微笑みの天使の恋心 ~コスプレイヤーの彼女は夢を追いかけるカメラマンに恋をした~
紅狐(べにきつね)
第一章 彼女は天使の微笑みを浮かべる
第1話 一年間よろしくって事で
素直に奇麗だと、たった一枚の写真に心を打たれた。
そして、俺に一つの夢ができる。
しかしその夢が叶う事は絶対にない。自分でもわかっている。
でも、あきらめたくない。
夢を、自分の夢を叶えたいんだ──
◆
自分に素直になりたい。でも、本当の事を話せない自分がいる。
私はいつも仮面をつけていた、学校でも家でも、どこでも。
ただ一つ、自分の心が安らぐ時がある。
自分の部屋、私は好きなキャラの衣装をまとい、メイクをする。
初めて自分で写真を撮って、雑誌に応募してみた。
私もこの子のように、素直に、自分にまっすぐな生き方がしたい。
何かが変わるような気がした──
◆ ◆ ◆
高校二年の春、クラス替えが行われ新しいクラスメイトができる。
半分以上絡んだことのないクラスメイトはそれぞれ気の合うやつらと、話に花を咲かせている。
朝のホームルームでも先生が言っていたが、一年間このクラスメイトと仲良くしていかなければならない。
運よく窓際の一番後ろの席をゲットした俺は、今日も空を眺めて雲の数を数える。
あの雲のようになって、遠くに行きたい。
毎日そんなことを考えていた。
ふと視線を感じる。
隣の席の白石(しろいし)さん、一年も同じクラスだったがまったく関わることはなかった。
長い黒髪を一つにまとめ、微笑んでいる彼女は何を考えているのだろうか。
誰にでも優しく、いつでも笑顔で、いつでも誰かを助けている。
そんなところから一部の男子の間では『微笑みの天使』というあだ名までつけられていた。
そんな彼女はなぜか俺を見ている。
いったいなぜ見られているんだ?
しかし、彼女の視線を追うとどうやら俺ではなく、外を見ているようだ。
彼女も空を見ていたのか。もしかしたら気が合うのかもしれない。
俺の勝手な思い込みだ。
「やっぽー、あおば」
白石さんの席にやってきたのは髪がやや茶色い、ツインテールの女子。
確か名前は槻木(つきのき)さんだったかな。
しかし白石さんは槻木さんに返事をすることなく、ただ視線をやってきた彼女に向けるだけだった。
「今年も一緒のクラスだねー。一年間よろしくねー。早速なんだけど、今日の帰り何か予定ある?」
「ごめん。今日と明日は予定があるの」
「えー、予定あるの?」
「明日来客があるから、今日はその準備をしないと……」
間近で聞いた白石さんの声、思ったよりもかわいい声だった。
「そっかー、じゃぁまた今度だね。ケーキセットがお得なお店を見つけたのだよ。今度一緒に行こうねっ」
彼女はそう言い残し、自分の席に戻っていく。
友達か……。一緒にケーキを食べに行くくらいだから仲がいいんだろうな。
俺は高校一年の時からバイトを初めて、部活に顔を出すことも少ない。
共通の趣味を持つ仲の良いクラスメイトも少ない。
唯一中学から一緒だった友人もいたが、今年は別クラスになってしまった。
でも、夢を追いかけるんだったらそれでもいいかもしれない。
昼休み、いつものようにパンが入った袋を片手に自動販売機に向かう。
いつも買っている紅茶。学校で販売しているこの紅茶がなぜか気に入ってしまい、お昼のお供になっている。
近所のコンビニとかスーパーでは売っていないんだよな。
コインを入れ、ボタンを押す。
お、ラスト一本だったのか。運よくお気に入りの紅茶を手に入れることができた。
紅茶を片手に自販機から離れる。
「売り切れ……」
ふと、声のする方に視線を向ける。
ジーっと売り切れのボタンを見ているのは白石さんだった。
もしかして、彼女もこれが欲しかったのか?
「どうしよう……」
『クラスメイトと仲良く』か。
「えっと、白石さん」
初めて白石さんに声をかけた。
彼女は無言で俺の方に視線を向ける。
「これ、ほしかったの?」
さっき買った紅茶の缶を彼女に見せる。
「うん。その紅茶、なかなか売ってなくて……」
ですよね、俺もほかで売っているところを最近見てないんです。
「あの、良かったら飲む?」
「それは広瀬(ひろせ)君が買ったんでしょ?」
「俺も毎日これをここで買ってるんだ。だから気にしなくていいよ」
彼女の手に紅茶の缶を乗せ、俺は別の飲み物を買う。
「もらっていいの?」
「ジュース位いいよ。隣の席になったんだ、一年間よろしくって事で」
自販機の前に彼女を残し、俺は教室に戻ることなくそのまま屋上に向かう。
「んー、風が気持ちいいし、空も高い!」
屋上の隅にあるベンチに座りながらパンをかじる。
ちらほら生徒が見えるが、みんな誰かと一緒に来ており、ボッチは俺だけだ。
でも、一人で空を見ながらいろいろと考える時間が取れる。
家の事だったり、バイトの事だったり、勉強の事だったり。
そんな時間を持てるって、いいことだと自分に言い聞かせる。
その日もいつもと同じように何事もなく学校が終わり家に帰る。
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