残されたのは……。(改稿第三版・最終稿)
龍淳 燐
第1話(改稿第三版)
私の目の前には壮年の男性と青年が並んで座っていた。
国連宇宙開発機構、確か翔ちゃんが所属しているところだ。
でも、なんでそんなところの偉い人が訪ねてくるんだろう?
あの日から、翔ちゃんからの連絡もないし、連絡もできなくなってしまった。
だから、翔ちゃんのことを知っているだろうと思われるこの人達に聞けば、何かわかるかもしれないと思った。
でも、なんだか様子がおかしい。
その正体まではわからないけど、軽々に話かけることができない空気が部屋に充満している。
何となくだが、嫌な予感がした。
壮年の男性、国連宇宙開発機構、木星開発局の責任者ロバート・ハリソンさん
青年の方は、ロバートさんの秘書でマイク・コネリーさんというそうだ。
そのロバートさんが、部屋に充満した空気と同じような声でしゃべり始めた。
「速水 翔平さんのご家族である橘 朱莉さんとそのお子さんである航平さんにお伝えしなければならないことがあります。」
重々しい声に、身を震わせながら私は聞いた。
「国際連合軍宇宙軍、太陽系外縁部方面軍、第4航宙飛行中隊所属、速水翔平少尉は、現地時間2XXX年12月24日、午後20時23分、太陽系外縁部における作戦において戦死されました。
尚、この戦死に伴い、二階級特進し大尉に任じられ、国連軍従軍栄誉章、国連軍従軍戦士章など複数の勲章を授与されました。
お伝えするのが大変遅くなってっしまったこと、心よりお詫びいたします。」
そういうとロバートさんは深々と私に頭を下げた。
「え?」
今この人はなんていったの?
私には何がなんだか分からなくなった。
だって、翔ちゃんは宇宙飛行士でしょ? なんで軍に?
何で? どうして? 戦死ってどういうこと?
しかも1年以上前にって。
混乱で頭が真っ白になってしまって、考えがまとまらない。
ロバートさんの隣に座っていたマイクさんが、慌ててロバートさんに話しかけているけど、私には何を言っているのか全く頭に入ってこなかった。
「今回、私どもが貴方のところを訪ねたのは、彼の、そして彼らの最後の願いを叶えるためです。」
「……、最後の願い?」
「はい」
テーブルの上に置かれたものは十六部の書類と十六通の封筒、そして、データ記録媒体だった。
「その書類にサインをいただければ幸いです。 手続きはこちらで行いますのでご安心ください。」
私はますます混乱してきた。
そのうえ怒りまでもが込み上げてきた。
翔ちゃんが死んだって、冗談にもほどがある。
ただでさえ、私を妊娠させて居なくなった翔ちゃんを周りの人達は心良く思っていない。
私の意志で子供を産む決意をしたのに、みんなは翔ちゃんが私をそういう風に騙したんだろうといった。
そして、今度はこれだ。
「ふ、ふざけないでください。 翔ちゃんが死んだって、なんでそんな嘘つくんですか!
翔ちゃんは宇宙飛行士であって、軍人じゃない。
みんなして翔ちゃんを悪者扱いして、今度は死んだって
言っていいことと悪いことがあります! 帰って、帰ってください!」
「わかりました。本日はこの辺で失礼いたします。 ただ、その書類と手紙は故人の遺志によるものです。 どうか一読して頂きたい。 5日後の同じ時間に再びお伺させていただきますので。」
ロバートさんたちはそう言って帰っていった。
暫らく興奮していたけど、航平の泣き声で我にかえった。
生まれて1年にも満たない私と翔ちゃんの子供。
妊娠が分かったとき、周りの友人達は出産に反対した。
それは翔ちゃんが行方不明になっていたからだ。
連絡先も通信端末から抹消されていて、国連宇宙開発機構に問い合わせても返答が返ってくることはなかった。
翔ちゃんの家も処分されていて、どうにもならなかった。
友人たちは翔ちゃんに捨てられたんだから、わざわざ苦労を背負い込むことはないと中絶をすすめてきた。
そのうち、友人たちの口から翔ちゃんの悪口が他の人達にも広がった。
あの時の翔ちゃんの顔を未だに憶えてる。
私の身体を貪るかのように、何かを刻みつけるかのように、乱暴に求めてきた彼は、凄く辛そうな悲しそうな顔をしていた。
あまりに激しかったからだろう、いつの間にか気を失っていた私は、彼が私の頬を撫でながら謝っているのを朧げながらに聞いていた。
どうして謝るのと疑問に思いながら……。
航平にミルクと与え、オシメを交換すると多少は落ち着いてきた。
テーブルの上にあるロバートさんが置いていった書類と手紙、データ記録媒体を手に取った。
書類に関して一通り目を通してみたが、どれもが遺産贈与承諾書と軍人遺族年金等受領承諾書だった。
それが16部……。
1部は翔ちゃんのものだったけど、後の15部は全く知らない人達からだ。
やっぱり翔ちゃん、死んじゃったのかな……。
何だか実感わかないや。
次に手紙を開封して、読み始めた。
みんな翔ちゃんの上司や同僚さんだった。
同じミッションをこなすことになったが、命の危険が大きくて翔ちゃんにはミッションを降りろと言ったが、翔ちゃんは聞かなかったそうだ。
だから15人で話し合って、翔ちゃんの幼馴染で恋人である私に何かを残すこと決めたそうだ。
私を翔ちゃんの恋人と判断したのは、翔ちゃんの通信端末に私の写真が何枚もあったから、問い詰めて確認したらしい。
その結果として、16部のあの書類。
最後に翔ちゃんの手紙を開封する。
見慣れた翔ちゃんの文字、この文字が好きだなあ。
最初は謝罪からだった……。
宇宙に戻ってから、同僚や上司に叱られたこと。
未来を共にできないことへの謝罪。
自分のことは忘れ、誰か他の人と幸せになってほしいこと。
自分が唯一できること、残ったすべてを私に渡すこと……。
最後に別れの言葉……。
そして、翔ちゃんと私を中心に、15人の同僚や上司の人達が映った合成された集合写真が1枚。
同僚が作ってくれたそうだ。
もし、私と翔ちゃんの結婚式が行われたとしたら、絶対全員で式に参加するつもりだったと、行けなくなったのならせめて写真だけでもということだった。
重荷になるようなら、捨ててくれて構わないと書き添えられていた。
捨てられるわけない。
だって、私が望んでいた未来だったのだもの。
「翔ちゃん、会いたいよぉ……。 声が聞きたいよぉ……。 抱きしめてよ、翔ちゃん……。
私と翔ちゃんの子供が生まれたんだよ……。 航平っていうんだよ……。
寂しいよぉ……、死んじゃったって嘘だよね?
こんな手の込んだ冗談、いくらなんでも酷いよ……。」
私の眼から涙が溢れてきた。
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