第6話 エピローグ

「王族直属、異能対応組織“シラヘス”! 新隊長、アルジャーノン・ハリソン、前へ!」

「はっ!」


 国王陛下、そして国王殿下が見守る中、異能対応組織と名を変えた“シラヘス”の新隊長任命式が行われていた。

 整列された騎士たちの中から、威勢よく声を張り上げて礼をする一人の若者。そこには24歳になったアルジャーノンの姿があった。

 亡き父・デイヴィットに似た赤茶色の髪と、母マイラにそっくりなサファイアのような瞳はそのままだが、

華奢だった身体はすっかりたくましくなり、今ではアーサーにも劣らないほどの体格となった。


 15歳の頃、心臓病の手術を受けたアルジャーノン。ナタリア国最高の医師の協力のもと、見事手術は成功した。それから数年のリハビリを経て、19歳の頃に、自ら志願しシラヘスへ入隊したのである。


 新隊長任命式には、異能代表としてマイラとアーサー、そして元“シラヘス”団長であったオスカー・オウエンの姿があった。

 【悪魔竜】になり損ねたオスカー・オウエンは、その後、異能を統べるマイラの補佐役という役割を与えられていた。

 そして“レイヴン”の一行もハリソン領で暮らし、その異能を使って年に数回の発掘作業を手伝っている。


 しばらくはハリソン領で監視下においておきたいから……という名目で国王陛下に直訴したマイラ曰く、「彼らの言い分もわかるし、仕事は相当できるのよね」ということだった。 

 オスカーに至っては何かがふっきれたようで、小姑のように細かいところまで指摘してくる。そんなところも非常に助かっているのだが。


 マイラとアーサーは、成長したアルジャーノンの姿を眺めていた。

 幼い頃は走ることも制限され、同年代の子供たちを羨ましそうに眺めていたアルジャーノン。

 当時のアルジャーノンを思い出し、胸には熱いものがこみ上げてくる。

「大きくなったわね…」

「本当に」

 閲覧席で仲睦まじく肩を並べる二人のもとに、アルジャーノンがやってきた。

「母さん…と呼ぶのも限界だよなぁ。下手したら、見た目僕より若いかも」

 あれから15年余りの時が経過したものの、マイラとアーサーの見た目は二十代の頃のまま、何も変わっていなかった。

「あら、母であることには変わらないのだから、私は気にしないけど。それにしてもこの身体、いつになったら老け始めるのかしらね?」

いつも通りの軽口を叩くマイラに、アルジャーノンは言う。

「いつか、僕の方が先に年老いちゃうね。覚悟しててよね」

「あら、貴方が【悪魔竜】になりたいのなら、いつでも血を分けてあげるけど」

「ははッ、今のところは遠慮しとくよ。母さんやアーサーの苦労もわかっているつもりだし」

「あらそう。しっかり考えて選択すれば良いわ。貴方の物語の主人公は、貴方なのだから」

 いつのまにか、“ママ”ではなく“母さん”と呼ばれることに、少し寂しさとそして嬉しさを感じながら。


 今日はナタリア国王都に、巨大な虹がかかっている。【水竜】レフィーネによる祝福だ。

「へぇ、あのアルジャーノンが隊長にねぇ。じゃあ、私もお祝いしてあげなきゃね。えへへ」

 そう言って笑う親友は、今ごろハリソン領の大きな湖の中で、昼寝でもしている頃だろうか。


「あっ、マイラ様だー!」

「アーサー様もいるよー!」

 上空を舞う二体の【悪魔竜】は、少年少女に向かって手を振った。


「マイラ様~! この大きな虹、【水竜】さまの御業でしょう? ありがとうって伝えてくださ~い!」

「おお~い! 領地に帰る前に、うちの店に寄っていきませんか? お二人の姿をモデルにした、菓子を作ったんですよ」


「……アーサー聞いた? お菓子ですって。ちょっとだけ寄っていこうかしら?」

 と言いながら身体はすでに港へ向かっているマイラに、微笑みながらコクリと頷くアーサー。


 二体の【悪魔竜】は、今日も大きな翼を羽ばたかせて風を切る。

 あの時最後の竜が願った、真の共存を願いながら。

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人外、しかも最高種族の悪魔竜になったママ @tentekomainzu

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