第3話 突然ですが、荷物検査します!


 翌日、今日の撮影をどうするか考える。

家に帰ってから現場に向かっては間に合わない可能性がある。

学校へ自前の機材を持ち込み、直接放課後に行くことにした。


 通学用のバッグとは別に、カメラの入ったバッグを持ち準備をする。


「おはよう」

「おはよー。ん? お兄ちゃん、そのバッグは?」

「あぁ、今日学校帰りに仕事。直接行くことになりそうだから」

「そう。持っていくのはいいけど、壊さないようにね」


 パンをかじりながら俺に忠告してくる妹。


「はいはい、気を付けますよ」


 朝食もそこそこにし、家を後にする。

家から電車で数駅乗り、定禅寺高校(じょうぜんじこうこう)の最寄り駅で降りる。


 昨日と同じように朝のホームルームが始まる。

隣の席の白石さんは相変わらず笑顔だ。きっと彼女には悩みもなければ、毎日が幸せなんだろうな。

成績も優秀だし、友達もいる。噂では何人にも告白されているらしい。

でも、まだ特に誰かと交際しているとは聞いていない。選ぶ側の人間はいいよな……。


「皆さん、おはようございます。突然ですが、荷物検査します! はーい、鞄出して!」

「「えーー! 聞いてないよー」」


 教室内がざわつく。

皆の言う通り、荷物検査なんて聞いてないよ。

どうして今日に限って……。


「七北田(ななきた)君、これは何かな?」


 早速何かまずいものが見つかったようだ。


「お、おやつです! 昼飯の後の……」


 先生が鞄から出したのはササカマの袋。


「うーん、まぁいいでしょう。ササカマはおかずにもなりますからね」


 クスクスと笑い声が聞こえる。ササカマって、なんでそのまま持ってきているんですか……。

次々と先生は生徒の持ち物をチェックし、週刊誌やコミック、ポータブルゲーム機などを一時没収していく。


「スマートフォンは没収しませんが、授業中は電源を切ってくださいね。次は……」


 白石さんの番。彼女に限っては何も出てこないだろう……。


「……」


 白石さんはこんな時でも笑顔だ。彼女の事だから、なにも不安になることなどないのだろう。

先生の表情が少しだけ変わる。


「……これは、先生が預かりますね」

「はい」


 何かの雑誌だった。ちらっと見えたが結構派手な服が書かれた表紙。

おとなしそうな白石さんがあんな本を読むとは、ちょっと意外だった。

先生は他の生徒に見られないように、隠しながら俺の方に歩いてくる。


「最後は広瀬くんね、鞄開けてもらえるかな?」


 ここまできたら隠せません。

俺は持ち込んだカメラの入ったバッグのチャックを開ける。


「これは?」

「カメラです。ぶ、部活で使う予定なので! ほら、俺写真部じゃないですか。たまには自分のカメラでって──」

「顧問の先生には?」


 自前のカメラを持ち込む時は顧問の許可がいる。何しろ高額なものだ。勝手に持ち込みは校則違反になる。


「ま、まだです」

「わかりました。許可が出るまでは一時的に職員室で預かります。いいですか?」


 返事はイエスとしか言いようがない。

先生は俺のバッグに白石さんの本を入れ、そのまま教壇に戻っていった。


「放課後、各自取りに来るように。忘れないでくださいね。あと、生徒手帳にある校則をもう一度目を通すこと」


 朝から大変な目にあった。でも返してもらえるなら問題ない。

放課後回収して、現場に行けば問題はない。バイトはもともと許可をもらっているしな。


 放課後、俺はホームルームが終わると同時に先生の背後をマークしながら職員室にむかう。

早く鞄を回収しなければ。そして、先生から没収された鞄を回収し昇降口に向かう。


 電車に乗り、帰る途中の駅で降りる。今日依頼を受けたのは駅近くの喫茶店。

ホームページを作りたいらしく、その写真を撮ってほしいとのこと。


「こんにちはー。栗駒(くりこま)スタジオの者です」

「お待ちしておりました」


 迎えてくれたのは喫茶店のマスターっぽい人。

店内はカウンターとボックス席があり、クラシックの流れる雰囲気の良い店だ。

お客さんもチラホラおり、それぞれの時間を楽しいんでいる。


 俺はマスターと打ち合わせを行い、どんな写真をホームページに載せたいのかをヒアリングする。

俺の初仕事。栗駒(くりこま)さんに合格をもらえるような写真を撮ってみせる。


「では、外装と内装、あとメニューも何点か載せましょう」

「わかりました。コーヒーと紅茶、それと軽食にデザートではいかがですか?」

「それでいきましょう」


 簡単な打ち合わせを終わらせ、早速機材の準備に入る。

カウンターの一番奥に席を用意してもらい、鞄を置かせてもらう。

チャックを開け、カメラを取り出す。


 ん、なんだ? 本が入っている。

俺は入れた覚えはないので鞄から取り出す。

表紙にはきわどい服装の女性が二人。な、なんだこの本は!


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