第2話(改稿第三版)

 橘家から宿泊している高級ホテルに戻る最中、運転手を務めるマイクはロバートに話しかけた。

「提督、あの情報は国連軍の中もかなり上位の機密情報です。 もし一般にばれたりしたら、提督は機密情報漏えいで逮捕されますよ」

 マイクの心配にもバックミラーに映るロバートはどこ吹く風だ。

「橘家には、今何人の諜報員が警護に当たっているのかな?」

「今は、三交代で6人、指揮官もいれれば7人ですね」

 どこから情報が洩れるかわからない。 そのため橘 朱莉にも監視が付いている。

 まあ、第4航宙飛行中隊のアイドル?に何かあってはいけないと、老婆心で急遽つけられたに過ぎない。

「ふむ……。、予備としてもう6人程人員を増やしておいた方が良い」

「え? 何故ですか? それ程の人物とは思えません、ただの若い娘ですよ?」

「調査票は読んだ。 表面上は気丈にふるまってはいたが、あの子は弱い。

 下手をすると死ぬぞ。 特に宇宙で身内を亡くしたものに特有の喪失感に苛まれてな」

「それはどういう……」

「宇宙で死ぬと、遺体やネームタグは残らないからな……。 特に第4航宙飛行中隊の連中は遺品など残していない」

「あ!」

「わかったかね。 赤子もいる。 備えておいて損はないよ」

「直ちに手配します」

 マイクが通信機で、諜報部に連絡を入れる。

 ロバートは、自動車の窓から外の景色を見つめながら、先ほどあった女性、橘 朱莉の顔を思いうかべるのであった。

 何事もなく、彼の死を乗り越えてほしいものだが、一抹の不安が胸をよぎる。

 こればかりは経験したものにしかわからない。


 私の両目から知らず知らず、涙が溢れてくる。

でも、まだだ。 まだ翔ちゃんが死んだって決まったわけじゃない。

 最後に残っていたのはデータ記録媒体。

 どうやら通信端末用のものらしい。

 通信機器にデータ記録媒体を差し込んで、データをインストールする。

 インストールされたデータを見てみると、翔ちゃんの連絡先だ。

 このアドレスなら、宇宙にいる翔ちゃんにも繋がる。

 私は一縷の希望を胸に、翔ちゃんに連絡を取る。

 ピー、ピー、ピーと呼び出し音が鳴る。

 カチャッ

「暗号コードを入力してください」と問いかけがくる。

 暗号コードとは、国連宇宙開発機構に関わる人達が、国連宇宙開発機構事務局に届け出ることで得ることができる、家族や恋人等と通話できる証明みたいなものだ。

 焦る気持ちを抑えて、翔ちゃんに教わった暗号コードを打ち込んだ。

 これで翔ちゃんと話せる。

 もう、絶対怒ってやるんだから、こんな手の込んだ冗談なんて許してやらないんだから。

 しかし、通信端末の向こうからは何も聞こえてこない。

 どうして? なんで? 翔ちゃん、でてよ!

お願いだからでてよ!

 そして、無機質な合成音声が流れ始めた。

「速水翔平大尉は2XXX年12月24日に戦死いたしました。 

 ご冥福を祈ると共に、哀悼の意を捧げるものであります。 なお……」

 私の右手から、通信端末が落ちて、床を跳ねる……。

 航平の泣き声が聞こえる。

 お腹が空いたのかな? それともオムツなのかな? ご機嫌が斜めなのかな?

 航平を優先しなきゃいけないと感じてはいるけど、心が動かない……。

 もう何もする気もなくなっていく……。

「うっ、ううっ、うわあぁぁぁぁぁ…………。 ああぁぁぁ……」

 私はただただ、子供のように号泣する。

 涙が頬を伝い、床を濡らしてゆく。

 心の中に、大きな大きな喪失感だけが膨れあがっくる。

 翔ちゃん、翔ちゃん、翔ちゃん、翔ちゃん……。

 いなくなっちゃいやだ。 おいてかないで。 いなくなっちゃいやだ。

 おいてかないで。 いなくなっちゃいやだ。 おいてかないで。 いなくなっちゃいやだ。 おいてかないで。 私をひとりにしないで。 ひとりはやだよぉ、翔ちゃん。

 何度も何度も声にならない想いがあふれてくる。

 そして、私の心は壊れてしまった……。




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