研究員VSカリバニストVS宇宙人

@ikakumosan

第1話スパイ1

私は諜報に属しており、大学職員として日本の大学に職員として潜入し、数年過ごしている。

日本では様々な組織が諜報には力を入れる昨今であるが、上が変わろうが私たちの仕事は変わらない。

理想としては限りなく目立たない普通の人間として潜入し、限りなく目立たぬように毎日情報を集める。

新聞や雑誌、テレビやラジオなどの報道を使って国の内部からしか見えない事を探り続けるのだ。

インターネットや端末の発展に伴い情報化社会が進むと言われているが、

本当に進んだら私の仕事は亡くなるのかもしれない。

しかし、発信する側がお粗末すぎるのが問題である。

もちろん本当に信用できるサイトや発信者もいるが、

多くの発信者はソース無しの情報も多い、

まだ真偽の確認が取りやすい報道の方が幾分楽である。

インターネットだけで全てが解決する世界になれば私の仕事はお払い箱だろうが、

まだまだ仕事には困らなさそうである。

私は数年この国で任務をしているが、とても平和な国だと思う。

普段から近所付き合いと挨拶さえ忘れなければ疑われる事は無い。

暇な時に普段使っているゴミ捨て場の掃除をすると好感度がうなぎのぼりだ。

そして周辺の老人たちと仲良くできれば地域での評価は非常に高いものとなる。

関わり過ぎると碌な事にはならないが、彼らと挨拶するだけで全ては解決する。

老人と同等の権力を持つ主婦たちを相手にする時には、小奇麗な服装と毎日の挨拶だけで十分だ、

主婦が子連れであれば子供に愛想を振りまくだけで良好な関係が築ける。

どう見ても猿にしか見えない赤ちゃんを抱いていれば「あらー、可愛いですね!!」と言っておけば完璧だ。

男性相手には話しかけるだけでOKである。

何も考えずに愛嬌を振りまいていればOKである。

なんなら何もしなくても優しくして貰える。

この見た目に産んでくれ親には感謝しなければ。

しかし、この行為は気を付けておかないと周囲の女性を全て敵に回す事に成る。

女性を敵に回す事の恐ろしさと言うのは女性社会にある。

男性社会の戦場は職場であるが、女性社会の戦場は生活圏なのだ。

権力者に嫌われれば、ただでさえ面倒な近所づきあいが更に面倒になる。

女性社会は複雑と言われるが、実は非常にシンプルなカースト制だ。

社会的地位と経済力が柱になっており、それらに顔が続く。

前二つは自分だろうが配偶者だろうが親だろうが自分が使える権力なら何でもよい。

違和感を感じるかもしれないが、入り婿の男性が実家の権利をフルに活用するのと同じである。

しかし、顔は全てを覆す事が出来る力だ。

生まれながらに持つその力は全てを凌駕する。

顔と愛嬌が合わさるとそれだけで生活の幅が広がり、多くの物を手に入れられる。

前者2つとはコストパフォーマンスが段違いなのだ。

そして持つ者は持たざる者に嫉妬される。

これら前提にすれば顔を使うのはあくまで自然を装うのが重要なのだ。

だから嫉妬されないように全力で適度な距離を保つのが重要なのである。

だが、様々な剣を差し引いても、住むのであればこれほど良い国も無いのではないだろうか。

何も考えずに夜に出歩ける国なんてここくらいの物である。


さて、日本で毎日平和な生活を送っていた私に、新たな命令が下された。

内容は非常にシンプルで非常に簡単なものだった。

「貴方の職場である大学の実験を監視してその結果を報告しろ。」

最初にこれを聞いた時は違和感しか無かったのだが、

送られてきた情報に目を通すと違和感は確信に変わった。

情報があまりにも単純すぎるのだ。

来週私の通う大学で実験が行われる。

行われるの実験は超電導の導通と計測だ。

超電導自体は珍しい物では無く、多くの国で様々な実験がなされている。

今回の実験は新たな方式を用いて小型化されると公言され、注目され期待値の大きな実験であるが、この実験は結果を公開する予定となっている。

これらの事前情報よりあまり内情を探る必要はないような気もする。

何より「内容」では無く「結果」を報告というのも変だ。

実験用の小型化されたとはいえ一人で運ぶには巨大な電磁石でも持って帰るのだろうか?

