第2話 写真を撮ってきてほしい
「ただいまー、バイト行ってくる」
家に帰り手荷物を交換し、キーを片手に再び外に出る。
「おにーちゃん! 帰り何時! ごはんはどうするの!」
「九時前には帰る。ごはんは残しておいてくれ」
「わかったー!」
相変わらず声のでかい妹だ。
ヘルメットをかぶり、バイクにまたがる。
免許を取って、乗り始めてからそろそろ一年。一人で遠くまで行けるようになったし、好きなところに行ける。
免許を取らせてくれてありがとう、母さん。
バイクを買ってくれてありがとう、父さん。
一生懸命バイトして、かかった費用は返しますね! 多分。
両親は免許もバイクにかかる費用も全額出してくれたけど、バイトをして返すことが条件だった。
夢の為なら何でもできます! と言っていた自分。毎月少ないけど、ちゃんと親にはお金を入れている。
──フォォォォン
エンジンをかけ、ギアを入れる。
んー、この音嫌いじゃないぜ。
安全第一でバイト先につき、ヘルメットを脱ぐ。
「おはようございます」
「おう、きたか。今日もいつも通りで頼むよ」
「わかりました、おじさん」
おじさんの店は、商店街の写真屋。
小さなスタジオもあり、たまに写真を撮りに来る人がいる。
貸衣装や小物も多少あり、奥の部屋に所狭しと並んでいる。
「今日は何組ですか?」
「……一組だが?」
「準備しておきますね。いつものでいいんですか?」
「あぁ、いつも通りで」
俺はスタジオに行き、電気をつける。
そして、おじさんの使うカメラにバッテリーを入れ、動作確認を始める。
えっと、ストロボつけて、レンズつけて、スタンドライトは二本用意しておくか。
背景をベース色に合わせ、エアコンのスイッチを入れる。
データー取り込み用のパソコンに電源を入れ、専用のソフトを起動。
ま、こんなもんかな。
「準備できました」
「おぅ、ありがとな」
俺は週に数日ここでアシスタントをしている。
自称プロカメラマンのおじさんから、カメラの使い方や撮影方法、機材の使い方などを教わっている。
「今日はどんな写真ですか?」
「家族写真だな。お子さんが小学校に入学したって」
家族写真か。そういえば、俺も高校に入ったときにここで家族写真を撮ってもらったな。
「こんにちはー」
「はーい」
予定の時間よりも少し早く来たようだ。
お父さんとお母さん、それとランドセルを背負った女の子。
「今日はよろしくお願いします」
「はい、よろしくお願いします。早速ですが──」
約一時間、おじさんのサポートをしながら撮影していった。
おじさんは真剣な表情で、時に笑顔で撮影を進める。
「いいですねー! お父さん、もう少し笑顔でお願いします」
ライトを当て、家族三人の写真がカメラに取り込まれていく。
俺の手元にあるパソコンに送られてくる写真のデータ。
横目で見るが、きれいに撮れていると思う。
「はい、お疲れさまでした。では、次は写真を選ぶのでこちらに」
スタジオの隣にあるテーブルに家族を案内し、撮影したばかりの写真を見てもらう。
左右に一枚ずつ。どんどん選んでいき、最終的に三枚の写真に決まったようだ。
「では、こちらでお願いします」
「かしこまりました。一週間後のお渡しになります」
家族を見送り、看板の電気を消す。
今日の営業は終わりだ。
「お疲れさん」
「お疲れさまでした」
「データーのコピーを渡すから、レタッチしてみろ」
「はい」
おじさんからデーターをもらい、先ほど決まった三枚の写真ファイルを開く。
このままでもよい写真だけど、レタッチするともっといい写真になる。
加工品、と言われてしまうかもしれないけど、一生残る写真はやっぱりいい思い出として残してあげたい。
「なかなかうまくなったな」
「おじさんの教え方がうまいんですよ」
時間を忘れ、作業に熱中する。
「そろそろ上がってもいいぞ」
「わかりました」
作業を終わらせ、パソコンの電源を落とす。
今日も一日お疲れさまでした。
「明日、何か予定はあるか?」
「明日ですか? 今のところ特に予定はないですけど」
「そろそろ一人でも撮影できるだろ。優一の初仕事だ。明日の夕方、ここに行って写真を撮ってきてほしい」
初仕事! しかも初めて一人で行く撮影!
一年間ずっとおじさんと一緒だったけど、この日初めて一人で撮影をすることが決まった。
しかし、仕事の内容は事前に確認しなければならない。
「撮影って、人ですか?」
「いや人ではない。ホームページに載せる店の写真だ。……優一、まだ撮れないのか?」
「……そのうち、撮れますよ」
少しだけ会話が重くなる。
──いつか、俺にもあんな写真が
そう想い描いていた夢は、叶う事はない。
俺には人を撮影することができない。
いや、できなくなってしまったのだから……。
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