第9話 呪いの人形

 教会内でローヤーとの話し合いも終わり、やっと街に繰り出す事が出来るようになった。


 ローヤーは疲れ切った感じで、2人教会から案内役を付けると言う。案内役というよりも監視の面が強いだろう。がバティンはそんな事は気にしない。


 話し合いが行われた部屋に入って来たのは若い青年が2人。


「彼らは教会でも優秀な若手です。ラキバ、イェクン挨拶しなさい」

「どうも、ラキバって言います。よろしくお願いしまっす」

「イェクンです。よろしくお願い致します」


 悪魔は絶対に人類の敵。という凝り固まった思想の年老いた教徒よりは柔軟な考えをもつ若者の方が良いだろうと思い、ローヤーは2人を案内役に任命した。


 ラキバは若干軽薄な感じを受ける金髪の青年。

 イェクンは短い茶色の髪の物静かな青年。という印象であった。


「ふむ、貴様らが案内役か。我はバティン、よろしく頼む」

「オッケーっす。そっちのかわい子ちゃんは?」

「わ、私ですかっ!? 私はクレアって言います」

「そっか、よろしくー」


 軽い、軽過ぎる。女神の信徒が悪魔に対してこんな感じで良いのか?とクレアは思いローヤーを見やる。

 ローヤーが目頭を抑えているのを見て察した。


「じゃ、早速行きますかぁ」


 不安の残る案内役を連れて、バティンの街散策が始まる。




「んで、バティン様達はどこに行きたいんすか?」

「うむ、娘よ説明してやれ」

「あ、はい。えーと、とりあえず私行商なんで売り物の仕入れに行きたいですかね」

「お、じゃあ良い所知ってますよー。イェクンもあそこで良いと思うよな?」

「ああ」


 どうやら、この2人の御用達の店があるようだ。

 クレアもそこまでこの街に詳しくないので任せる事にした。


 エレク王国にある街、ティオン。

 人口3万を超える王国内でも5指に入る栄えている街。

 行商や冒険者が多く、色々な店が構えられている街でもある。


 そんな街を歩くバティンら4人。

 バティンは背が高く、その容貌からどうしても目立つ。

 相変わらず街の住人の視線が痛いが、男3人は全く気にせずにスタスタと街中を歩いて行く。

 クレアは肩身の狭い思いで、出来るだけ陰に隠れながらコソコソをついて行くのであった。


 程なくして目的の店に着いた。

 かなり大きな商会の店である事が外観からわかる。


「とりあえず、ここなら何でも揃う感じっすね」


 そう言ってラキバは常連かのように入店する。

 バティンらも後に続いて店に入る。


「いらっしゃいませ、これはラキバ様、久しぶ―――っ!?」


 店員であろう人がラキバに挨拶をしている途中でフリーズした。

 理由は言わなくても誰しもがわかった。当人を除いてだが。


「あー、この人?悪魔?様は一応教会の客っす」

「バティンだ。色々な物が売っておるな。よしなに頼むぞ」

「さっ……左様で、御座いますか」


 笑顔を絶やさない所は流石プロである。

 足が震えているのは致し方あるまい。


「し、商会長を呼んで参りますので暫くお待ち下さい」


 覚束ない足取りで店の奥に行く店員を見送る4人。

 その間もバティンは興味深そうに売り物を見ていた。


 暫くして奥から恰幅の良い中年男性がやってくる。

 恐らく先程呼んでくると言った商会長であろう。


「と、当店の商会長を務めておりますエイビスと申します。こ、この度は当商会をご利用頂き―――」

「良い、店主よ。今日はそこの娘が仕入れをすると言うのでな世話になるぞ」

「は、はいぃ!」


 随分と緊張が隠せない店主。目の前に悪魔がいるのだ仕方ない事だろう。それでも恐怖で逃げ出さない所がやはり長たる所だろう。


「さ、さてお嬢さんは行商かな?」

「はい、私クレアって言います。小麦や果物、生活用品など仕入れたいんですが」

「ふーむ、その鞄はマジックバックかね?」

「あ、そうです」

「なるほど、そうだなぁ今は小麦が豊作だし儲けは少ないかも知れないね。果物なんかはウチもいっぱい仕入れているから安く卸せるよ?」

「店主よ、リグの実はあるか?」


 バティンが果物と聞いて横から口を出す。

 ビクっとなったエイビスだが、商売となると落ち着いて応える。


「リグの実ですか。勿論御座いますよ。今年のは良い出来なので非常に甘く瑞々しい上物で御座います」

「娘よ。多めに仕入れよ」

「バティンさん、リグの実好きですね」


 その後は知らんとばかりに店内を見て回るバティン。

 クレアはエイビスと仕入れについて色々話をしている。


 店内を物色していたバティンが雑貨が並べられた所で足を止める。そこは色々な動物の人形が置いてあるコーナー。

 その内の1つ、鳥の人形を手に取りエイビスに問い掛ける。


「店主よ、この人形は?」

「それらは最近街に来た人形師から仕入れた物です。中々精巧な作りでして子供から大人まで買う人は結構いらっしゃるんですよ」

「ふぅむ。そうか」


 バティンは人形を見ながら何か悩んでいる。

 そんな様子を見てエイビスも心配になり、何か不手際でもあったかと思いバティンに言う。


「な、何かありましたでしょうか?」

「そうさな…言い辛い事ではあるが…」


 と、溜めてから一言。


「この人形、呪われておるぞ?」

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