第13話 誰が食べさせるのか?

 月曜日。

 昼休みになると彼女は弁当を持ってきた。

 田上くんはすでに、前の席の人のイスを借りて、俺と向かい合って座っている。

 彼女は金曜日と同じ様に、空いているイスを借りて、俺の机の短辺に席を作った。

 無言で渡されたおしぼりで手をふいて、おしぼりいれに戻す。


「今日も愛妻弁当か、いいなー」田上くんが羨ましそうに言う。

「いいだろ?」軽く返しておく。

「いただきます」彼女は俺たちの会話に入ってこずに、いただきますの挨拶をして頭を下げた。

 俺たちもそれにならう。


 彼女は自分の弁当箱からプチトマトを箸でつまむと、なんの迷いもなく、俺の口の前に差し出してきた。

「あーん」


 えー、こういうの人前ではやらないようにしたんじゃないの?昨日は誰もいなかったから付き合ったけど。

 いや、昨日はたまたま二人っきりの時にしか食事をしなかっただけか。

 誰かいてもいなくても変わらないんだね。


 断ろうか?それとも無視するか?

 彼女は箸でつまんだトマトが落ちたときのために左手をトマトのしたにそえて、あーんの口のまま俺を見ていた。

 無理だね。彼女が引き下がるとは思えない。むりやり口に突っ込まれないうちに、食べておこう。

 俺は差し出されたトマトを口に入れた。


 彼女は手を机の上に置くとそのまま手を止めた。そして、再度口をあーんの形にして、俺を見ている。


 あれですか。俺に食べさせろと?確かに昨日は、昼御飯も夕飯も、お互いに食べさせあったね。


 今日も?こんなクラスメイトがいるなかで?


 田上くんは、買ってきた調理パンを食べようと、口を開けたところで固まっていた。

 目の前で何してやがるんだこいつら。と、思ってるのかな。まあ、そうだよね。


 田上くん、助けて。どうしたら良い?


 田上くんは固まったままで、何の役にもたたない。


「人前ではちょっと」ダメ元で言ってみる。

「昨日は、食べさせてくれました」

 だから、昨日は二人っきりだったよね。

「今度ね」

「昨日は、あーんってしてくれました」

 二回言った。しつこい。


 俺はあきらめて、白米を多めにすくい、無言で彼女の口に持っていった。

 あきらかに多かったので、彼女は少しだけとまどったが、大きな口でかぶりついた。

 口からはみ出しそうになりながら、頑張ってそしゃくする。ご飯を口からこぼしそうになって、慌てて手を口のところに持っていった。ちょっと咳き込む。


 俺は思わず吹き出して笑ってしまった。


 可愛い。


 彼女は、むー、とした目で俺を見る。

 田上くんは、真顔のままで固まっている。あきれ返られたようだ。


 彼女は口の中のご飯を飲み込んだ後、何事もなかったように、食事をはじめた。


 俺たちも食事を始める。俺はまだにやけが止まらない。


「いいなー、俺も手作り弁当食べたいな」田上くんが、うらやましそうに言った。

 彼女は、え?て、顔で田上くんを見る。箸が止まっている。少し考えた後、彼女は玉子焼きをつまんで、田上くんの顔の前に差し出した。


 え?今度は田上くんが驚いて固まる。

 俺も、え?ってなるわ。


 違うから。田上くんは、手作り弁当作ってくれるような彼女が欲しいと言ったのであって、日向の弁当を食べたいと言ったわけではないから!


 田上くんと彼女は、はてなマークを浮かべたままみつめあう。

 これはダメだ。

 俺は自分の弁当箱から、玉子焼きをつまんで田上くんに差し出した。


「田上くん、あーん」

 田上くんは、即座に俺の差し出した玉子焼きに食いつく。


「うまいな」田上くんはニカっと笑う。

「だろ」俺も笑い返した。

 彼女は箸を引っ込めてキョトンとしている。


 田上くん、いつも気を使わせてごめんね。


 ガタン!


