第18話 盗賊?それとも…

 聖騎士の襲撃というとんでもないイベントがあったものの、その聖騎士が仲間になり間違った方向にパワーアップしたバティンパーティ。

 ようやく、ティオンからクロセスにあるナーリアの街へ出発することになった。


「してナーリアまではどの程度かかる?」

「徒歩ですと…途中村や町に寄って…1ヶ月くらいですかね?」

「そうだな、そのくらいだろう。しかし、徒歩とは…バティン殿は飛べないのか?」

「飛べるが、こういった道中も旅の醍醐味であろう?」

「ふむ、その通りだ!」

「だが、やはり時間は有限である。飛ぶとしよう」

「あぁ…やっぱりそうなりますよね…」


 バティンは1年という期限があるため、そうゆっくりとしていられない。

 断腸の思いで飛行という選択肢を取る。

 いつものようにクレアを抱え込む。


「バティン殿…それでは人攫いのようだぞ?」


 今クレアはバティンの肩に担がれている体勢である。

 成程人攫いに見えなくもない。


「ふむ、ではこうするか」

「わわわっ」


 バティンが取ったのは所謂お姫様抱っこである。

 クレアはいかなりの事に顔を赤くしてしまった。


「ふふっ、良いではないか。クレア殿も喜んでいる」

「そうか。では行くぞ」

「レミエルさん、揶揄ってますよね?」


 クレアはレミエルを睨むが、暖簾に腕押しである。

 バティンはその蝙蝠のような翼をはためかせ、レミエルは光の翼を作り出す。


「そのレミエルさんの翼、綺麗ですねぇ」

「そうだろう? 女神アストライア様から授かった私の能力なのだ」

「はぁ〜女神様ですかぁ。素敵ですね」


 クレアがレミエルを羨ましがっているとバティンが口を挟む。


「アストライアは随分と敬われているようだが、奴はズボラで怠け者であるぞ?」

「なんとっ!? バティン殿は女神様を知っているのか?」

「うむ。昔に天界と魔界で戦争があってな、その時に殺りあったことがある」

「と、とんでもないのだなバティン殿は…」

「へぇ、どっちが勝ったんですか?」

「無論、我が勝った」


 バティンさん凄いんですねぇ。などクレアはのほほんとしているが、レミエルからしたら途轍もない話である。

 法螺や嘘であれば良いのだが、恐らく本当の事なのだろう。

 レミエルは冷や汗が出るのを感じた。



 そうこうしているうちに、クロセスの領土に入る。

 この速度であればナーリアの街までもう直ぐという時にバティンは地上で何かを発見する。


「あの馬車、追われておるな」

「何っ!? バティン殿、何処だ!?」

「ほれ、あそこだ」


 バティンが指差した先には豆粒ほどの大きさだが、確かに馬車が走っており、その後ろに馬に乗った者が追いかけているようだ。


「あれは…盗賊の類かっ!? 待っていろ! 私が今行くぞっ!」


 馬車を見つけた途端にレミエルは速度を上げ向かっていく。


「あの人、ほんと真っ直ぐにしか進めないんですね…」

「個性があって良いではないか」


 個性で片付けて良いものかどうかはわからないが、バティン達もレミエルの後を追う。

 既に大剣を抜いてレミエルは馬車と追っていた者達の間に立っている。

 とりあえず、バティンとクレアは空から様子を見る事にした。


「貴様ら、一体何者だっ! 闘いの出来ぬ、行商の馬車を襲うなど…私は見過ごす事は出来ない!」

「な、何だ? お前は!? そこをどけっ!」

「断るっ! 私はパルテナの聖騎士レミエル! ここを通りたくば私を倒してから行け!」

「せ、聖騎士だと…!? クッ! 仕方ない…邪魔をするなら容赦はせぬ!」

「不味い、レプラっ! 奴が逃げるぞっ!」

「ちっ…! ここは俺が相手をする! お前らは追え!」


 レプラと呼ばれた男は弓を構える。

 そして、馬車を追いかけていた他の者達はレミエルを避け、馬車を追おうとする。

 が、レミエルはそれを阻止すべく動く。


「通りたくば私を倒してからと言ったはずだ!」


 レミエルの横を通り抜けようと動いた者は、その大剣の腹で打ち据えられ落馬する。

 その動きを見て、レプラは弓をレミエルに放つ。

 レミエルの速度に合わせた偏差射撃、凄まじい弓術。

 鋭い矢がレミエルを襲うが、人類でも最高水準のレミエルはその矢を掴む。

 飛んでくる矢を掴むなど、超人である。


「クソ…! 聖騎士が、何故邪魔をする、お前も奴の仲間か!?」

「知らぬ! だが、貴様らは盗賊だろう! ならば悪だ!! 弱きを助けるのは聖騎士の役目、さぁかかってくるが良い!」

「訳の分からない事を…人間め…」

「どうするレプラ? このままではもう…」

「諦めるな、行く先はナーリアの街だろう。ならばそこで奪還するまで」


 何やら盗賊ではないような雰囲気である。

 バティンもクレアも気付いたが、レミエルは止まらない。


「さぁ! 何をごちゃごちゃと言っている? 掛かってこい!」

「落ち着け聖騎士」


 いつのまにかバティンがレミエルの背後に降り立ち、その頭に手刀を落とす。

 突然の衝撃にレミエルはビタンッと音を立てて地面に突っ伏した。


「な、何をするんだバティン殿!?」

「此奴ら、盗賊ではないようだぞ。何やら事情があるようだ」

「あ、悪魔!?」

「悪魔が何故聖騎士と!?」

「クソ! 一旦退くぞ!」


 だが、バティンがひょいと手を下から上へ動かすと、周りを囲むように地面から板状の土が聳え立つ。


「逃げ道が塞がれた!?」

「貴様らも落ち着け。貴様らはエルフであろう? 何故このような人里近くに居る?」

「エ、エルフですか? 私初めて見ました」


 クレアが良く見ると、本で読んだ通りに確かに男達の耳先は尖っている。


「む、確かに耳が…成程、エルフの盗賊か!」

「聖騎士よ、お前は少し黙っていろ」

「バティン殿? なにをムガムガっ!?」


 バティンがまた何かしらの術をレミエルに掛けたのだろう。ムガムガと声が出ないようだ。


「バティンさん、それ何ですか?」

「この聖騎士がいると話が進まなそうなのでな。沈黙の魔術をかけたのだ」

「バティンさんっていっぱい魔法使えるんですねぇ」


 そんなやり取りを見て、エルフ達は戸惑っている。


「悪魔に聖騎士に…普通の人間…?どういう繋がりだ?」 




 ナーリアの街に着く前に起こった出来事。

 やはり旅はこういう事が起こるから面白い。とバティンは喜んでいた。

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