更に送られてきた写真は研究室の教授の物が1枚のみである。

脂ぎった禿の写真を送られても非常に困る。

しかし、所詮は組織の一員、命令された手前従うしかない。

私は大学での任務を開始した。


さて先の話で地域住民相手のイメージ戦略の話をしたが、

これらのイメージ戦略は閉鎖された集団生活の中でより活かす事が出来る。

大学や会社という縛られた環境でこそ人間関係が重要になる。

スタンフォード監獄実験がいい例だろう。

学生を看守と囚人に分け集団生活をさせ、

役割が決まった人間はその立場で行動が変わる事を表した実験だが、

最終的に権力を持った者の非人道的な行いが始まり中止となった。

普段の生活でも会社や学校に置き換えれば簡単に想像が出来るのだが、

「ワガママな人間が大きな権力を持つとろくな事に成らないよね」

を地で行っているだけである。

だが逆説的に考えれば普段の生活で活かす事が出来るのも確かだ。

普段から周りに親切にしていれば賛同者が増える。

詰まる所社会的な発言力が高まるわけだ。

集団の中で明るく活発で親切な人間は希少な存在である。

これを利用すると何が出来るか考えてみよう。

一つの集団に関わり過ぎないことが条件だが、困っている人を助ければ簡単に人間関係を構築する事が出来る。

助ける事で構築された人間関係は正の感情で積み上げられた関係だ。

負の感情で積み上げられたネガティブな関係に比べればはるかに強固なものとなる。

日本語で言う所の義理と人情の関係だ。

人から信用されれば重要な情報が回ってくるようになる。

つまり浅く広い生活をしているだけで本来の仕事が終わるのだ。

また、彼らのつてをたどる事で学内の情報は何もせずとも手に入る。

正の感情で構築した人間関係から紹介される人間は信用できる。

お互いに関係を壊したくないので変な人間を紹介できないからだ。

今回の仕事に関しても研究室の場所やメンバーなど基本的な情報を手に入れるのは非常に簡単だった。

以前手伝ったことの有る教授に聞けばほしい情報は次々と手に入った。

彼らには下心もあったのであろう。

一緒にいた学生たちからも関連する話も聞けた。

私の気を引くために研究室のメンバーはおろか普段いる場所、バイト先、住所まで教えてくれた。

SNSに慣れ切った彼らには個人情報保護法と言う物は存在しないようだ。

分かれる前に食事に誘われたが、笑ってやり過ごした。

きっと男子大学生の脳は性欲しか詰まっていないのであろう。

私は礼を言いその場を離れ、オフラインで使用しているスマートフォン端末に記録を残した。

スマートフォンは想像もできなかった発明だ。

カメラ・マイク・GPSを搭載した手のひらサイズのパソコンだ、

悪用をしようと思えばこれ以上に便利なものは無いだろう。

学生や社会人がみんなこんな端末を持っている世界は狂っていると思う。

小さい頃にジェームズボンドが使っていた端末をみんなが持っているのと同じなのだから。

私の使用するスマートフォンは市販されている機種を改造しSIMカードを抜いたものだ。

大きな違いとしては、一度分解し、通信アンテナを取り外し完全にスタンドアロンに改造している。

一部ではプリメイド式の端末に旅行者用SIMを使えば飛ばし携帯になる事が知られているが、それを使えない理由がある。

プリペイド式の端末は個体ごとにIMEI(端末識別番号)が記録されている。

通話や通信を行うと携帯会社のサーバーに半年間は記録が残ってしまうのだ。

個人経営の店でIMEIを書き換えた端末も有り、それを第三者を介して代理購入する事も可能ではあるが、どこから情報が漏れるかは分からない。

身の危険性を踏まえれば少しでも危険な手段を取る事は出来ない。

生気の端末を使って、重要な話は書簡や対面で行った方が記録が残らずに安全である。

情報の記録にはスタンドアロンかアナログが安全である。

さて、仕事の本番、大学生相手の観察である。

スマートフォン端末の録音アプリを起動させ研究室をノックすると、冴えない風貌の白衣を着た男子学生が出てきた。

