第6話 終わった事。

「…もしかして…私のせいかな?」

「え?」

入学式の帰り道に慎吾の彼女、茉莉が事故に遭い、救急搬送された病院で、命には別状ないと言われたが、意識不明の状態が続いた。

「だって…私が『傷だらけになればいい』なんて言ったから…」

「まさか!偶然だよ!」



病院へ向かった救急車を見送ると、花弥はなんとも後味の悪いを想いを抱えていた。その花弥に、寛子と凛は、必死であらゆる形で傷ついた花弥をかばった。



「てゆうか、あの人よくなかったよね、あの子」

寛子が茉莉の印象ついて話出した。

「うん。なんか自信過剰っぽいし、人を見下してるって言うか…、だから、自業自得だよ。気にしなくていいって、花弥」

「う…うん」



花弥は涙を必死でこらえ、自分の愚かな言葉が現実になってしまった事に、深く後悔した。


「茉莉って人…早く良くなると良いな…」

花弥は呟いた。




花弥が『早く良くなると良いな…』と、呟いた次の瞬間、茉莉は病室で目を覚ました。




その時、茉莉も慎吾もそして花弥も知らないところで、ベッドの上でうなだれた祐一の背中から、白い羽根がまた一本抜けた。

黒い羽根で重たくなった体を少しでも軽くするように。




「茉莉!」

慎吾と、茉莉の両親が茉莉の顔を覗き込んだ。

「あ…たし…どうしたの?」



茉莉が、自分の置かれている状況を把握できていない、そんな風に戸惑いながら、目を開けた。



慎吾が、茉莉にこうなった経緯を話している時、病室の外で茉莉の両親が医者から説明を受けていた。




「いやぁ、こんなに早く意識が戻るとは思いませんでした。お嬢さん、素晴らしい回復力ですね」

「もう娘は大丈夫なんでしょうか?」

「えぇ、あと一週間ほどしたら、退院できるでしょう」

「ありがとうございました。先生」

深々と頭を下げ、二人は病室に戻ってきた。



茉莉の傍で手を握り締めていた慎吾に、

「三島君…だったかしら?茉莉を助けてくれてありがとうね」

茉莉の母親が、慎吾に言葉をかけた。

「あ、いえ…僕は何もできませんでした。すみません…」

「良いのよ。救急車もみんなあなたが呼んでくれたんでしょう?」



この時、慎吾は居場所がなくて、心苦しい想いでいっぱいだった。

自分は、茉莉に車が突っ込んでくる寸前、それに気づいたが、体が茉莉を助けるどころか、自分が逃げてしまったのだ。


その上、救急車を呼んだのは花弥だ。



そして、その時思い出したのは、悲し気でくちびるをギュっと噛み締めた顔だった。あの時、もう少し花弥に、事情を説明していれば無視同然で、通り過ぎたりしなければ、事故を免れたかも知れない…そんな事ばかりが、頭を回っていた。


慎吾は病院を出ると、携帯の画面に映し出された花弥の番号とにらめっこしていた。この事を報告すべきかどうかという事を。

しかし、茉莉が花弥に言った事は事実だった。



中二の夏、学校祭の準備盛り上がっていた時、花弥から告白を受けた。その時、周りがだんだんカップルになって行ってる中で、“彼女が欲しい…”そんな軽々しい動機で花弥の告白を受け入れてしまった。



しかし、そもそもはっきり言って、慎吾に花弥の事は本当に

と言った感じで、正直、告白を受けたけれど、本当はもう茉莉の事がかなり気になっていた。


茉莉は校内の中でも奇麗な方で、いつも人の輪にの中にいて、華やかな感じがする子だった。

その茉莉に憧れている男子は多かった。


しかし、花弥は茉莉とは別の意味にで別の意味で可愛かったから、校内でも密かにそんなこんなで、つい…本当に花弥のからの告白を受け入れていしまっただ。


それでも、花弥は可愛げがあったし、考え方もポジティブで、一緒に元気が出た。と素直に思えた。



そして、学園祭終わり、中三になった春、慎吾に自分でも想定していなかった出来事が起きた。

それが茉莉から告白されたのだ。

嬉しくはずがない。

しかし、今自分には花弥と言う彼女がいた。

けれど、理性で解っていても、心はそうはいかない。

思春期の男の子だったら、理性などないも同然だ。

慎吾は、花弥の事を隠して、茉莉と付き合う事にした。

そして、茉莉が花弥に言った通り、茉莉に花弥に言った通り、茉莉に花弥の事隠しきれなくなった慎吾は、どう別れ話を切り出せば良いのか、茉莉に相談した。


しかし、この時から少しずつ慎吾は“間違えた”と思うようになっていった。





慎吾が花弥の事を話すと、

「あぁ、あの子?知ってたよ。慎吾が付き合ってるって」

「え?」

「だから、あたしが慎吾に告白したんだもん」

「え、どういう…」

「あの子、あたしとは別の意味で人気あるからさ、その子と付き合ってる慎吾が、あたしと、その子、どっち選ぶか試しただけ。別れたいんなら、はっきり言ってやんなよ。あんな子よりあたしみたいに奇麗な子が好きだって。それで良いんじゃない?」



その言葉を聞いた時、慎吾は初めて自分が好きだったのは誰だったのか、自覚することになったのだ。


しかし、付き合って三ヶ月。

まりがとてつもないプライドの高い人間だという事は解っていたし、もしも、ここで花弥を選んだとしたら、自分だけならまだしも、花弥にどんな不幸が降りかかるか解らない。

そう慎吾は思った。


そうこうしているうちに、卒業が近くなり、幸か不幸か花弥とは違う志望校が、花弥とは違うと知り、この際、自分の気持ちは押し殺して、花弥の身を守る事を最優先に考える事にした。

茉莉が自分の事を飽きるまで一緒にいて、捨てられたら、そんなの都合がいいとしか言えないけれど、自分の本当の気持ちを伝えたい、そう思い、多分、遠くない未来で花弥を見守ろう、と決めた。

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