れてきた悪夢!? あの鎧は聖騎士のものか…?」
「おい、エルフもいるぞ…?」
「あの娘っ子はなんだ?」
ざわついてはいるが、ティオンのギルドのように襲い掛かってはこないようだ。しっかりとバティンの情報が通っているのだろう。
バティンが進むと冒険者達が海を割ったように左右に分かれ道を開ける。
バティンは悠々と歩み、受付の元に辿り着く。
「き、き、今日は、ど、どういった御用でしょうか?」
「呪いの剣を持ってきた。呪物を希望している依頼があるのだろう?」
「ひぃ! の、呪い!? ギ、ギルド長ー!!」
脱兎の如く、奥に走って行ってしまった受付嬢。
残されたバティンは少し困ってしまった。
「まぁ、仕方ないだろうな。バティン殿、ここは待っておこう」
「そうですよ。まだ全然マシですよ」
「お前達…いつもこんな感じなのか? 買い物など碌に出来ないんじゃないか?」
レプラは心配そうに言うが、バティンと共にしているとこのような反応は日常茶飯事である。
クレアは慣れきっていた。
すぐに奥から眼鏡をかけ、白髪の髪を頭の上で纏めた老女がこちらへ来た。ギルド長だろう。
「お前さんがバティンっていう悪魔かい。随分変わった悪魔だって聞いているよ」
「変わっているかはわからぬが、我がバティンである」
「それで、呪いだって?」
「うむ、これである」
バティンが虚空から一本の剣を取り出し、カウンターに置く。
老女はそれを観察し、頷く。
「結構な呪いが掛かっているようだねぇ。どんな呪いか分かっているのかい?」
「使用者の精神力を吸い、力を増大させるものだ。使い続けると死ぬ」
「はっ、そりゃまた凄い呪物だ」
そう言い、ギルド長は一枚の紙をバティンに渡す。
「これはギルドの依頼書さ、これを持って街の北東にあるホープ伯爵の屋敷に行きな。依頼完了したらサインを貰ってくりゃ良い」
「北東のホープ伯爵だな」
依頼書を受け取り、蒐集家の貴族の屋敷も分かった。
呪われた剣を引っ提げ、バティンは屋敷へと向かう。
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