第3話

 一次会が終わり、結局四人で二次会の居酒屋へと向かった。

 居酒屋に着いた途端、千夏は花山の膝の上で眠ってしまって、三人でずっと他愛のない当時のこととか今の仕事のことなどを話した。

 花山は見た目通り不動産屋の営業マンをやっていて、八木は大きく威圧感のある見た目に反して弁護士らしい。確かに高校のころから頭がよかったし、確かいい大学に進んでいた記憶がある。

 この二次会は一次会なんかよりも叶にとって楽しいものだった。美奈や春海なんかと違って、この二人とはなんとなくだけど価値観が合うような気がした。

 楽しい時間はあっという間に過ぎ去ってしまい、夜も更けて、居酒屋を出ようと千夏を起こしたら、千夏はよく寝たと言った風にすっきりした表情をしていた。寝てしまうくらいに酔っ払ってはいたけれども記憶の方は大丈夫なようで、起きてすぐに花山にしなだれかかる。

 花山は『またか』と言うような顔をしたが、やはりまんざらでもない雰囲気で、居酒屋を出て二人でホテル街へと消えていった。並んだ二人は千夏が高いヒールを履いているせいもあって千夏の方が10cmほど身長が高く、どうにも花山が弱々しく見える。

「なんで、酒井さん、花山くんだったんだろ」

 叶が八木を見上げた。

「さあ、僕は花山みたくイケメンじゃないからじゃないかな」

 と八木は言った。

 叶は少しだけ酔っ払っていて、いつもだったら恥ずかしくてそんなことはできないのに、今日は八木の顔をマジマジと凝視する。八木は叶の視線に動揺したように視線をそらした。

「私は花山くんよりもずっと、八木くんのほうがかっこいいと思うけど」

 ボソリと呟くように言った叶に、八木は「ありがとう」と笑った。本気にしてない顔だなと叶は思ったが、別に構わなかった。叶だって半ば冗談交じりで言っているのだ。本気にされてしまったら、それはそれで困ってしまう。

「帰る?」と八木は訊いた。

 叶はそれに「明日も仕事だからね」と返した。

「そう」と八木が駅に向かって歩き出す。

 歩幅の広い八木に追いつくために、叶は少しだけ走った。八木は歩くのが遅い叶に気づいて、少しゆっくりと歩く。

 なんであの時、『帰る』と言ってしまったんだろうと叶は駅までの距離で思った。だって、まだ終電には早いのだ。でも、今更「もう一軒行こう」なんていうことも出来ず、二人は無言で駅まで向かった。

 話すことがないわけではなかったが、ずっと無言だった。

 駅について八木が「何線?」と訊いた。

「私は向こう」

「そっか。俺は向こう」

「じゃあ、逆だね」

 そんな会話をした。

 そんな会話の後に二人とも動かなかった。叶はなんとなく八木と別れ難く思っていた。きっとお酒が入っているせいだろう。きっとそれは八木も同じだった。八木が握手の手を差し出した。

「じゃあ、俺、行くから。また、遊ぼう」

 叶は無言でその手をギュッと握る。八木がそれを強く握り返した。沈黙が少しあって、八木が笑って踵を返す。叶も反対方向へと歩き出したのだった。

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