第16話 聖騎士襲来

「何かこちらへ来るようだな」


 バティンがそう言うので、クレアとローヤーも空を見る。

 良く目を凝らすと、昼間なのに輝く点が確かにある。


「星? ですかね? 昼間なのに」

「何でしょうね? 確かに星のようにも見えますが…」


 見ているとその星がどんどん大きくなってくる。


「え?」


 クレアがそう呟いた直後、その星は人型になりバティン達の目の前に着地する。


 光で出来た翼を持った騎士の恰好をした女性。

 流れるような淡い金色の髪、白銀に輝く鎧、背中に大きな大剣を携えていた。


「て、天使!?」


 クレアがそう見間違える事も無理もない、それほど美しい女性だった。


「貴様がこの世界に現れた強大な悪魔だな? 私が来たからには好き勝手にはさせんぞ」

「何なのだ此奴は?」


 ローヤーがその騎士を見て言う。


「せ、聖騎士レミエル……」


 ―――


 時は遡り、パルテナの国にて王に謁見している1人の騎士がいた。

 聖騎士レミエルである。


「急に呼び出してすまぬな」

「王命であれば全く構いません」


 王の前に膝を着き、礼儀正しく顔を伏せているレミエル。


「呼び出したのは、この世界に未曾有の事態が起こったからだ。先日、城の魔王軍監視者達がとてつもない魔力波を検知した。どうやら、魔王を遥かに凌駕するほどの脅威が現れたようだ」

「それほどの脅威ですか」

「うむ…。そこでレミエル。お主にはその脅威を確認して貰いたい。決して手出ししてはならぬ、様子を見て戻ってくるだけで良いのだ。光の翼を持つお主ならば然程時間もかからずに遂行出来るであろう?」


 レミエルは若くまだ21歳である。その若さで聖騎士に抜擢されるなど普通はあり得ない。所謂天才であった。

 その上、光の翼と言う固有の力も持っている。普段は魔王軍の攻撃の激しい地区に従事していた。


 緊急事態という事で、急いで戻ってきたレミエル。

 今、王から軽く説明を受けたが魔王を凌駕するほどの悪魔が現れたとなれば危機であるのは頷ける。が、どうにも信じられなかった。


「しかし、魔王を凌駕するなど流石に信じられませんが…」

「そうだろうよ。我も未だに信じられぬ、何か計器の故障では無いかと思っている。が、何もしないというのも本当だった場合手遅れになりかねん」

「教会はなんと?」

「それが信じられない事に『手出し無用』という事だ」


 レミエルは今日一番の驚きを見せる。

 仇敵である悪魔が現れたというのに、真っ先に対応するべき教会が手出し無用とはどういう事だと。


「驚くのも無理はない。我もつい先程教会からの使者から聞いただけだ。何か教会は知っているようだが、詳細まではわからぬ。そこでお主を呼びだしたのだ。その悪魔はエレクの国に現れたようだ、遠いがお主ならば行けるであろう?」

「エレクですか…3日もあれば着くでしょう。しかし、魔王を凌駕する程の脅威…腕が鳴ります」


 国王は「ん?」となった。

 様子を見てくるだけで戻ってくるように伝えたと思ったが…腕が鳴るとはどういう事だ。

 ちゃんと言ってなかったかな?と思い、再度王は指令を出す。


「レミエルよ、至急『様子を見て』参るのだ」

「承知しました! 人類の危機と有れば、この命に変えてもその悪魔を滅してみせます!」


 話が食い違っている。王は不安になった。


 レミエルは真面目である。がその真面目さ故に猪突猛進してしまう事が多い。

 同僚の聖騎士達からは『金色の猪』『脳筋騎士』『バカ』などあだ名が付けられていた。

 国王まではそのようなあだ名は伝えられておらず、ただ真面目な聖騎士という情報しか無かった。


「違うからな? 様子を見ですぐ戻ってくるんだぞ?」

「ご安心ください王よ。これでも聖騎士の中でも随一の実力者を自負しております。必ず脅威を排除してみせますっ!」

「あれ? おかしいな…何でそうなる? パッと行ってパッと帰ってくるんだぞ?」

「わかっておりますとも。出来る限り迅速にという事でしょう? であれば私はすぐに発ちます。では!」

「ちょ! 待てよ!」


 レミエルは光の翼を広げ、王の間の窓から飛び立っていった。

 残されたのはポカンと口を開けた王。


「…人選を間違えてしまった」



 ―――


 そして、休む事なく飛行しエレク国に入った際に、レミエルは黒い魔力を感知した。とてつもない魔力、成程魔王を凌駕するというのは強ち間違いではないかもしれない。

 だが、相手はただ1匹の悪魔。何とかしてみせる!と意気込んで感知した魔力を追って速度を上げる。



 そうして、レミエルはバティン達の前に降り立ったのであった。


「せ、聖騎士レミエル…」

「む? そこにいるのはローヤー司教殿ではないか。何故悪魔と共にいる?」

「それは今からせつ―――」

「悪魔に脅されているのだな!? だが、安心すると良い私が来たからには必ず救ってみせよう!」

「違います! 良いですか? この悪魔は―――」

「覚悟ぉ!!」


 話の途中でレミエルは背中の大剣を引き抜き、目にも止まらぬ速度でバティンに迫る。

 大剣が神々しく光り輝く。


 一閃


 だが、バティンは片腕でその大剣を止めていた。


「なに!? ちっ…流石は魔王を超えるという悪魔だ…強い」

「司教よ、此奴はいきなり襲い掛かってきたが排除して構わんな?」

「お、お待ち下さいバティン様! 今、今すぐに説得いたします!」


 レミエルは後方に跳びバティンと一旦距離を取ると大剣を正面に掲げ祈るように気を高める。

 先程よりも強く大剣が光輝く。


「我が奥義を喰らうがよい!」

「待ちなさい! レミエル殿!! 一旦話を聞いて下さい!!」

「問答無用! 滅せよ悪魔め!!」


 目が決まっちゃっているレミエルは空高く飛び上がり大剣を振り下ろす。


「話を! 話を聞けぇ!!」

「喰らえ! 聖光滅殺剣」


 レミエルの振り下ろした大剣は街のすぐそばに巨大なクレーターを作った。

 凄まじい威力である。

 レミエルの必殺技を喰らったバティンはどうなったのか?

 クレアが心配そうに叫ぶ。


「バ、バティンさん! 大丈夫ですか!?」


 土埃が晴れたとき、バティンはクレーターの中心に立っていた。

 バティンの周りを黒く透明な膜が覆っている。

 恐らく何かしらの術で防御したのであろう。


「ふむ、人間にしては中々の技である。お返しに我も見せよう」


 ダメ! 貴方は見せないで!!

 そんなローヤーの悲痛な思いは届かない。


 バティンが腕を上げ、振り下ろす。

 すると、上空にいたレミエルの頭の上の空間が歪み巨大な腕が振り下ろされる。

 家ほどもある大きさの巨腕。察知する間もなく、レミエルはその巨腕に撃墜され地面に叩きつけられた。


「し、死んだ…?」


 痙攣している様からどうやら死んで無いようだ。

 流石聖騎士、凄まじい耐久性である。

 闘いが終わりバティンが呟く。



「で、此奴は結局なんなのだ?」

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