第11話 お部屋デート
俺の左手は、並んで座っている彼女の腰を抱いていた。彼女は俺の左手を両手でつかんでいるので、手を抜くことができない。
今までの経験から、無理に引き抜こうともびくともしないだろうから、逆らうことはムダだろう。
彼女はしばらく俺の左手のひらをもてあそんでから、手のひらを自分のお腹にあてて、両手で軽く押さえつけた。そして何か安心したように、目をつぶって俺の肩に頭をのせた。
何がしたいのか、さっぱりわからないよ。
彼女は黙ったまま動かない。
俺はやることがないので、部屋を見渡した。カーテンは青で、銀色の星形がちりばめられてある。ベッドも青色のふとんカバー。反対側の壁も青の星空っぽいタペストリーがかけられている。
寒色計が好きなのかな?
引っ越してきたばかりか、荷物は少ない。大体は棚や本棚に入るのだろう。服も外に出ていない。タンスのほかはないが、押し入れをクローゼットに使っているのか。
後は、電気スタンドや、加湿器、掃除機やダンベルが置いてあるくらいか。
‥‥、ダンベル?!
ダンベルはご丁寧にも、軽めのと重めのトレーニングにあわせた2セットあった。
あれ何キロだろ?重い方は2キロかな。
さっきから気になっていたのだけど、彼女のお腹。
少し押さえて、さわさわと撫でてみる。
うん、思った通り。
腹筋バッキバキに割れてる。力ぬいててこれかよ。
何かこの間も腹筋さわった気がする。演劇部の真城珠の、あっちはじかにさわった。日向の方が珠より筋肉量が多いな。
「ん?」彼女は何?って顔で俺を見上げてきた。
俺はなでていた手を止めて、彼女を見下ろす。
しばらく黙ってみつめあう。
何も起きないことにしびれをからしたのか、彼女は俺の手を使って、自分のお腹のあたりをナデナデしはじめた。
え?ナデナデしてほしかったの?違うよ、腹筋確認してたんだけど。
何かをねだるような目で俺を見てくる。
何?もっとナデナデするの?お腹を?
「右手」
「?」
「右手が空いてる」
右手をどうすればいいの?「ん」彼女はすこし頭をさしだす。
頭をなでればいいのか。俺は右手を彼女の頭の方に伸ばす。
彼女は目を閉じて、なでられるのを待つ。
彼女は俺の左手をつかんでいる力をゆるめたので、左手を腰から離した。彼女の頭をなでようとして、やめた。代わりに両手で彼女の両頬をつまむ。
「ふぇ?」彼女は変な声を出した。頬をつままれてまともな声にならなかった。ぱちくりと目を開けて、俺を見る。
可愛い。
面白い顔だったので、さらに面白くするため、つまんだ頬をこねくりまわす。
さらに引っ張ったり、つねってみたり、くちびるを歯が見えるまで引っ張ってみたり。片手を離して、鼻を上に押し上げたり、ついでにもう片方の手であごをつまんで下に下げて、口を大きく開けてみたり。
「ふぁ?」また、何か可愛い声でた。
次に目でも遊ぶことにした。
目じりを押さえて、定番の細目、つり目、たれ目。
どれも可愛すぎる。
にやけて笑ってしまう。
「?」彼女は戸惑ったようだか、さからわずにされるがままにしていた。
今度は口の両端を指で押さえて、伸ばしたり上げたり下げたりしてみた。
口の両端を上げて笑った顔を作ってみる。彼女の笑った顔を見たことなかったから。
可愛かった‥‥
でも、これは違うな。
彼女の顔から手を離した。
「?もういいの?」
「うん」
彼女はつねられて赤くなった頬を両手でさすった。
「ごめん、痛かった?」
「大丈夫」
彼女に悪いことをした。赤くなるほど頬をつねったことではない。
笑い顔を作った事に。
「そんな事より」
俺の後悔は、そんな事らしい。
「ナデナデしてくれないんですか?」彼女はそっちがご不満のようです。
俺は優しく彼女の頭を長い時間撫でた。
彼女の機嫌は直ったようだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
その後、予定通り二人で勉強会ミッションをこなした。彼女が思う、健全な高校生らしいお付き合いの典型だから。
さすがに密着した状態では勉強しにくいと主張して、俺はテーブルの反対側に移った。特に反対されることもなかった。
俺は持ってきた教科書とノートを広げて宿題をはじめた。その後は予習ぐらいをやる予定だ。
彼女は既に宿題を終わらせているのか、問題集を広げて、数をこなすつもりのようだ。
普段は予習なんかしない。宿題くらいはするが。今回はお勉強会というイベントなので、彼女に付き合っているだけだ。
しかし彼女の方は、イベントに関係なく、普段通りらしい。すぐに問題集に没頭する。
俺は彼女が気になって、すぐに手が止まり、彼女をちらちら見てる回数が多くなる。
髪の毛を上げていて、顔がよく見える。あらためて美人だと思う。真剣に何かに取り組む表情は、凛々しくもある。元々彼女はキリッとした美人だ。
俺にベタベタまとわりついて、頭の悪そうな発言をする彼女とは同じ人物とは思えない程に。
俺は完全に手を止めて、彼女に見いっていた。彼女はさくさくと問題集を解いていく。頭も良いようだ。
俺が美人の彼女さんに見とれている間、彼女は俺の方を一度も見なかった。
ホントは俺の事、興味ないよね。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
途中彼女が紅茶を淹れてくれたが、それ以外はずっと勉強していた。
11時を過ぎた頃にはさすがに疲れた。普段はこんなに勉強しないよ。途中あきて、ずっと彼女をながめている時間がかなりあったけどね。
「日向、そろそろ終わりにしない?」
「ん?」彼女はこちらから話しかけて、やっとこちらを見た。
集中力すごいね。これってデート要素無くない?
「お昼ご飯作る?」
「つくるの?」
「ん」
どこかに食べに行くのかと思っていた。
勉強道具を片付けると、
「待ってて」と言って部屋を出ていく。
俺も勉強道具をカバンにしまう。どうしようかと少し考えてから、部屋を出て、隣の台所に向かった。
彼女はエプロンをつけていた。白のつなぎのエプロン。パーカーを脱いでTシャツの上に着ている。
「エプロンだ」見たまんま声に出た。
「ん」彼女は俺を見て少し固まる。
何を考えてる?
「あー、新しいエプロン買ってきます」どうやら、白いエプロンは可愛くないと思ったようだ。と言うか、俺が可愛くないと思っていると、思ったのか。
そんなことないのだけど。そんな風に聞こえた?
「え、そのエプロン良いとおもうけど?」機能的で良いと思います。俺の好みにあわせてエプロン買いなおすとか、余計なお金を使わすのは気がひける。
彼女は返事をせず固まっている。どうやら、俺の返事を社交辞令と受け取ったようた。
「白のエプロン、清潔で良いと思うけど。それに可愛い」
俺の彼女さんはなに着ても可愛い。
「ん」やっと納得したのか、料理を作り始める。
「手伝うよ」
「いい。待ってて」
「何もしないと気がひける」
「ん」少し考えてから、「冷蔵庫から玉子2つとって」
俺はシンクの横の冷蔵庫を開けた。トビラの内側にある玉子を2つとる。トビラの下側に飲み物をいれるポケットがあるが、牛乳が3本入っていた。
牛乳好きなのかなと思いながら、トビラを閉めると、冷蔵庫の上に大きめの缶が置いてあるのが目にはいった。
プロテインの缶だった。
ダイエットプロテインかな?と思ったが、ガチの筋肉増強プロテインだった。
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