Sparkle
掟
プロローグ~最高の舞台へ~
公演開始まで、残り後十分。
もうすぐ幕が上がるというのに、体の震えが止まらない。
落ち着かせるために握った拳は、手汗でぐっしょりと濡れていた。
背中も冷や汗が流れていく感触が伝わり、呼吸も徐々に乱れ始める。
――落ち着け、落ち着け、落ち着け……。
そう必死に唱えても一向に収まる気配がない。
むしろ時間が進むにつれ、動機も激しくなる一方だ。
上手く酸素が体に回らなくなってしまったのか、めまいや吐き気すら感じる。
――……このままじゃ……やっと……ここまでたどり着いたのに……。
おもりを付けられて様に、体がすごく重たく感じる。
とうとう立っとくのもしんどくなり、その場にしゃがんでしまった。
――どうしよう、このままじゃ……
目の前が真っ暗になろうとした瞬間、
『緊張してんのか?』
どこからともなく、ここに聞こえるはずのない声が聞こえたような気がした。
自身に満ち溢れて、力強い声が。
いつも支えられているあの声が。
『お前ならできるさ』
また聞こえた。
いないと頭ではわかっているのに、君の姿を探してしまう。
どこ?君はいったいどこにいるんだ?
『おれはお前の側にいる』
ここに存在していないはずなのに、これは極度の緊張からくる幻聴なのだろうか。
ただの幻聴じゃないのなら、姿を見せてほしい。
一目でいいから君のいつもの元気な姿を見たい。
そして最後まで……
『言っただろ』
『おれがお前を最高のキャラで、最高の舞台に立たせてやる』
公演開始まで、残り後五分。
あぁ、思い出したよ。
君は初めて会った時から、すごくかっこよかったんだ。
君のおかげで、君と出会えたことで、今のおれがいるんだ。
きっかけをくれた君が、今こうして最高の舞台を作ってくれたんだ。
最高の裏の仕事をしてくれたんだ。
君の作ったものを輝かせるのは、おれの役目だったね。
今度はおれの番だ。
おれが最高の表の仕事を今からしてくるよ。
君がおれを輝かせてくれたように、おれも君を輝かせるんだ。
おれたち二人いれば輝きも二倍だったな。
『もう大丈夫そうだな』
気が付けば、あんなに震えていたのに今はもう落ち着いている。
激しい動機もめまいも、吐き気すらなくなっていた。
おもりを付けられたように、あんなに体が重たかったのに、不思議と体が軽くなった気さえする。
今からおれがやらないといけないことは、ただ一つ。
君が作り上げたものを、最高の形で披露しに行く。
だから、最後まで見守っていて。
『あぁ、おれたちの舞台を完成させて来い』
そう言って、君に背中を押されたような気がした。
公演開始まで、残り後零分。
最高の舞台が今ここに始まる。
Sparkle 掟 @Law_1030
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