第8話 休日デート

 私服の彼女は天使だった。


 いや、制服の彼女も天使ですよ?


 土曜日の朝8時、駅前で彼女と待ち合わせした。俺が電車で隣街まで移動してきた。この街の学校に通っているので、通学定期を持っているから、彼女が俺のすんでいる街に来るより便利だから。


 改札を通ると、直ぐに彼女は小走りで近付いてきた。メールで電車の到着時間を知らせてあったので、先に待っていたらしい。

 なんかヒラヒラのついた短い袖の白いブラウス。黒っぽいスカートは膝下まである。

 いつもの制服だと、膝が見えているが、こちらが好みだろうか?学校ではまわりに合わせて、埋没する行動しているから。

 スカートのひもがリボンのように後ろで結ばれていた。


「おはよ」

「ん」彼女はあいさつがわりに、俺の腕に抱きついてきた

 彼女は小さな肩掛けのバッグだけと、身軽だった。俺にくっついて、一日過ごす気なんだろうな。

 俺もショルダーバッグだけで、両手を空けている。


 彼女の表情はいつもより明るかった。光量的に。


 目を隠すような前髪が、ピンで留めてある 。

 大きめのシルバーのピンだった。


 彼女は腕に抱きついたまま、上目づかいになにか訴えかけていた。

 なにか言えってことか?

「髪上げたんだね。顔がよく見える」

「ん」

「顔隠すのやめたの?」

「拓海しかいないから」

 いや、人はいっぱいいるよ。知ってる人って意味か。

「可愛い日向ひなたの顔が見れる」

 そう言うと、彼女はびみょうな表情をした。顔をほめられるのは気に入らないらしい。知ってたけど。付き合い出しても、そこは変わらないか。


「服はどうですか?」

「可愛いよ」大人っぽいのか、女の子っぽいのか、どちらにも振れてないのが。どちらにもきめたくないのか。そこも可愛い。

「ん‥」

 この返事も気に入らないのか。

「拓海の好みがわからないので困りました」

 俺は微笑んだ。


 可愛いなこの子。


「自分の好きな服着れば?日向が何着てても僕は満足できるよ」

 彼女の無表情さが、さらに冷たくなった。俺、選択肢間違えまくってる?恋愛ゲームなら攻略失敗か?

「そういうのもういいです。私は拓海が気に入る服以外は着ませんから」


 攻略は失敗してないようだ。どんな選択肢でも攻略できる、救済キャラのようです。

 チョロすぎて怖い。


「あー、好みでいえば、ボレロも可愛いと思う」

「制服?」

「いや。制服が好きなんじゃなくて、ボレロが好きだから、ボレロが制服の高校を選んだ」

 彼女はめをぱちくりさせた。無表情な彼女に珍しい表情をさせることに成功。そんな呆れられること言ったか?


 ちなみに俺の住んでる街には、いまだにセーラー服の高校がある。もちろんセーラー服目当てで高校を選ぶやつも多い。男も女もね。


「こんど買っておきます」

「じゃあ、ロリータとゴスロリも」

「?!」さっきより分かりやすい表情をした。

 表情変わる方が楽しいよな。だって可愛いし。


「うそうそ、あれ高いらしいから、無理しないで」

 興味あるのはホント。でも、そんな服着た彼女と街を歩くのはちょっとだよな。

「バイトがんばります」何か悲壮な覚悟を見せた。

「今のじょうだんだから。マジにならないで」


「こんな時間から何かあるの?」

 休日に朝8時に待ち合わせだ。この時間でないとダメなことがあるのだろう。

「?」彼女は不思議そうな顔をする。

 ん?

「早い時間に待ち合わせする必要があるんだろ?」


 やはり、不思議そうな顔をされた。

「はやく拓海に会いたかったから」


 えー?これはどうなんだろ。

 けなげ?重い?

