第11話 中間管理職の苦労

 いきなりこいつは悪魔だと言うバティン。

 レオポルドの外見は気弱そうな25歳くらい男性といった感じでとても悪魔には見えない。

 クレアはバティンが急に言い始めた内容にショックを受ける。


「この人が悪魔? バティンさん、どう見ても普通の人に見えるんですけど」

「見た目は術でいくらでも変えられるわ。魔力量から察するに下級の悪魔だろう。さて、貴様が呪われた人形を作っておるな?」


 レオポルドは青い顔のまま観念したように話し出す。


「わ、私は魔王軍所属の悪魔でこの街には監視のため来ております。人形に施した術で購入者の家へ入り込み、見聞きした事柄を魔王様へ報告する事が任務です…」


 衝撃の事実。

 魔王の手の者が既にティオンの街に入り込んでいたとはクレアは動揺を隠せない。

 バティンはレオポルドに続けて問う。


「そのような事はどうでも良い。貴様は中々手先が器用なようだな。1つ頼まれてもらおうか」

「頼みでしょうか…? 貴方様のような魔神でも達成する事が出来ない事を私のような下級悪魔が出来るとは思えませんが…」

「まぁ聞いてから判断せよ」


 バティンは異空間からバケツを取り出してレオポルドに渡す。

 受け取ったレオポルドは理解が追いつかない。何故バケツを?


「何故バケツを?」


 突然手渡されたソレに混乱し、つい心の声が出てしまった。


「バケツでは無い。兜だ。これの意匠の改変を頼みたい」

「ちょぉっと!! バティン様、バケツなんてどうでも良いじゃ無いですか! 魔王軍ですよ魔王軍! 一大事じゃないですか!?」


 クレアが常識的な事をバティンに言う。

 だが、それはあくまでも人間の常識でありバティンには通用しない。


「落ち着け娘。バケツではない」

「そこじゃない!! 魔王軍の悪魔です! 大変ですよ!!」

「そうらしいな。だが、我には関係無いことだろう。何をそんなに慌てておるのだ」

「いや、だって! ここは人間の街ですよ? 悪魔が居るなんてダメですよ!」

「我もいるが?」

「ああああ! そうじゃなくて!!」


 糞が! 話通じねぇなコイツ!! 心の中でクレアは汚い言葉で罵る。

 人間の常識だろうがとクレアは思ったが、直ぐにこの人悪魔だったわ。と気付いた。

 説得できる未来が見えない。


「あの、この者は人間ですよね? 先程従者と仰ってましたが」

「うむ、我の人間界の案内役である。中々面白い娘であろう?」

「はぁ……」


 どう見ても特殊な力も何も無い普通の小娘が、最上位の悪魔であるバティンにぞんないな口の利き方をしてバティンはそれを許していることにレオポルドは不思議がる。

 が、上位者の考えることはよくわからない事が多いためレオポルドは気にしない事にした。


「で、どうだ? 意匠を人間目線でおかしく無いように出来るか?」

「申し訳ありません。このバケ…失礼しました。兜は途轍もない魔道具と見受けられます。私程度では改良を加えるのは難しいかと」

「ふむ…そうか。残念だが仕方あるまい。邪魔をしたな」

「あの…それだけでしょうか?」

「そうだが? 何かあるか?」


 教会の人間に踏み込まれた時は素性がバレたかと思い、その上で上位の悪魔と2人にされ(クレアはみそっかすである)、何が起こるのかと戦々恐々としていたが、結果は何もない。

 レオポルドが疑問に思うのも無理は無かった。


「あの…バティンさん。流石に魔王軍は見逃せないって言うか…」

「別段この者が暴れたとしても、此奴の力は部屋の外にいる教会の小僧共で問題なく対処できるくらいである。何も問題あるまい」

「いや、さっきも言いましたけど、居る事が問題というか何というか…」

「むう、神経質であるな。仕方ない、おい貴様」

「はっ! 何でございましょう!?」

「この街から出て行くが良い。どうやら問題になりそうだぞ」

「それはもう、承知しております」


 一件落着である。と言わんばかりのバティンにクレアはため息しか出なかった。


 ―――


 人形師レオポルドは悪魔であった。

 クレアはかなり大きな声で騒いでしまったが、バティンが防音の魔術をかけており部屋の中の物音は外には漏れていない。


 部屋の外で待機していたラキバとイェクンと合流し、バティンは事の顛末は司教の所で話すと言い宿を後にする。


 そして、再び教会を訪れたバティン達を何やら疲れた表情のローヤーが出迎える。


「如何でしたか?」

「有意義であった。あと貴様に1つ伝える事が出来た」

「左様ですか…ではこちらへ」


 ローヤーと共に話し合いを行った部屋に入る。

 部屋に5人が揃ったところでバティンが宿屋での顛末を聞かせる。

 聞いたところでローヤーは頭痛がしてきた。


「まとめますと、魔王軍の手先がこの街にいて諜報活動を行っていた。という事ですか…」

「そうであるな」

「それでバティン様は何もせず、逃げるように促した。と」

「何やら娘が悪魔が居るのは問題だと騒ぐものでな。ならば街から居なくなれば良い」

「えぇ…強ち間違いでは無いのですが…」


 何してんの!?捕らえろよ!!

 そんな言葉をローヤーは飲み込む。だが、考えてみればバティンにとって悪魔は同族だった。バティン本人は魔王軍と関係ないし興味が無い。そのため「何か悪魔がいたら不味いみたいだから他のとこ行けば?」

 くらいの軽い気持ちなのだろう。


 いや、わかるよ?わかるけど、もっとこう…あるでしょ?

 ローヤーはやり切れない気持ちでいっぱいになった。

 そして、後ろに立っている若者2人を見る。


 お前らがついていったのってこういう事の対応だよね?


 と、目で訴える。

 が、2人とも物凄い汗をかき、ローヤーと決して目を合わさない。

 はぁ……と1つ幸せが間違いなく逃げただろうため息と共に諦めの言葉を吐く。


「もう…わかりました……。悪魔を発見したが逃げた、事故を未然に防げたという事で。良かったです…」

「そうか、良かったな」

「はぁ…これも報告しなければならないと思うと気が乗りません……」


 ローヤーはバティンと対話し目的を聞き出した後に教会本部に通信を入れ報告していた。

 その際も、観光目的とか馬鹿を言うなと叱責を受けていた。

 余りに本部の人間が報告を信じずに煩いので「だったら見に来い!」と啖呵を切っていた。

 本部とのやり取りで疲れ切った所に、この追い討ちである。

 酷すぎる、問題を起こすバティンが悪魔のように思えたが悪魔そのものだった。


「それでこれからのご予定はどうされますか? また旅立ちますか?」


 内心早くどっか行ってくれないかという気持ちが若干現れるようにローヤーがバティンに問う。


「うむ、我は冒険者というものにも興味がある」


 絶対何か問題が起きるような所をバティンは所望した。



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