第20話 悪魔はお金持ち

 エルフ達との話し合いで分かった事は


 ・攫われたのはレプラの妹のエルフ

 ・攫ったのは恐らくナーリアの街にある奴隷商の関係者

 ・エルフは人間の間では見目麗しく、性奴隷として扱われることが多い

 ・奴隷が売られるオークションまでの猶予は2日程、それを過ぎると手掛かりも無くなってしまう


 という状況であった。


「ふむ、2日以内で取り戻せば問題無いということか。であればその奴隷商に行き、連れ帰って来れば終わりであるな。実に簡単である」

「あの…バティンさん。どうやるんですか?」

「無論、力で言う事を聞かせるつもりだが?」

「バティン殿! 貴殿が暴れると不味い。指名手配されてしまう。流石に犯罪者をパルテナに案内するわけには行かん」


 バティンが暴力を行使すれば障害など何も無いのだが、街に商会を構える奴隷商人は表向きは国に認可されている商会であろう。

 そこを襲撃したとなれば、相手が悪者だとしてもクロセスの国から見るとこちらは『ナーリアの街で暴れた凶悪な悪魔』である。


「ふむ、先にこの国の王に事情を説明している時間は無いな」

「我等エルフは人間と取引はあるが、同胞が攫われたのだ、この際多少強引な方法も辞さない」

「お、落ち着くのだレプラ殿。そうするとエルフ全員に矛が向く、何か方法を考えよう」

「うーん、どうしましょう。オークションまで時間も無いですし…」

「それだ、娘」


 クレアの発言で、バティンが何か閃いたようだ。

 言った本人は、どれ?とわかっていないようだが。


「オークションに奴隷がかけられるなら、正当にオークションでこちらが買えば良い」

「それはそうだがバティン殿。恥ずかしい話、私はそこまでの金銭を持ち合わせていないぞ?」

「我等も人間の貨幣はそこまで蓄えがある訳では無い」

「私も、そんなに持ってないです……あっ!」


 エルフとなれば相当な金額にもなるだろう。

 皆、オークションで競り落とせる程お金は持っていないようだが、

 そこで、クレアが思いだしたように言う。


「バティンさん、エイビスさんの時に出した宝石。まだいっぱい持ってるんですか!?」

「うむ、これである」


 バティンが虚空を広げると、そこからジャラジャラと宝石、装飾品、宝剣などなどが地面に転がる。


「こ、これは…! 何という…」

「途轍もないぞ、バティン殿…」

「綺麗ですねぇ、これだけ有れば足りますね」

「足りる足りないとか言う次元ではないぞクレア殿。恐らく国が買える」


 レミエルがそう言うとクレアは手に取って眺めていた宝石の1つを慌てて地面に戻す。


「どうやら金銭は問題無さそうだな、ではこれらを貨幣に変え、オークションに挑むとしよう」


 こともなげにバティンは言い放つ。

 つくづく規格外の悪魔であった。



 ―――


 エルフからはレプラが同行し、バティン達4人は今ナーリアの街にある酒場のような所で食事を取っていた。


 街に入る際に、門兵といつもの恒例行事があったが珍しくレミエルが役に立った。パルテナの聖騎士という肩書きはこの世界では相当な証明のようだ。

 クレアはほんの少しだけレミエルに対して評価を上げた。


 大衆酒場という事もあり、周りには多くの客がいる。

 悪魔がいるという事で皆こちらを気にしているようだ。


「ふむ、注目されておるようだな」

「まぁ、仕方ないですよ。私は結構慣れてきました」

「バティン殿だけでなく、私やレプラ殿も見られているようだな」

「あまり我々は街に来る事もない。人間にとっては珍しいのだろう」


 クレアは、目立つ人達は大変だなぁ。などと思っていたが、実はクレアも「なんであんな普通っぽい女がアイツらといるんだ?」と別の意味で注目されていた。


「注目されているなら丁度良い、情報を貰うとしよう」

「バティンさん? 何するんです?」


 おもむろにバティンは席を立ち、こちらを見ていた二人組の男に近付く。

 恰好からして冒険者のようだ。


「な、なんだ!? なんの用だ悪魔!」

「や、やる気か!?」

「貴様ら、冒険者だろう? 我も冒険者である」


 バティンは自らの冒険証を取り出し相手に見せる。


「ま、マジかよ…悪魔が冒険者だと…?」

「貴様らは我の先輩であるな。どれ、一杯奢ってやろう」


 後輩の態度では無いバティンだが、奢って貰えるならと冒険者の男達はバティンの好意を受け取る。

 そして、一杯とは言わず好きなだけバティンは2人の冒険者に酒を提供した。


「ゴクゴク…プハァ! いやぁ、アンタ良い悪魔だな!」

「ほれ盃が空いておるぞ。どんどん飲むが良い」

「おう! 悪りぃな。いやぁ、今日は良い日だなぁ」


 すっかり出来上がった冒険者。

 そこでバティンは話を切り出す。


「ところで、貴様らは奴隷のオークションについて知っておるか?」

「奴隷ぃ? あぁ、裏オークションか。知ってるぜ」

「ほぉ、それについて知っている事を教えるが良い」

「お安い御用だぜ、裏オークションってのはな―――」




 バティンが冒険者から情報を聞き出すと、クレア達のテーブルに戻ってきた。


「バティン殿、見事なお手前だな」

「凄いですね」

「それでどうだったんだ? 妹の情報は掴めたか?」

「奴等が言うには、通常のオークションとは違い奴隷を扱う非合法なオークションがあるようだ。一般人や一見の者ではオークションに参加する事は難しいようだぞ」


 だが、聞くところによると、紹介状を貰えれば一見の者でも裏オークション参加は可能との事。


「紹介状ですか、どこで手に入れたら良いんですかね?」

「うむ、それについてもあの冒険者は心当たりがあるようでな。この街に住むある貴族が裏オークションの参加者らしい」


 その貴族は曰く付きの物や呪われている物などを集めている変わった貴族らしい。

 冒険者の間でも有名で、呪いの装備など手に入ったら買い取ると冒険者ギルドにも依頼を出しているそうだ。


「呪物蒐集家とは…変わった貴族だな」

「呪われてる物を集めるなんて…変な人ですねぇ。でも私達、呪われてる物なんて持ってないですよ? あの人形もレオポルドさんに渡しちゃいましたし」


 レミエルとレプラは、人形?と意味がわかって無いようだが、バティンは心配要らぬ。とばかりに言う。


「貴様ら、我は悪魔だぞ? 呪物作製など赤子の手を捻るようなものよ」


 3人は、そう言えばそうだった。と思い出した。

 悪魔らしくないバティンを見ていると悪魔とは一体…?と今までの常識が壊れていくので、バティンが悪魔だと忘れてしまうのも無理はなかった。


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