第8話 …嘘だろ。
「おはよう。祐一君」
朝の教室で、花弥の声が祐一の背中越しに聞こえた。
「あ、花弥ちゃん、おはよう」
「はぁ…」
「どうかしたの?花弥ちゃん」
「祐一君こそ」
その質問に、花弥は少しためらったが、昨日起きた事を祐一に話す事にした。
「実は…昨日の帰り道、元カレに会ったの。そしたら、もう彼女いて、彼女が出来るのが速すぎる…って言うのもあったけど、その彼女に傷つくようなこと言われて、それで…私つい…、その彼女が傷だらけになればいい…って思っちゃったんだ」
花弥は少し目に涙を浮かべて、罪悪感に苛まれていた。
それでも、その後かかってきた慎吾の電話の事も祐一に聞いてほしかった。
「でもね、ちょっと不思議なの。私が傷だらけになればいいって口に出したら、本当にそうなっちゃって、それから、後悔して…って言っても奇麗ごとかも知れないけど、本当にそうなっちゃって、言っちゃいけない事言っちゃったな…って心苦しくなって『早く治ると良いな』って口に出したら、元カレ…三島君て言うんだけど、電話あって、その彼女が意識を取り戻したって聞いて、ホッとはしたんだけど、余りにも私の言った通りになったみたいで、少し怖くて…」
この時、祐一は、花弥の言葉に返事をするのを忘れ、昨日、自分起きた出来事を思い返していた。
(桜の花びらを花弥ちゃんにあげた時、確かに羽根…一本抜けたな…)
じゃあ、なんだっていうのか…、それは祐一も解らなかった。
しかし、傷だらけになればいいのに…と言ったという花弥の言葉に、自分の左の背中に生えた黒い羽根が何か、花弥に結びついているように感じてならなかった。
「祐一君?」
「あ、ごめん!ちょっとぼーっとしちゃって」
「私の考えすぎかな?」
(僕の考えすぎだよな)
心を落ち着かせた祐一は、花弥に言った。
「人間って時々、自分は超能力者じゃないか?って思う事あるじゃん?例えばある、ミュージシャンの曲をたくさんスマホに入れててさ、それをランダム再生ていたとして、次この曲聞きたいな、って思ってたら、本当にその曲が聞きたいなって思ってたら、本当にその曲がかかったりするとか」
「うんうん」
「それに初めて会った人なのに、この人こんなイメージだな、って何となく分かったりするでしょ?言葉に出して、それで『見透かされた!』って思う人もいるし。僕だって、花弥ちゃんと初めて会った時、『照れ屋さん?』って言われて図星だったし。そう言うものじゃないかな?その…元カレさんの事とかも」
「そっか…、そうだよね。うん。ありがとう」
花弥は、ちょっと頼りなさそう祐一の、第一印象に似合わない、意外と冷静なアドバイスに、自分の体に纏わりついていた、どんよりしていた空気が放たれた気がした。“自分のせいじゃない”と客観的に見る事が出来て、少しほっとしたのだ。
ホッとしたのは花弥だけだった。
祐一は“考えすぎ”と思っていても、花弥『あまりにも自分の言った通りになった』と言う言葉が、頭の端っこに引っかかって仕方なかった。
そう。
まるで自分の羽根が抜けたり、生えたりしているのが、花弥の言動に繋がっているように思えてならなかったのだ。
けれど、そこに直結する証明は出来そうになかった。
しかし…、“考えすぎ”で終わるしかなかった。
「ねぇ、祐一君はどんなミュージシャンが好きなの?」
花弥が祐一の言葉に納得し、安心できたのか、突然話を花弥変えて来た。
「え?」
「あ、ほら、今祐一君そんな例え話してくれたでしょう?だから、なんか聞いてみたくなって」
「あぁ…」
何だか何でもないのに、祐一はホッとした。
祐一の中では、繋がりのなかったなかった話の切り替えにも、花弥の中には繋がりがあったのだ。
「ねぇ、誰が好き?」
「最近よく聞くのは、back numberかな?女性ならあいみょんとか?」
「え!?あいみょん聞くの?なんか意外!」
「友達にもよく言われる(笑)“風のささやき”とか結構好きだよ」
「へー!なんかその選曲も渋い(笑)私なら王道の“君はロックを聴かない”とか好きだなぁ。」
祐一が仮定の話でちょっと触れただけの事で明るい表情になれる、花弥の素直さに、祐一は少しづつ恋と言うものに触れる時間が早まって行った。
「あ!来週Tドームであいみょん来るんだよね!私まだファンクラブに入ってなくて、チケット取れなかったんだよ。行きたかったなぁ…」
「あ、僕チケット持ってる!
「え!?本当!?何枚取れた?もう誰かと行く約束しちゃった!?」
花弥がものすごい圧をかけて祐一に食いついてきた。
実は、守と行く約束をしていたが、ここはもうこういうしかない。
「二枚!まだ、誰も誘ってないよ!!良かったら一緒に行かない?」
「え!?良いの!?やったー!!」(やった!花弥ちゃんとデートだ!!)
心でガッツポーズをした、その瞬間、祐一は、花弥と、羽根のとの結びつきを目の当たりにすることになる。
「え…?」
不意に聞こえた祐一の声に、花弥がガッツポーズをしたまま祐一の方に振り向いた。
「どうしたの?祐一君」
「イヤ、なんでもないよ」
…嘘だった。
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