第17話 強制加入イベント

 倒れ伏しているレミエルをローヤーが聖魔法で癒している。


 放置して出発しても良かったのだが、恐らく回復したら再度向かって来るだろうと思い、ローヤーがいる今ちゃんと説得して貰おうと待っていた。


「う…此処は…?」

「気が付かれましたか?」

「ローヤー殿…? ……はっ! そうだ悪魔は!?」

「ここにおるぞ」

「ぬぅあああ! 死ねぇ!」


 起きた途端にこれである。

 レミエルは大剣で斬りかかろうとしたが、上手く身体が動かずすぐに倒れてしまう。


「ぐっ…身体が言う事を聞かん! 何をした悪魔めっ!」

「何も覚えておらぬのか? 手加減したのだが…司教よ説明してやれ」

「レミエル殿、貴方は先程この悪魔であるバティン様と闘い負けました。身体が動かないのはまだ回復しきっていないからでしょう」


 レミエルはローヤーの話を聞き、絶望した。


「負けた…この私が…?」

「はい、これからバティン様について説明しますので大人しく聞い―――」

「くっ! 殺せっ!! 悪魔に負けたとあっては国に顔向けが出来ん!」

「殺しませんから落ち着いて下さい。女神様の信託でこのバテ―――」

「だが私を倒しても第二第三の聖騎士か必ずお前を打ち滅ぼす! 覚悟して待っているのだな!」

「此奴はこういう病気か?」


 興奮して話を聞かない。

 とんだバーサーカーである。現状、説得出来る未来が見えない。


 ローヤーはいっそ殺しちゃった方が話が早いんじゃないか?と頭によぎったが、流石にパルテナの聖騎士を殺すのは不味いと思いとどまる。


「あ、バティン様。あの精神を落ち着かせる(?)術をかけたら良いんじゃないですか?」

「そうであるな」

「何ですか? 精神を落ち着かせる術とは?」

「まぁ、見ておれ」


 潰れた蛙のような体勢で喚いているレミエルの額にバティンは指を当てる。

 すると、先程まで煩かったレミエルが途端に大人しくなる。

 目は虚、口は開き涎を垂らしている。


「あの…バティン様…これは大丈夫でしょうか?」

「心配要らぬ、今のうちに説得すると良い」


 ローヤーは不安になりながらもレミエルに状況を説明する。

 その間、レミエルは「はい……はい……」と聞き分け良く聞いていた。


(あれ? これは洗脳という奴なのでは?)


 ローヤーは自分のやっていることが恐ろしくなった。

 女神アストライアに仕える教徒が、精神崩壊したものに洗脳を施す。

 まるで悪魔の所業を行なっている自分が悲しくなった。



 ―――


「成程。俄には信じられんが事情は理解した。未だ私が生きている事から真実なのだろう」

「はぁ…やっとわかって頂けましたか」

「だが、全面的に信じた訳ではないっ! いつこの悪魔が人類に牙を向くかわかったものではないからな」

「まぁ、それはそうですが…」


 レミエルに何とか事情を説明し、理解して貰えた。

 かなりの労力であったが、これで一触即発の危険は無くなった。

 しかし、レミエルはまだバティンを信用していないと言う。


 困ったローヤーはバティンを見る。


「我は人間を滅ぼすつもりはない」

「そうは言うが、『ハイそうですか』と信じることもできん。それはわかってもらおう」


 レミエルは悩む。

 この悪魔は危険ではあるが、今のところ緊急に何かするつもりはなさそうだ。

 しかも、魔王軍とも無関係だというではないか。だが、隠れて何かするつもりかもしれない。


 ウンウン唸っているレミエルを見てバティン達は長くなりそうだ。と思った。


「もう我等は行っても良いか?」

「そうですね…レミエル殿は考え事をしているようですし」

「では行くぞ娘よ」

「やっと出発出来ますね」


 レミエルを放置して旅に出ようとするバティン達。

 それをレミエルが止めた。


「ま、待たれよバティン殿」

「むぅ…まだ何かあるのか」

「私は考えた。貴殿は今の所問題を起こすような気は無い。だがそれをすんなり受け入れる事もまた難しい」


 問題は起こしているけどな。とローヤーは思ったが口には出さずレミエルの話を聞く。


「ならばどうすれば良いか! 近くで監視し、人間に危害を加えるようなら止めれば良い!と。貴殿達の目的地もパルテナという事であれば道中私も同行しよう!!」


 レミエルが仲間になりたそうにこちらを見ている。

 選択肢がでれば『いいえ』一択である。何で好き好んでこんな制御の効かない爆弾を抱え込まなければならないのか。


 しかし、残念ながらこれは強制であった。


「我ながら良い案だろう? 私は聖騎士であるし各方面にも顔が効く、貴殿達の旅の助けにもなろう」

「バ、バティンさん…何か私ヤバい気がします……」

「ふむ、まぁこれも貴重な経験であろう。そして、この聖騎士の言う事にも一理ある。人間界では聖騎士とは讃えられる存在なのだろう?」

「そうだ、バティン殿は良くわかっているな!」


 得られるメリットに比べてデメリットの方が重すぎて天秤が壊れてしまう。クレアはそんな気がしたがバティンが決めたのならまぁ良いかと考えるのを拒否した。


「では、よろしく頼むぞ聖騎士よ」

「ああ、任せて貰おう! 改めて自己紹介を、私はレミエル=ガルガリン。聖王国パルテナの侯爵ガルガリン家次女であり、聖騎士序列7位。年齢は21歳だ」

「我はバティン。魔界では公爵である。年齢は3000は超えているがもうわからぬ」

「あ、私はクレアです。えっと…16です」


 こうして、バティン達の旅に1人加わった。

 金色の猪、脳筋などの二つ名で知られる暴走聖騎士レミエルである。

 悪魔、聖騎士、一般人のチグハグはパーティの冒険は今此処から始まる。





 レミエルは直ぐ戻れと言われていた事をすっかり忘れている。

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