第6話 各々の反応

 時は少し戻り、バティンが山賊を排除した時。

 はるか遠くにある女神を信仰する聖神国パルテナの城。その一室では大変な騒ぎになっていた。


「と、トンデモない魔力係数です!!」

「これは…魔王を超えている!?」

「これは神話レベルではないか!」


 慌ただしく研究者達が声を荒げ、走り回り、計算をしていた。


 この部屋には、魔に連なる者、邪悪な者を感知する事が出来る大きな水晶がある。はるか昔、女神から賜ったと言われるアーティファクト。

 その水晶が突然震えだし、黒い光を解き放った。

 今、ある程度黒い光は落ち着いているが、1番強く光った際の数値を調べると人類史上見たことのない数値か弾き出された。


 これが何かの間違いではなく本当だとすると、人類はまず絶滅するであろう推測がされる程の数値であった。

 魔王よりも危険な魔神や邪神の類が現れたのではと緊急会議が開かれた。


「それで計器の故障ではないという事か?」

「わかりませぬ…今も強い魔力波は感知しているようですが…」

「ううむ…一瞬とは言え人類の未曾有の危機になり得る存在が感知されたということか…」

「如何いたしますか? 国王様が命じれば、精鋭で様子を見に行く事は可能ですが」

「仮にそんな存在がいたとして、我が国の精鋭で勝てるのか?」

「それは…測定の結果が正しければ難しいかと…ただ、全人類が共闘すればあるいは…」


 聖神国の王は頭を抱える。

 つい先日、女神からの神託がありこの国に異世界からの勇者が召喚されたばかりで皆慌ただしく動いていて無駄な人員は割けない。


「教会は何と言っておる?」

「それが…未だに何も…」

「間違いなく勘付いているはずだろうが! 何をしているのか!」

「申し訳ありません…わかりかねます」

「クソッ! 勇者育成に専念せねばならん時に…我が国にはおらんのか!? その脅威に対して勝てとは言わん、死なずに情報を持ち帰るだけで良いのだっ」

「それであれば、レミエルなら…恐らくは」

「…聖騎士レミエルを呼べ」




 ―――


 パルテナにある教会本部。

 女神アストライアを信仰するこの世界では広く普及している宗教。

 勇者の神託を下すのもこのアストライアからである。

 パルテナの王城と同じ様に教会にも激震が走る。


 すぐさま高位聖職者が集まり、協議が行われたが同時に神託が降りていた。

 その内容は驚くべきものであった。


『彼の者は最上位の魔神、手出しするべからず』


 女神は魔王よりも上位の存在であると告げ、それでも手出しをするなと言う。

 人類の敵である悪魔に対して何もするなとは考えられない事だ。しかし、神託は絶対である。

 人間が神の御心を全て知ることは烏滸がましい。

 女神アストライア様は人類の為を想って神託を下さったのだろう。


 女神を絶対視する教会はそれに従うまで。



 ―――


 魔王の居城にも同時刻、衝撃が走っていた。

 それもそうだ、自分達の上司の上司の上司に当たるような存在が人間界に現れたのだ。


「一体どういう事だ!?」

「ま、魔王様…この気配は…」

「恐らく公爵級だろう…しかしそのクラスが人間界に来るなど聞いた事が無いぞ?」

「まさか…人間側に神が降臨したのでは…? その対抗のためとか」

「神が現世に降りてくるなど、それも聞いた事がない。そんな事になったら、そもそも協定違反ではないか」

「しかし、それでは何のために…?」

「わからぬ…が、何か重要な使命があるのだろうよ。こちらから出向くべきか…しかし大袈裟にするのも不味いのかも知れん…」

「では、待ちますか。用があれば向こうから来るでしょうし」

「いや…何もしないというのもな…グザファンは今何処にいる?」

「グザファン様でしたら、今は南部連合の辺りかと」

「至急呼び戻せ」



 ―――


 天界。

 神々が住む、楽園。

 その楽園にある居城でアストライアは頭を抱えていた。


「えぇ…何でバティンの奴が人間界に来たの…? 絶対勝手に来たやつでしょコレ。何しに来たんだろ?っていうか、ダメでしょ来たら。ダンタリオンとかは知ってるのかしら?」


 アストライアはバティンの事を知っている。

 数千年前、天界と魔界の大きな戦争があった際に絶望の悪魔として有名であった。

 人類にどうにか出来るはずもなく、下手に触って爆発したらヤバい。とにかくアンタッチャブルな存在である。


「やっばいわ…目的がわからないわ。ドゥルガに様子見てきてもらおう。あ、神託もしとかないと危ないわよね」






 バケツが取れてしまったが為に各方面にバティンの存在が知られてしまった。

 こんな大事になっているのを本人は知らずにクレアを抱えて飛び、景色を楽しんでいるのであった。


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