 離れたところで、ものが倒れる音がした。


 俺は音がした方を見た。見なくても大体の想像はできたが。


 榎本さんが、机に両手をついて立ち上がり、俺たちの方を見ている。口をあんぐりと開けて、驚愕の表情だ。

 彼女の後ろに、座っていたのだろうイスが倒れていた。

 榎本さんを囲んで食事をしていた女の子達が、驚いたように榎本さんを見上げている。


 うん、榎本さんだと思ってたよ。食事中、ずっとこっちを気にしてたものね。


 俺は気にせず食事をすることにした。

 田上くんは、榎本さんの方を見て戸惑っていた。

「え?なんでこっち見てんの?」


 ホント、なんでだろうね。ちゃんと八方美人やっててくれないかな。


 日向ひなたは気にせず食事をしていた。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 月曜日は部活の日だ。


 俺が部室に入ると、真城たまと高松明里が先に来ていた。

「おはようございます」俺は挨拶して部室に入る。

「おはよー」二人そろって返事を返してきた。


 2年のゴミクズ先輩は今日も半裸だ。着替えの途中で、1年のセクハラ美少女明里が、じゃまをしているのだろう。

 先輩の着替えの途中で話しかけ、着替えのじゃまをして半裸のままオモチャにして遊ぶなんて、けしからん。

 その技は俺が発見したんだぞ!


 俺は明里の反対側、先輩の背中側にイスを置いて座った。

 明里は意味もないことをペラペラしゃべって、先輩は意味もない会話に付き合わされて、服も着れずにとまどっている。

 俺は真近くで、先輩の服を着ていない腰や、パンツしか着けてないおしりを見ていた。


 美術館の彫刻みたいに、均整のとれた腰つきだなと思った。


 明里がたまに、先輩に触るので、その度に先輩はいやがって体をクネクネとさせて逃れようとする。

 俺の目の前でクネクネと動く美術品は、とてもたまらない。


「明里、自分だけおもちゃで遊ぶのはダメ、絶対」

「えー、那智も珠ちゃん先輩で遊ぶ?」

「俺にもさわらせろ」俺は右手の手のひらを、先輩に向けた。

「どこさわりたい?」

「おっぱい」

 先輩はさすがに逃げようとしたが、明里が抱きついて逃げれなくした。そして、先輩の体を俺の方に向けた。両腕ごと抱きつかれた先輩は胸を守ることもできずに、俺の目の前に大きな胸をさらした。

 今日も凝った刺繍の入った高そうなブラだった。


 俺は立ち上がり、右手の指をわざとらしくわしゃわしゃとさせながら、先輩の胸にゆっくりと近づける。


 ホント、優しい先輩だ。明らかに鍛え方がちがうから、先輩ならあっさりと明里を振りほどけるだろうに。涙目になっていたが、後輩が胸をさわりたいのならがまんしてさわらせてあげようと、思ってるのか。

 その精神構造、ゴミだから。


 あと明里、悪い顔になってる。


 俺は先輩の右の胸をさわるフリをして、通りすぎ、先輩の背中と明里の胸の間に右手を滑り込ませた。

 明里の右胸のふくらみをわしづかみして、3回ほど揉んだ。

「あひゃん!」

 明里は相変わらず余裕のリアクションで、先輩を離して、飛び下がった。両腕を胸の前で交差させ、胸を隠す。

「何で私のおっぱい揉むのー!?」

「いや、先輩のおっぱいより、明里のおっぱいの方が揉みたかったから」


 明里は腕を下げて、

「なら仕方ないか」と言った。

「ああ仕方ない」そう言って、再び明里の胸に手をのばす。

「いやいや、何でまた揉もうとするのー?!」

「え?今、揉むの許可しただろ?」

「してないー!」


 何か俺、彼女さんみたいなこと言ってる。これ、けっこうイラッとするよな。


「先輩、そろそろ服着た方がいいですよ」

 何が起こってるのかわからない、て表情で棒立ちしている先輩に声をかける。

「監督たちが来る時間です」

 先輩は慌ててカバンから服を出そうとした。


「おはようございます」男女の声がした。


 後は、この間とそう変わらない進行だった。監督に引かれていく半裸の少女を見ながら、

「二人も着替えましょう」との座長の声を聞いた。


 練習の時間だ。



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