第7話 黒。

あんな風に、花弥と再会してしまい、茉莉は“言わないでくれ”と叫びたくなるほど、慎吾の気持ちとは真逆の心境を花弥にぶつけた。



【花弥!助けて!】



茉莉が事故に巻き込まれた時、慎吾はそうそう叫びたくなった。



しかし、花弥は自分の言葉通りの事が起きてしまってそれどころではではなかった。

慎吾も、花弥の瞳に、驚きと一緒に何処か後悔の欠片が見えた気がして、茉莉に対して良くない想いをもったのだと気が付いた。


それが、すぐ花弥は、そして、それがすぐ花弥自身への棘として化しして、刺さった事にも。

すべて、自分が蒔いた種だ。

こんな時まで花弥に“助けて欲しい”と言えるはずもなかった。

だからなのか、怖くて、震えて、茉莉の名前を呼ぶしか出来なかった。呼んでも呼んでも、目を開けない茉莉に、恐怖で思わず花弥に目で追うと、花弥は友達三人で、携帯をいじりながら、三人ともショックで、救急車を呼ぶのも精一杯で、後は救急車が来たのを確かめて、去っていくところだった。




「…ごめん…花弥…」




そう言った瞬間、ピクリと茉莉の小指が動いた。





茉莉が病院で目を覚ました頃、花弥の携帯が鳴った。

画面に映ったのは慎吾の番号だった。

出ようか、どうしようか、少しためらったけれど、花弥は勇気を出して出して、出る事にした。

「もしもし…」

「あ…花弥…?俺。慎吾」

「…うん…」

「ごめんな、今日。茉莉、さっき、意識取り戻したから」

「え!本当!?」

「あ…うん。やっぱり花弥、心配してくれてたんだな」

「それは…私、あの時…」

(偶然だとは思うけど、傷つけばいいのになんて思っちゃったから…)」

とは、言えなかった。

「傷…つけたよな?ごめん」

「え?」


突然の慎吾の謝罪に、花弥は困惑した。

てっきり、今日茉莉に言われたことを、慎吾の口からも聞かされるんだろう…と思っていたからだ。

しかし、慎吾は、なにも包み隠さず、この一年間で起きた事を話した。

花弥の事は、最初はノリだけだった事も、自分と比べて優位に立ちたかった茉莉の性格も、それでも最後まで、何処かに生まれていた、花弥を好きでいてくれた慎吾の事も、傷つきながら、涙を流しながら、幸せを想いながら、聞いた。



けれど、もう元には戻れなかった。

“戻らなかった”と言った方が良いだろうか?

慎吾を本当は好きでいてくれてない茉莉を、この先、慎吾が好きで居続けられるかは、誰にも解らない。

「なぁ、花弥、俺…」

その言葉を遮り、

「慎吾君、茉莉さん…ちゃんと慎吾君の事好きになってくれると良いね」

慎吾は何も言えなかった。


「うん…ありがとう。花弥、助かった」


そう言って、電話を切り、慎吾は茉莉の待つ病室へ戻った。

そして、信じられない言葉を、茉莉の口から零れて落ちて、涙も耳にしたり堕ち、顔を歪ませ言った。

「茉莉?どうした?」

「…ごめん。慎吾。あたしの身勝手で慎吾をあの子から奪ったのに、慎吾の事ちゃんと大事にしなくって…、だから、これが罰だったんだと思う。これからは、ちゃんと、慎吾の事好きになるから…絶対」

「茉莉…」

(あいつ〈花弥〉超能力者じゃね?)

慎吾は思った。

これは、花弥の起こし最大の奇跡だと。

茉莉は今までとは比べ物にならないほど、澄んだ瞳をしていた。

プライドが高くて、人の気持ちなんてどうでもよくて、自分がどれだけチヤホヤされるか、そんな事ばかりに気を向けていた。

そんな茉莉が涙を流しながら慎吾に告白してくれている。

…本当に花弥が茉莉を変えたんじゃないかと錯覚するほど。




けれど、コトノハかに花弥も知らない、花弥の言葉、の力だった。

そのコトノハは容赦なく祐一の羽根を抜いてゆく。




そして、この日、祐一の白い羽根は黒い羽根が生えた。




その先にあるのは一体何なのか、この時は誰も知らずにいた…。

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