第3話 ♡の桜と花弥ちゃん。
しばらく二人で歩いていると、ほとんど花弥が喋っていた。
すると、斜めに顔を道路に固定したまま、頷くばかりで自分の事は一切話していない祐一に、
「…もしかして、祐一君って照れ屋さん?」
「え!?」
いきなり核心をつかれ、祐一は思わず赤面した。
「やっぱり」
もう隠しても仕方ないと思い、素直に祐一は花弥に問いかけた。
「言の葉さんてコミュ力高そうだね」
「言の葉さんて長いし、言いづらいでしょ?だから、花弥で良いよ」
(いきなり、下の名前か…ハードル高いな…)
などと考えていると、花弥ちゃんが、
「こんなハートの花びら、珍しいよね。押し花にして大切にするね」
にっこり笑った。
「あ、ありがとう、ってたまたま僕が拾っただけだけどね」
「そんな事ない!こういうの、良い人じゃなきゃきっともらえないものだよ。だから、私、祐一君に声かけられたんだもん!」
赤面症の僕に、こんな事言わないで欲しい…祐一はそう思った。
まぁ、花弥にはもうバレているのだけれど。
そして、とどめの一発。
花弥の口からまた赤面する言葉が爆発する。
「祐一君、私、こんなにほんわかする人初めて。おんなじクラスになれないかな?」
「え?…あ…」
こんな可愛い子に、しかも好みドストライクの子に、そんな事言われた事などなかったから、もうバレるのを承知で言った。
「そうだね。なれたらいいね」
そして、歩いて二十分くらいで高校の敷地内にクラス分け表見てみると、なんという偶然か、
「すごい!私たちおんなじクラスだよ!」
「マジか…」
そう呟いた瞬間、ふわっと、また肩が少し軽くなり、ふと足元に目をやると、また、白い羽根が一本抜け、そのまま地面に吸い込まれるように消えた。
気にはなったが、もうその羽根の正体が解らんことには、怯えていても無駄だ。
そもそも今は、それどころではない。
傍らの、ドストライクの花弥が、自分と同じクラスと言って喜んでくれている。
祐一は、この高校にしてよかった、と心から思っていた。
しかし、奇跡はこれで終わらなかった。
「ふふっ」
「ははっ…」
二人はもう笑い合うしかなかった。
同じクラスの一年D組の教室に入り、座席表を見た時から。
なんと、祐一と花弥の席は隣同士だったのだ。
「すごいね。運命感じちゃうかも(笑)」
そう花弥が言うと同時に、ガラガラと教室の扉を開いて、担任の先生らしき人が入って来た。
まだ、二十代だろうか?初めて担任を持つ、と言う感じの、人の良さそうな、女の先生が入って来た。
「はい。静かに。」
やっぱり担任は初めてか…と思わせるように、ちょっと緊張が伝わってくる。
「皆さん、これから入学式が始まります。廊下に席順通りに並んでください。」
「はい」
ガタガタとみんな席を立ち始め、廊下に向かった。
入学式が始まれば、みんな退屈そうに淡々と時が過ぎるのを待つ。
来賓挨拶。
生徒会長と応援団の一括。
それから、一年A組から、三年G組までの担任の紹介。
校長先生の長話…。
その間、祐一は、何処か挙動不審な花弥が気になっていた。
きょろきょろと誰かを探しているようなそぶりを見せていた。
しかし、花弥が見つけられなかったのか、祐一がその視線に行きつけなかったのか、結局、入学式中、花弥の事が気になっていたが、誰を探していたのか解らないままだった。
入学式の後と言えば、誰しもが好きとは言えないであろう、自己紹介の時間だ。
もちろん、祐一も『誰しも』の中に入る。
祐一はもとから緊張しいで、大勢の前で何かを話したり、発表したりするのが大嫌いだ。
それで失敗した事が何度あった事か…。
幼稚園へ転入したときはみんなを前に(誰にも言ってないが)ちびってしまった。
小学校のクラス合唱では、一人だけ歌詞を間違えた。
同じような事をこの人生で積み重なり、緊張しいを通り越して、みんなの前で何かをするときには、恐怖心さえ抱く始末だ。
「はい、じゃあ、次。叶君、教壇に上がって」
「あ、はい…」
緊張で震える手足を何とか教壇に乗せた。
…が、四十人の前で何を言って良いのかさっぱり浮かんでこず、なんとか絞り出したのは、
「叶祐一です。今日、誕生日です。よろしくお願いします」
だけだった。
(誕生日なんてどうだっていいじゃん!何言ってんの!?僕!)
クラスから、少なからず、くすくすと笑い声が聴こえた。
同中の男子達だ。
席に戻ろうとした途中、その男子一人が、こそっと問いかけて来た。
「裕、お前、誕生日祝って欲しいの?図々しいやつ~」
とからかってきた。
「うっせ!緊張しただけだよ!」
何とか席に辿り着くと、花弥が
「今日誕生日なんだ!おめでとう!」
とにっこり笑ってくれた。
同中の男子のからかいなど吹っ飛んでしまうくらい嬉しい誕生日プレゼントだ。
「じゃあ、次、言の葉さん」
「はい」
軽い足取りで教壇に上がると、
「初めまして。言の葉花弥です。名字はあんまり好きじゃないので、みんな好きにあだ名で呼んでもらえると嬉しいです。えっと、好きなものは桜で、嫌いなものは元カレです」
“嫌いなものは元カレ”と言う紹介にクラスは、パッと笑いに包まれた。
その後も、花弥はそれは巧みに、自己紹介をやってのけた。
(器用な子だなぁ…)
祐一の第一印象通り、その見た目から、花弥は可愛らしくて、人懐っこい感じだった。
それでも、物腰は柔らかいが、芯が強く、桜の花びらと言うよりも、その桜の花を支えてる幹のような子に思えた。
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