第9話 背中 重たし 黒い羽根。
…嘘だった。
祐一は自分の背中が軽くなったのと、椅子の下に消えて行く白い羽根を見逃さなかった。
(なんで?花弥と羽根…本当に関係してるのか?)
グッと不安が圧し掛かってきたその時、救いなのか、不幸なのか、低い声が祐一と花弥との後ろから聞こえた。
「へーあいみょんのライヴ、行くんだ?花弥ちゃんと?」
「あ、ま…もる」
「あ、おはよう!平井君!」
「おはよう、花弥ちゃん、ちょいこいつ借りて良い?」
「へ?あ…うん」
きょとんとした花弥を置いて、守は祐一をトイレに誘った。
「なんだよ、祐一…お前も所詮ダチより女かよ…俺は寂しいぜ」
「ごめん!でも、守も聴いてただろ?あの時はもうあぁ言うしか…って守!ちょっといい!?
「あん?良い訳?いいよもう俺もお前がチケット代だすって言うから行くみたいな緩い約束だったし?」
「違うんだよ!また羽根が…!」
言いかけて、祐一はハッとした。
こんな話、守にしてどうするんだ?と。
「は?羽根?」
「あ…いや、その…」
「なんだよ。言いかけてやめんな、気持ち悪いだろ?」
「や…はっ跳ね上がっちゃうだろ?チケット代。花弥ちゃんと行くやめろって言うなら、チケット代倍払えよ!」
「なんだ、そんなことか(笑)いいよ、冗談だって。二人で行って来いよ!」
「あ、うん…ありがとう」
その羽根の不気味さに、咄嗟に守に聞いてほしくなった祐一だったが、自分でも信じられないのに、守が、他人がこんな話信じてくれるはずない。
冗談か、夢でも見たか、頭がおかしくなったのか、そのいずれかに自分は属されてしまうまでだ。
「お!予鈴だ。教室行こうぜ!」
自分の異常事態を誰にも誰にも言えない祐一は、一人、脂汗を搔きながら、守に言われるがまま、教室に戻った。
「あ、話終わった?もしかして、あいみょんのライヴ、平井君と行く予定だったり?」
「え?違う違う!花弥ちゃんと一緒に行くって言ったら、嫉妬してきただけ。花弥ちゃん可愛いから」
「可愛い?私が?ヤダなぁ…からかわないでよ、裕一君ポくないな」
照れる花弥をほんの少し無視する形で、席に着くと、すぐ先生が教室に入って来た。
規律と礼をして、授業が始まっても、祐一の汗は引かなかった。
(関係…ないよな…?)
「祐一君!お待たせ!!」
あいみょんのライヴ当日、祐一と花弥は会場の近くのコンビニで待ち合わせをした。
「あ、花弥ちゃん。まだ時間あるんだからそんなに走らなくていいよ!」
花弥が、余りに慌てて走ってくるから、祐一は優しく微笑みながら制止した。
「あー!すごい今日楽しみだったんだ!私、祐一君と会ってから良い事がいっぱいで一生分使っちゃった気がする!!」
「そんな…たまたまだよ」
ふっと笑って見せたが、祐一は一週間前から生きている心地がしなかった。
花弥がガッツポーズをした瞬間抜けた白い羽根の事が気になって仕方なかった。
花弥と羽根。
この二つは、何か関係している…。
そんな気がしてならなかった。
と言うより、好きなミュージシャンの話をする前の、花弥の体験が、自分に妙にシンクロしていることに、もう関係があるとしか思えなかった。
しかし、だからと言って、花弥に何をどうすれば良いのか、何をやめろと言えば良いのか、答えは宙ぶらりんだ。
コンビニでジュースを買って、二人は会場へ向かった。
ライヴが始まり、会場は大いに盛り上がってた。
祐一もこの時ばかりは羽根の事を忘れ、花弥とジャンプをしながら楽しんでいた。
が―…、
盛り上げれば盛り上がるほど客はヒートアップしてくる。
花弥の後ろの男らしき人の肘が、花弥の顔面に当たった。
「痛っ!」
花弥がよろめいた。
何があったのか…。
「何よ!謝りもしないで!足でも踏まれれば良いのに!」
「花弥ちゃ…」
と花弥の何気ない不満の声が、大音量のあいみょんの声が、すっと耳から抜けていった。
すると…、
「イッッテ!足踏まれた!!」
花弥の隣の男が苦痛を浮かばせ、そう言い放った。
その瞬間、祐一の背中が、さっきまで花弥とジャンプするくらい軽かった背中が、グッと重くなった。
(冗談だろ…)
ステージと違って薄暗い客席で、ジャンプをするのをやめ、祐一は、自分の左の肩甲骨あたりを手で必死になって探った。
「二本だ…」
そう、花弥の、不思議体験の時シンクロした黒い羽根が、どうやら…いや、間違いなく、一本増えていたのだ。
そこからのライヴ…どころか、自分が何を、どうしていたのか…祐一は何も憶えていなかった。
ただ、隣にいる花弥の姿ははっきり覚えていた。
こっちを見向きもせず、あいみょんの、“生きていたんだよな”を涙を堪えながら聞いている、花弥の姿だけは。
これはもう偶然では済まされない。
祐一が花弥を励ますように言った、たまたまある超能力っぽいものでも済まされないだろう。
自分に一体何が起こっているのか、さっぱり解らないが、只、一つだけはっきりしたのは、この羽根を抜いたり生やしたりしているのは、花弥の…花弥言葉だということだけだった。
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