第10話 予感。

「楽しかったね!ライヴ!」

「…」

「祐一君?」

「え…?」

「楽しくなかった?あいみょんのライヴ…」

「あ…楽しかったよ!すごい盛り上がったよね!」

しかし、頭の中では羽根の事しかなかった。

そんな祐一に、

「うん!でも、ごめんね」

花弥の顔が少し沈んだような顔をした。

「え…」

(花弥ちゃん、何かしってるの!?)

祐一は少し期待した。

「チケット代まで出してもらっちゃって。今度、お礼するからね♡」



ライヴの後の興奮冷めやらぬ、と言った花弥の嬉しそうな横顔に、何も問いかけるも出来ず、花弥とは別の汗を搔きながら、自分の羽根に関する仮設に呆然とする祐一。

でも、解らない。

ある日、突然、この白い羽根が生えた理由、抜けていく軽さ。

そして、不気味に肩が地に着きそうなほどの重みを携え、生えてくる黒い羽根が生えてくる意味も…。

この羽根は自分に何を訴えかけているのか…。

自分が考えている通り、まさか、自分の命に係わるものなのか。

それとも、本当にこれは自分の妄想で、こうしている今も夢の中なのか…。



「じゃあ、ここで」

「へ?あ、もう駅か…」

「なんか変なの。ライヴの後ずーっとぼーっとしてるね。祐一君。よっぽど力使い切った?」


祐一の冷や汗を勘違いして、悪戯っぽく笑う、花弥。

そんな花弥のせっかくの気分を損なわないように、祐一は最後の力を使って、笑って言った。


「あー!本当に楽しかったね!終わっちゃって、もっと聴きたかったな。でも、グッズも買えたし、また花弥ちゃんといろんな人のライヴ、いけたらいいなぁ」

「本当だねー!本当にありがとう!また明後日学校でね!」

「うん!じゃあね!」




半分スキップの花弥の後ろ姿を、駅の中へ入るまで見送ると、祐一はその場にへたり込んだ。



祐一の推理はこうだ。



抜けて行く白い羽根は、花弥が客観的にを言葉にした時生えてくる。


と言うもの。


それは、果たして当たっているのか…。

もしも、そうだとして、何故、花弥がなのか。

どうして自分なのか。

そもそも、何故、高校生になった日に、羽根が生えたのか。そして、この一本ずつ減ってゆく白い羽根が、もしも全部抜けたのなら、どうなるのか。

黒い羽根が最初に生えた、白い羽根に合わせて生えているのだとしたら…。







羽根が生えた朝、祐一は恐ろしい想いを堪えて、背中に鏡を当て、羽根の数を数えられるだけ数えた。

それこそ、背中の一番奥の羽根さえも。

その数、白い羽根、約五十本。

黒い羽根、無し。

その法則で一番予想しやすいのは、白い羽根は、花弥が何かいいことを言葉にした時に生え、逆に、黒い羽根は、花弥が何か不満や、怒りを、口にした時。


ライヴの後、今まで抜けた本数と、今、この背中に残っている羽根を数えてみた。

白い羽根は、抜けたのは、多分、白が二本。

黒い羽根が生えたのは、これまた、二本。



先ほどの予想にかぶせると、白い羽根には幸運があり、抜けきったとき、花弥か、祐一のどちらかに、至福がある。


そして、黒い羽根には、不幸があり、朝数えた羽根が、右の羽根と違って生えてくるという事は…あの羽根が生えてくる時に、肩が地面に呑み込まれるような、感覚からして…。


じゃあ、黒い羽根が五十本生えそろったら、何が起こるのだろうか?





それが、自分の考えと違ってくれてればいい…。

どうか、違っていてくれ…。



その夜、枕を抱き締め、祐一は震えながら、男らしくもなく、何百滴も涙を流しながら、眠った…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る