第23話 裏オークション開始

 ホープ伯爵へ呪いの宝石を売り、資金が潤沢になったバティン達。

 やってきたオークション当日。


 夜も更けた時間にバティン達はある建物の前に来ていた。レプラはエルフという事で勘付かれると不味いので街の外に待機である。

 クレアとレミエルは目立たぬ様に服装を貴族が着るような物に変え、オークションに挑みに来ている。

 バティンはいつもと変わらず、胸の空いた黒いシャツに黒いズボン。胸元から見える鍛えられた胸筋がセクシーである。


 到着した先は図書館。

 勿論、営業時間は終わっており建物は真っ暗である。


「ここですか…? 図書館ですよね」

「うむ、伯爵より聞いた話によると此処で間違いなかろう」


 バティンは伯爵に聞いた通りに閉まっている図書館の入り口の扉を3回、1回、4回と順にノックする。

 すると、誰もいないと思われていた扉の奥から誰何の声がする。


「本日の業務は終了しております」

「用があるのは『地底の宴』である」


 合言葉を告げると扉がゆっくりと開かれる。

 扉の奥にいたのは、キチっとした黒い服に白いシャツを着た男性。

 仮面をつけており、顔は見えない。


「ようこそいらっしゃいました。どなたかのご紹介ですか?」

「これである」


 バティンが紹介状を差し出すと、恭しく受け取る仮面の男。


「確認いたしました。ではこちらへ」


 仮面の男がバティン達を案内するようだ。

 しかし、この男。バティンを見ても驚くこともなく平然としている。


「では行くぞ」

「クレア殿、今からでも遅くは無い。宿に戻ってはどうか…?」

「もぅ、何回言うんですか。私も行きますよ」

「しかし…」

「聖騎士。良いでは無いか、これも経験である」

「……バティン殿がそう言うのなら、もう言うまい」


 レミエルはクレアが裏オークションに行く事を反対していた。

 だが、クレアはついてくると言って聞かない。


 こういった非合法の場所は下卑た欲望や悪意、理不尽な暴力といった闇が渦巻いている。

 クレアのような一般人は、まずその雰囲気に耐えられないだろうとレミエルは思っていたため、伯爵の屋敷を出た時からクレアに提案していた。

 だが、バティンもそれで良いと言うし、クレアの決意も固そうなためレミエルは説得を諦めた。


 実際にはクレアは仲間外れが嫌なだけで、特別な決意を持って言っているのでは無かった。

 バティンはそれをわかっていたが敢えて止めはしない。




 仮面の男に案内され、図書館の司書室の更に奥の部屋。

 本が積み上げられ、整理されており倉庫のようだ。

 その倉庫の奥の棚にある本を引き抜き、別の本をそこへ入れると棚が動き、階段が現れる。


「す、凄い仕掛け…」

「こういった見つからないように厳重にしてあるのだ。パルテナでも似たような所に踏み込んだ事はある」


 聖騎士であるレミエルはこういった非合法組織を取り締まった事があるため経験済みであった。

 今回はあくまで伯爵から紹介された貴族という体であるため取り締まるつもりはない。


「此処を降りて真っ直ぐ行けば会場になります。では、お楽しみ下さい」


 そう言って、仮面の男はバティン達にも仮面を手渡し音もなく退がる。


「あの男、相当な使い手だな。暗殺組織の者だろう」

「暗殺組織…レミエルさん良く分かりますね」

「バティン殿もわかったろう?」

「む、我は気にしておらんだのでわからぬ」


 バティンにとっては一般人だろうが暗殺者だろうが、あまり変わらぬ矮小な存在であるため違いが分からなかった。

 そんなバティンに呆れつつもレミエルとクレアは階段を降りて行く。


 着いた先は、大きなダンスホールのような広い空間。

 そこにクレア達が手渡された仮面を持つ人達が大勢いる。


「うわ…図書館の地下にこんな所があるなんて…」

「かなり大きな組織のようだな」


 クレアが地下空間に驚いていると、1人の男性が声を掛けてきた。


「来たようだな悪魔よ」

「うむ。貴様の紹介状は役に立った」

「何、あの宝石を売ってもらえた事に比べればなんて事はない」


 伯爵であった。

 まぁ元々伯爵はオークションで呪物を収集したりしていたので居るだろう。


「ではな悪魔。望みの物が買えるといいな」

「うむ。貴様も良い呪物が有ればよいな」


 伯爵とバティンが話している間、クレアは周りをキョロキョロと見渡すするとある事に気付く。


「あの…レミエルさん。あの人って…?」


 クレアが小声でレミエルに問いかける。

 クレアの指差した先には仮面をつけた細身の男。だが、その皮膚の色は青黒い。


「恐らくだが…悪魔だな。どうりでバティン殿を見ても案内の男が驚かなかった訳だ」


 よく見ればチラホラと人間では無い何者かが混ざっているが、誰も気にしていない。


「そんな…良いんですか?」

「良いわけが無い。だが、これが人間の闇だ」


 レミエルは悔しそうに吐き捨てる。

 悪魔が普通に人間の街にいる、そしてそれを黙認しているなどあってはならない事だった。


 そんな感情を抱いているクレアとレミエルだったが、急に周囲のざわつきが収まり、奥のステージを皆が一斉に見る。


「どうやら始まるようだぞ」


 ステージに上がったのはピエロの仮面をつけた者。

 その道化が良く響き渡る声で告げる。


「皆様、今宵もようこそお集まり頂きました! ではこれよりオークションを開始いたします。どうぞ楽しんで言って下さい!

 それでは最初の商品から参ります!」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る