第19話 契約と部下認定

「さて、エルフ共よ。まさか盗賊という訳ではあるまい?」


 バティンがエルフに問う。

 しかし、エルフ達はバティンが(というか悪魔が)信用出来ずにまごついている。


「悪魔に話す事など…っ!」

「左様か。ならば我らは行くとしよう」

「ま、待て!!」


 バティンが踵を返すとレプラと呼ばれたいた男が呼び止める。


「おい、悪魔。契約だ、俺の願いを叶えろ」

「レ、レプラ!? 何を!?」

「これは良い機会だ。俺は妹を取り戻すためならば魂を賭ける」

「し、しかし、お前は次期族長だぞっ!?」

「そんな事は関係ない。悪魔、聞いていただろう? 俺の望みは攫われた妹を救う事だ」


 いきなり契約も持ちかけられたバティンは少し考える。

 どうやら、脳筋聖騎士が盗賊と勘違いしたのは攫われた同族を取り返すために馬車を追っていた者達だったようだ。


 時間は有限ではあるが、一刻も早くナーリアに行かなければならない程逼迫している訳でも無し、ここでエルフの願いを聞くのもまた一興か。


「契約か。結んでやらん事も無いが幾つか確認がある」

「何だ?」

「先程の馬車は人攫いや奴隷商人の類で貴様らは攫われた妹を追ってナーリアの街に行き、取り戻そうとしている。これで相違ないか?」

「ああ、そうだ」

「我ら悪魔と契約すると、死後輪廻には加われぬぞ?」

「覚悟の上だ」

「よかろう、我はバティン。魔界の公爵なり。貴様の願いを叶えてやろう」


 ここに悪魔とエルフの契約は成った。

 それを見ていたクレアが口を挟む。


「ちょ! バティンさん!! 何ですか輪廻に加われないって!?」

「知らぬのか? 人間界に生きる者達は死後、新たな命としてまた人間界へ生まれるのだ。それが輪廻の輪よ」

「それって私もですか!? 聞いてないですよっそんなの!!」

「む? 言っておらんだったか? まぁ些細な事であろう」

「些細じゃないです……嘘でしょ…私…地獄行きなの……?」


 クレアが死んだ目で意気消沈していると、レプラが不思議がって問いかける。


「悪魔、その小娘は一体…?」

「此奴は我の最初の契約者であり、人間界の従者の娘だ。貴様の先輩だな」

「な、何故契約者が生きている…?」

「ん? 何故も何も死んでおらぬから生きている。貴様は何を言っておる」


 レプラは混乱した。

 悪魔とは魂を代償に契約し、願いが叶えられるが本人は死ぬ。それが道理であり、常識だ。

 この悪魔は普通では無いのでは?と、レプラは感じていた。


「さて、それで代償であるが…。聖騎士、お前何か言う事があるだろう?」

「ムガガ…プハッ! すまない! 私の勘違いでとんでもない事を…貴殿の妹を取り戻す手助けを微力ながら私も手伝おう! 私に出来ることは何でも言って貰って構わない!!」

「あ…あぁ…客観的に見たらそう勘違いする事もあるだろう。が、もう少し話を聞くなり、状況を見て貰いたかったのが本音だが」

「返す言葉もない…」


 レミエルは恥じた。

 今までもこのように突っ走っては失敗する事があった。

 その度に同僚の聖騎士に迷惑をかけてしまっていた。

 レミエル、反省。

 だが、クヨクヨしている暇が有れば前を向こう! 失敗は行動で取り返せば良い!

 スーパーポジティブ聖騎士は、反省もそこそこに既に頭の中は逃げた奴隷商人をどう懲らしめるかでいっぱいに成っていた。


「この聖騎士は我の人間界における部下のようなものでな、此奴の失態は我の失態。代償を無しという訳には行かぬが……そうだな、貴様らエルフの里を見てみたい。そこへの案内を代償としよう」

「そ、そんな事で良いのか…? 魂は…?」

「魂なぞ要らぬ。代償はそれで良いか?」

「あ、ああ。こちらとしては全く問題無いが…」

「では決まりであるな」


 混乱。

 何だこの悪魔は…代償が案内だけ? 案内させた上でエルフを壊滅させる気か? いや、そんな迂遠な代償にする意味が無い…。

 そこの契約者という人間の娘が生きている事から本当の事だろう。

 一体…どういう悪魔だ?


 レプラ達エルフが混乱するのも無理はない。バティンは一般的な悪魔とは一線を画す存在。

 この場にバティンがいたことはエルフにとって僥倖中の僥倖、圧倒的奇跡であった。


「ま、待てバティン殿!! 私が部下とはどういう事だ!?」

「聖騎士、お前は我の監視も含めて、我が何か間違いを起こそうとしたら止める役目なのだろう?」

「そ、そうだ!」

「基本的には我の行動や方針に従い、我が間違っていたら諫める役目だな?」

「そ、その通りだ」

「我が指示した事は、間違いでなければ行動、協力するであろう?」

「うん…まぁ概ね…そうだ…」

「その関係は上司と部下のそれに近いでは無いか、我は間違っているか?」

「……いえ…バティン殿の言う通りかと……」

「ならば、部下であろう?」

「あ、はい…そうですね……」


(あ、レミエルさんも言い包められた。笑っちゃダメなんだけど…)


 クレアはニヤニヤとバティンとレミエルのやり取りを見ていた。

 自分がやられた事をレミエルもやられている。

 仲間ができて嬉しいクレアである。


「さて、具体的にどうするか協議しようではないか」


 バティンは言い、エルフを交えて話し合う。


 ナーリアの街へ行く途中に起きたエルフ誘拐事件。

 これぞ冒険の醍醐味である。とバティンは内心ワクワクしていた。





★★★★★



今の週間順位とか、上がった時にしかお知らせが来ないのをいつでも分かる様にして欲しいわ。

モチベーションに繋がると思うんだけどなぁ。(上がるとは言ってない)

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