第12話 通り抜けて、目を開けた時。
―半年後―
十月に入り、時は恋愛の季節。
秋だ。
この半年間で、白い羽根は、後十本ほどになり、黒い羽根は、三十本ほどに達していた。
そんな時、ある、出来事が起こる。
ある日の放課後、花弥は、同学年の、
「あ…えっと…俺、戸谷晴って言います。ずっと言ノ葉さんの事好きでした。付き合ってもらえませんか?」
花弥は、戸谷の事を知っていた。
何故なら、戸谷は学年でも人気のある男子で、花弥もこうして戸谷が裏庭や、放課後の教室で告白されているのを見たことや、友達から聞いたりしていた。
だがしかし、戸谷は誰かと付き合っているという噂は聴かなかったし、誰の告白も断っているらしい…と聞いていた。
その理由が今、自分がこうして告白されている事で、納得した。
「…ごめんなさい。私、好きな人居て…」
「あ…それって…もしかして、同じクラスの叶?」
「え?なんで…」
「いや、叶ってあんまし目立たないし、男らしい所とかもなさそうだし、叶の事が好きなら、叶より、俺の方が言ノ葉さんを幸せにする自信あるから」
花弥はその言葉に、不快感を覚えた。
「祐一君は戸谷君が思ってるような人じゃないと思う。あんまりその人の事知らないのに、悪く言うのは良くないよ」
そう言うと、花弥はその場を離れた。
ある目撃者がたちがいた事に気付かずに。
次の日、花弥は、また校内の裏庭にいた。
今度、花弥を呼び出したのは、三人の女子生徒だった。
「あの…話って何?」
いきなり、訳も分からず呼び出され、花弥は不安が胸を締めた。
「昨日の何?」
「へ?」
突然、昨日の話になり、『何?』と言われても、花弥には心当たりが見当たらなかった。
昨日あった事と言えば、戸谷のからの告白だ。
それと、関係あるのだろうか?
どんなに想像しても、それ以外思い浮かばない。
「なんで戸谷君にあんな言い方したの?」
「そうよ!その人の事良く知らない悪く言ったのはあんたの方じゃん!」
「戸谷君、すごい落ち込んでたんだから!謝ってよ!」
やっぱりだ。
この女子達は、昨日、告白してきた戸谷晴のことが、どうやら好きらしい。
それで、昨日、裏庭まで戸谷と花弥をつけて来たのだろう。
(いらやしいな…)
花弥はその女子達事をそう思った。
「でも、私……ッ!!」
ほとんど弁解できないまま、その女子の一人に頬を叩かれた。
「何してんだよ!」
そこにヒーローのように現れたのは、戸谷…ではなく、祐一だった。
「叶…!」
三人は、祐一の登場に、怯む…どころか、祐一にも敵意を向けた。
「祐一君…!」
「叶!あんたなんて戸谷君と比べれば全然男として魅力ないんだからね!このぶりっ子と一緒に引っ込んでてくんない!?」
「僕がいつ戸谷に何かした?花弥ちゃんが自分の心に嘘つくような行動をとって、君たちが言った通りに戸谷と付き合えば、花弥ちゃんには何の不満もない訳?そう言うの、やつあたりって言うんじゃないの?」
「…!!」
祐一の言葉に、言い訳に困ったのか、三人は裏庭から走り去って行った。
「大丈夫?花弥ちゃん」
「あ…うん。大丈夫。もう!なんなの?あの子達…。三人ともフラれればいいのよ!」
グググ・・・―…。
祐一の左の肩が続けて重くなった。
(明日にはあの子達フラれるな…戸谷って奴に…)
祐一はもうこの羽根が何なのか、確信していた。
半年間、ずっと花弥の言葉と、自分の羽根の関係を見守ってきた。
この羽根は、花弥の言葉通り、よくも悪くも、それを叶えてしまうのだ、と。
そんな祐一の変化に初めに気が付いたのは、守だった。
―二週間前―
「裕!お…っず?」
「あぁ、おはよう、守」
「裕、お前、なんかやつれたっぽくない?」
「え?そう?別に。大丈夫だよ」
…嘘だった。
最近、顔色も優れないし、体中気怠くて、力が入らない。
特に左の手足が…。
原因は解っていた。
花弥の為に抜けていく、みぎの白い羽根は生気を少しずつ奪っていくようだったし、左の黒い羽根は、まるで祐一の体を闇に誘うように、地面に吸い付くような重さ
で、歩くのも正直危うかった。
「いや!絶対変だって!俺、お前とは十年はつるんでるんだぜ?隠し事なんかすんなよ!」
「…」
言えるはずがない。
言っても信じてもらえるはずがない。
信じてもらえたとして、そのことで万が一花弥が責められ事態になってはならない。
そう、祐一は思っていた。
「秋口でちょっと風邪ひいただけだよ」
「裕…」
守は、祐一の嘘に気が付いていた。
祐一は、見た目、第一印象こそ頼りないが、本当はすごく正義感に溢れ、自分の芯をしっかり持っている奴だと。
そんな祐一がこんな風貌になってでも嘘をつくのは何故なのか、その嘘とは一体何なのか、自分で言うのもなんだが、守は、祐一にとって、一番の親友だ、と思っている。
だからこそ、自分にまで嘘をつく祐一が心配でならなかった。
「裕、なんかあれば遠慮なく言えよ?ダチだろ?」
「守…うん…ありがとう」
祐一も守の事を一番の親友だと思っていた。
それに嘘はない。
しかし、自分はこの羽根のせいで…花弥の言葉のせいで、もしかしたら死ぬかもしれない…などと言えるはずもなかった。
死が近い。
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