第10話 従者爆誕

「の、呪われているですか!?」


 人形に呪いが掛かっているというバティンにエイビスは驚き、大きな声を出してしまう。


「うむ。微量だが呪術の波動を感じる。と言っても人に何か悪影響があると言う物ではない。コレは…『遠見とおみ』か『聴耳ききみみ』の術か」

「マジっすか? ちょっと見せて貰って良いすか?」


 バティンから手渡された鳥の人形をラキバが見る。

 色々角度を変えて見てみるが、良くわからないようだ。


「うーん…俺には良くわからないっすわ」

「中々巧妙に術式が施されているからな。解らずとも仕方あるまい」

「そ、そんな……呪われているとは…」


 何のためにこのような呪物を作ったのかはわからない。

 ただ、害は無いとは言え呪われた人形を扱っていたとはエイビスにとって寝耳に水である。

 あの人形師め、どういうつもりか。と憤慨しているとバティンから提案される。


「店主、この人形を買おう」

「そ、それは構いませんが……よろしいのですか?」

「その変わりと言ってはなんだが、コレを作製したという人形師を紹介して貰おう。興味が湧いた」

「もしかして…殺すんスかバティンさん」

「興味が湧いただけである。いきなり殺すのかだの貴様、我を何だと思っておる」


 いや、悪魔じゃん。10人中10人はそう思うでしょ。とはラキバは口に出せなかった。


 クレアは能天気に「どうしたんですか? あ、この人形可愛い」だのほざいていた。



 ―――


「ここであるか」


 エイビスから人形師の住処を聞き、到着したのはごくごく普通の宿屋。

 手には購入した人形を持っている。


 余談だが、人形の代金はクレアがお金を払うつもりだったがバティンは異空間から宝石を1つ取り出してエイビスに渡した。

 それを見てエイビスは腰が抜けるほど驚いて、クレアの仕入れも全てタダで良いと言う程の宝石であった。

 ラキバとイェクンは相当な価値のある物をポンと出すバティンに底知れぬ畏怖を抱いたが、クレアは単純に「やった!ありがとうバティンさん」と喜んでいた。

 2人の聖職者はクレアをアホの子を見るような目をしていた。


 それはさておき、人形師である。

 宿屋の扉を開けて一行が入ると、それを見た店にいた女将であろう女性が飛び上がるほどビックリし、青ざめる。

 なにかさっきも見たような光景である。


「婦人。ここに人形師がいると聞いた」

「あ、あ、悪魔!! た、誰か!!」

「あー…女将さん落ち着いて。この悪魔の方は危害を加えるワケじゃないんすよ」

「き、教会の人? なんで悪魔と一緒に!? どうなってるの!?」

「そりゃ、こうなりますよねぇ。私わかります」


 ラキバがまるで詐欺師のように口八丁手八丁で説明し、宿の女将さんは一応落ち着きを取り戻した。

 まだ、若干顔色が悪いが許容範囲だろう。


「そ、それで…偉い悪魔の方が何の用でしょうか……?」

「先程も言ったがな、人形師がこの宿にいると聞いて会いに来たのだ」

「に、人形師ですか…」


 さらに人形を見せ、呪い云々は隠したままエイビスの商会での出来事を説明すると女将さんは心当たりがあるようだ。


「もしかしたら、2階に泊まっているレオポルドさんのことかも知れません。3ヶ月くらい前から泊まられてまして、確かに人形を作っていたような」

「うむ、その者であろう。案内せよ」

「えっと…」


 悪魔を宿泊客に案内して良いものか女将には判断出来ず、ラキバとイェクンを見ると頷きでの回答だった。


「では、こちらになります。あの…出来れば殺人などはご勘弁頂けると…」

「全く……娘、説明してやれ」

「はい。バティンさんは良い悪魔さんなので大丈夫ですよ」


 何が大丈夫なのか全く説明になってないし、良い悪魔ってなんだ。と女将は思ったが、「どうだ!」と言わんばかりのクレアの顔を見て説明を求めるのを諦めた。



「この部屋になります。レオポルドさん!いらっしゃいますか?入りますよ?」

「あ、はい。どうぞ」


 部屋の中から許可が出たのでゾロゾロと入室する。

 こんなに人数が居るなど知らなかったレオポルドは目を見開いた。そして頭1つ大きいバティンの姿を見て、目を瞑り頭を振った後にもう一度見る。

 そして悲鳴を上げ、部屋の隅で丸まって震えている。


「毎回これやるんすか?」

「うむ。実は我はこのような反応も楽しんでいる。この者は中々良いリアクションをするな」


 まさに悪魔の所業である。


 未だに震えが収まらず、ガチガチと歯を鳴らし恐怖しているレオポルド。

 女将さんは仕事の為階下に降りた。


 部屋の中は数々の人形が並べられており、クレアは感動を覚えつつ人形を見て回る。

 レオポルドは未だに青い顔で下を向いたままである。


「どうします? なんか話出来る感じじゃないっすね」

「ふむ、貴様ら一度部屋の外に出るが良い」

「えっ? うーん…いやそれは…」

「出なければいけませんか?」


 イェクンが珍しくバティンに問う。その声は若干警戒の色が見える。


「後で説明はしてやろう。だが、今は出るがよい」

「……仕方ありませんね」

「あの、殺しはダメっすよ?」

「何度も言わせるでない。殺したりなどせぬわ」


 渋々、3人は部屋を出て行こうとすると、バティンがクレアを止める。


「娘。お前は残れ」

「え? 何でですか?」

「お前は我の従者であろうが」

「はいぃ!?」


 ラキバ達も「そうなの?」という目でクレアを見るが、本人は全く知らない、聞いてない。

 何勝手に決めてんだこの悪魔は。とクレアは憤慨した。


「じゅ、従者ってなんですか!? 私知らないですよ!」

「だが、お前は我の案内役であろう?」

「それは…そうですが」

「我に付き、諸々の説明や交渉を行うだろう?」

「まぁ…そういう感じかも知れませんけど」

「では従者と言っても差し支えないではないか」

「……そうかも知れません」

「では主人たる我の側にいなければならんだろう」

「…はい」


 論破された。逆らえなかった。

 ここに公式にバティンの従者がクレアであることが事実として誕生した。

 クレアを論破したバティンはさてとレオポルドに向き直り言う。



「貴様、悪魔であるな?」

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