女慣れしていないのか緊張しているのが目に見てわかる。

私が「研究に興味があって話を聞きに来ました」と言うと簡単に通してくれた。

彼は来訪者がよほどうれしかったのだろう、研究室に快く通してくれた。

目当ての教授は不在の様だが、仕込みをするならちょうどいい機会である。

しかし、部外者を疑いもせずに喜んで研究室に上げるなんてこの研究室は大丈夫だろうか。

一応世界最先端の研究をしているのに危機感と言う物がないのだろうか。

話をする前に「録音しても良いですか?」と聞くと快く快諾してくれた。

彼が学生であるとはいえ、この国の研究機関は情報セキュリティに気を配った方が良いと思う。

更に「機材を見せてください」と聞くと、快く見せてくれた。

白衣の彼はノリノリで細かな解説もしてくれた。

専門的な分野に明るいわけではないが一般公開してはいけない内容だと思う。

彼の解説が嘘でなければ全部録音できてしまった。

「写真を撮らせてもらっても大丈夫ですか?」と聞いたら快く快諾された。

彼は本当に研究職を目指す学生なのだろうか?

彼が「コーヒーを入れてきます」と席を外した。

機密の塊のような部屋に産業スパイとうたわ牙れても仕方の無い人間を放置するなんて・・・

実は私は嵌められているのでは無いかと心配になって来る。

誰も居なくて丁度よかったのでハードタイプのキーロガーを設置した。

このキーロガーはキーボードとUSB端子の間に接続し、キーボードで打ち込まれた内容を記録する機械だ。

一般的なソフトタイプのキーロガーと異なり、PCからは電源供給を受けるだけなのでセキュリティソフトで見つける事が出来ないのもメリットである。

最近では無線機を内蔵した機種もあり、毎日決まった時間にデータを送信することもできる。

日本でも通販サイトで簡単に購入する事が出来る優れものだ。

何より大量生産されているので捨て垢局留めで購入すれば足が付かないのもいい。

そして、電源タップ型盗聴器も設置した。

これは文字通り電源タップの形をしている盗聴器だ。

使い方は簡単でコンセントに指すだけ、現代の盗聴器は進化も素晴らしく音感センサーも搭載されている。

つまり音が聞こえ始めてから動き出すのだ。

こんな機械が市販されているならストーカー被害が無くならないわけである。

不幸な人間を減らすためにも一般販売に関しては法的な規制を行った方が良いと思う。

今回の仕込みは部屋の電源のタップを一つ増やしただけだ。

雑多な大学の一研究室ではよほど注意しない限り早々ばれる事は無い、違和感に気が付く人間はそうそう居ないだろう。

しかし、こちらの商品何より素晴らしいのは盗聴器もキーロガーと同じなのだが、

初期設定さえきちんと行って居ればネット回線を通して外部にデータを送信し続ける事が出来る事だ。

今回音声データもキーロガーも24時間ごとにデータの転送を行うように設定した。

研究室の近くに受信機とメモリを設置すれば何も考えなくていい。

こんな簡単に研究記録が盗めるなんて本当にスパイ天国だ。

この国の人間は親切すぎて人を疑う事を知らないのかもしれない。

何故ならその証拠に彼はコーヒーを持ってきた後も情報を流し続けている。

内容はメンバーの個人情報から研究の内容まで様々だが、全て録音してしまった。

正直な話、全て録音して本当に良かったのだろうか。

入れ食い状態でほしい情報がそろってしまったが、罪悪感が大きい。

部屋に戻ったら情報の精査と整理を行おう。

仕事が早く終わるなら願っても居ない事である。

この白衣の学生は情報源としてキープする事にしよう。

名乗りもせずにひたすら話し続けているが、何故か研究の事にやたらと詳しいし。

もう、こいつ篭絡して攫った方が良いのかもしれない。

今後も情報を貰う為に連絡先を交換し、礼を言った後に研究室を後にした。

最期まで情報を流し続けてくれた彼には感謝してもしきれない気持ちでいっぱいだ。

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