呪の勇者~Legend of Hero~

波多見錘

悪意のP/呼び起こされる呪神

第1話 異世界

 この世の万物は、エネルギーを持つ。

 音エネルギー、位置エネルギー、光エネルギー、etc.


 それと同じように、善意もエネルギーを持つ。創作物でも見られる、「応援が主人公を強くする」という現象に大きく関わっているものだ。


 世界は人の思いですら、エネルギーがある。


 プラス思考というだけで、スポーツの勝敗を分けることもある。


 そんな善意は他人に感染し、莫大な力となる。その力は世界経済すらも動かしてしまう大きな力だ。


 だが、善意とは対極に、悪意もある。


 しかし、悪意は善意に勝てない。結局、悪人は善人に負ける。それはなぜか。


 答えは一つだけ。

 この世界で誰にも知られることのない人間が呪われ、たった1人でその悪意を受け止め続けているから。

 それによって、本来均衡を保たれるはずの両エネルギーの片側が、損なわれてしまっているから。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 王城の召喚陣に現れたのは、5人の少年少女だ。


 右から、赤髪に金物を多く身に着けたいかにもチャラそうな男(かなりのイケメン)。金髪をサイドで結んだギャル系の女(めっちゃ美人)。銀髪に長髪といった特徴的な髪形に筋肉が友達といわんばかりの強靭な肉体に、人を見下したような眼をした男(超イケメン)。鮮やかなシアン色の長髪に凛々しい顔立ちをし、とてもスタイルの良い清楚系の女(美しい系?)。


 そして最後に、黒髪にボロボロの黒いローブを身に纏い、今風に装飾された般若のような仮面をつけた男(画面偏差値不詳)。よく見たら、細剣レイピアのような剣を帯刀している。


 その5人の前に、悠然と座り口を開く者がいた。この国の王だ。


 「オホン、突然このようなことをしてすまない。私は、ベルゼルク=ジ=ララトール。この国の王だ。早速だが、そこの赤髪の少年から順番に名前と年齢、出来れば前の国で何をしていたのか教えて欲しい。」


 その国王を名乗る男の質問に、一同が目を合わせどうするか意思疎通を試みるが、しょせんは初対面同士。心が通じるわけがない。


 といっても、自己紹介をしなければ話が進まない。というわけで赤髪の男から自己紹介を始める。


 「暁徹あかつきとおる、19歳だ。学生」

 「柳田叶恵やなぎだかなえ16歳、学生で―読モやってたー」

 「武田鉄矢たけだてつや18歳、学生だが、ボクシングの全国大会を優勝した。」

 「三条葵みじょうあおい18歳です。学生で生徒会長をさせてもらっていました。」

 「……」


 皆が順番に自己紹介するも、最後の仮面の男が口を開かない。なにかに怯えているかのように


 「そこの仮面の者は、なんという名前なのだ?」

 「……」

 「貴様っ!王の御前だぞ!その仮面を取り、顔を見せるのが礼儀というものだろうがっ!」


 王の呼びかけに対して、無視を続ける少年に対して、王の隣にいる男(宰相)が怒鳴りつける。しかし、そこに先ほど生徒会長を名乗った少女が間に入る。


 「待ってください。私たちにとってあまりにも非常識なことが起こって、彼も混乱しているんだす。」


 そんな三条葵の助け船に、少年はすがるように彼女の袖を掴む。

 彼のそんな行動に、三条はドキッとしたが、すぐに平静を取り戻し、声を掛ける。


 「君、自己紹介をしてもらえるか?大丈夫だ。今は私がそばにいるから。」

 「お、俺は……賀茂巧かもたくみ……17……さい……被呪師」

 「え……?被呪師……?」


 賀茂の最後の言葉は小さすぎて、誰にも聞こえなかったように思えたが、超至近距離にいた三条は、その聞きなれない単語を聞き逃さなかった。


 それがのちの世に伝わる、おしどり救世夫婦の出会いだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 俺の名前は、賀茂巧。今俺は、お札だらけの君の悪い空間にいる。もう外の世界がどのくらいたったのか分からない。


 ただ、使用人が誕生日を伝える―――もとい祝うカードを最後にもらった時、たしか俺は17歳だった。この空間に入れられたのは、確か母親を呪殺した年だから、4歳で、もうここに13年もいる。


 13年が何を意味するのか分からない。なにぶん世間を知らない年でここに幽閉されたからな。


 俺が幽閉された理由は、みんなが言う“普通”の人間では想像がつかないものだ。


 簡単に言うなら、俺は人を殺した。その罰を受けている。でも、それは大人たちの話で、実際は違う。


 俺という爆弾が、外で爆発しないようにしているんだ。なぜそんなことを知っているかって?俺には話し相手がいるんだ。


 名前はシン。俺の式神だ。


 俺よりずっと色々なことを知ってる。何も分からないまま幽閉された俺に、真実を教えてくれた、何も空間で意識を保つきっかけになった存在。


 それがシンだ。


 彼は気ままだが、呼べば出てきてくれる。彼曰く、俺には世界を覆す力があるらしい。それが全人類の悪意というものらしい。


 さて、現実逃避はここまでだ。これだけの不幸が重なった俺の前に、なにやら黒い穴が現れている。


 「シン、あれなんだかわかる?」

 「いんや、わからん。取り敢えず、お前を消すための家の指金ではないようだな。ちょっと待ってろ…。」


 俺が呼びかけると、シンは俺の陰から現れて反応する。そのまま黒い穴にペチペチと叩き始める。


 「タクミ、飛び込め。」

 「え!?」

 「自分を変えるチャンスだ。お前はこの世界の呪縛から抜け出すまたとないチャンスを得たんだ。家はお前から奪っちゃいけないものを奪ったんだ。取り戻すチャンスだ。」


 シンの突拍子の無い発言に、俺は戸惑いを隠せない。


 「で、でもそんなこといったって…。」

 「あーもうっ!いいからいけっ!」

 「うわっ!?」


 シンの手によって、黒い穴に放り込まれた俺は、目を焼き切るような強い光に当てられて目を瞑る。


 妙な感覚の後、なぜか自分が立っている感覚に襲われる。

 おそるおそる目を開けると、そこは見慣れたお札だらけの部屋ではなく、見たことのない大きな部屋だった。


 何この部屋?広すぎて落ち着かない……。


 「オホン、突然このようなことをしてすまない。私は、ベルゼルク=ジ=ララトール。この国の王だ。早速だが、そこの赤髪の少年から順番に名前と年齢、出来れば前の国で何をしていたのか教えて欲しい。」


 この人なに言ってるの?本当に意味が分からない。殺されるの、俺?


 うっ!?物凄い殺気だ……


 そう思い、視線を殺気の方に向けると、物凄い目力でこちらを睨む緑髪の騎士と目が合った。


 もう、泣きそう……

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