 不思議そうな顔も可愛いからセーフ。


「店とかまだ開いてないよね。散歩でもする?」

 俺は歩き出す。

 彼女は俺の腕につかまって、ついてきた。


 朝早くから開いているところという事で、駅に近い神社に参拝することにした。


 さすが観光地、すでにたくさんの人で賑わっている。

 長い参道を無言で歩く。

 彼女の口数が少ないのは人見知りかとおもっていたが、喋らないでいるのも平気なタイプらしい。


 参拝の後、土産物屋通りの茶屋に入った。

 この間来た店に近いが、別の店。同じような造りの店だ。


 畳張りの広いベンチにならんで座る。

 彼女は買ってきたお菓子とお茶をお盆から下ろした。

 一つのお茶を、彼女が座っているのと反対側の俺の脇に置く。

 彼女の身体が、俺の方に乗り出してきたので、少し身を反らした。それでも彼女の身体が俺の身体に当たる。

 多分、わざとだ。


 もう一つのお茶を、お盆ごと彼女の脇に置く。もちろん俺の座っているのと反対側に。

 お菓子ののった皿をとって、俺に差し出す。

 二人分が一つの皿に載っている。

 その一つを手に取ると、彼女も残りを手にとって、開いた皿をお盆に戻した。


 そして彼女は、この間と同じように、当たり前に俺にすり寄ってきた。


 肩も腕も腰も太股も当たってる。俺は足を揃えて、彼女の太股から離した。

 すぐに彼女は揃えた足を俺の方に倒して、太股を密着させてくる。

 そして頭を俺の肩にのせた。


 うーん、食べにくい。


 その後は、神社にある資料館と美術館を見て回った。

 彼女はこの街にきてまだ日が浅く、観光とかはまだしていなかったので、そういうコースにした。


 高校生らしい健全なデートでしょ?

 観光地過ぎて、駅前に高校生が遊ぶようなところが無いだけなんだけどね。


 俺は美術館が楽しめた。神社の美術館なのに現代作品ばかりだった。

 むしろ神社によくある宝物殿は、この神社にはないのに、現代美術館があるのはなぜなんだろ。


 と言う話題を彼女に振ったが、「さあ」と言っただけで、興味は無さそうだった。


 彼女は資料館の方が興味を示した。

 特に御神刀の製作資料に釘付けになっていた。製作途中の刀が、行程順に展示されている。

 刀のゲームでもやってるのかと尋ねたら、してないとの事だった。


 純粋に刀に興味あるんだ?

 何か不穏。


 その後、途中で食事したり、お茶したりしながら観光地巡りをした。

 他愛もない話をしたり、無言タイムになったりした。

 無言だからって、話題に困ったわけでもない。彼女のペースがそうなのだろう。

 変わらないのは、始終俺に引っ付いてきていたことかな。


 歴史的な町並みが遺された地区の外れ。駅に戻る途中の公園のベンチに二人ならんで座っていた。町中にあるような公園ではなくて、観光客が休めるように整備されたところ。


 有名な観光スポットでもないし、夕方近くなので誰も休んでいる人はいなかった。


 今日は彼女はバイトがあるので、そろそろ帰る時間だ。

「次のシフト決めで、土曜日もバイト入れないようにします」と、彼女は言った。


 土曜とか、忙しくはないのだろうか?


「土曜はお客さん多くないですよ。仕事帰りのサラリーマンが来ないから」


 そうなんだ。


「明日も会えますか?」

「空いてるよ」

「休日デートもできたし、あと何が、付き合ってると言えるかな?」

「なんだろ?学生らしく勉強会とか?」

「じゃあ、明日は勉強会を」

「図書館とか、ファミレスとか行く?」

「私の部屋で」


 ん?身の危険を感じるぞ?


「明日も8時に駅に迎えに行きます」

 また、早い時間から勉強するんだね。

「あ、ハイ」

 俺は彼女に逆らわないことにした。


「では、人もとぎれたのでキスしてください」



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