11-6 フードファイターレミリア、敵魔族宿舎から情報と果物をくすねるw

「――というわけだよ」


 堅パンミルク粥をすごい勢いで口に運びながら、レミリアが解説してくれた。


「一階に寝てるのはホブゴブリンとトロール、それぞれ二体ずつだな」

「うん、そう」

「一階は緊急時にすぐ飛び出せる。だから使い捨てにできるホブゴブリンを配置しているのでしょう」


 レミリアさんは、ほっと息を吐いた。


「おかわりどうぞ、レミリアちゃん」

「はいー」


 粥をよそってやっている。レミリアはまた、ハムスターばりの高速飯かっこみに戻った。


「リーナ先生の言うとおりだと思うよ、モーブ」

「そうだな、ラン。……だが鈍重なトロールを一階に置くのは不思議だ」


 先行部隊なら、敏捷なほうがいいからな。


「それは実務上の理由よ、きっと」


 マルグレーテは、白湯のカップを口に運んだ。


「だってトロールは大きいし、重い。こんな山村の家の階段なんか、踏み抜いちゃうもの」

「なるほど」


 たしかに二階なんかに配置できないか。


「で、二階はオーク四体。言ってみれば村支配の中核だな」

「そう。ホブゴブリンもそうだけど連中、寝台なんか使わないで床にごろごろだもん」


 レミリアは匙を振り回した。


「痛くないのかなって、他人事ながら思ったよ」

「で、三階が魔道士ふたり」

「うん。……ここだけはすごく警戒厳重。なんか窓と扉に魔導センサーみたいなのが張ってあったから、窓から覗くだけにしておいた」

「賢明ね、レミリアにしては」


 思わず……といった様子で、マルグレーテが口にする。いやお前、今口が滑ったろ。


「あたしだって森の子だからねー。獣を狩るときとか、頭悪いとできないからねっ」


 口をとがらせている。


「わかってるよ。レミリアは賢いしかわいい。そうだろ、マルグレーテ」

「もちろんよ。……ごめんなさい」


 頭を下げている。マルグレーテも、随分素直でかわいくなったな。最初に会ったときとか、トゲトゲツンツンしていて、ハリネズミみたいだったが。まあ実家の無理筋期待を一身に背負ってたからな。あの頃のマルグレーテは、かわいそうな奴だったわ。


「他に敵は居なかった」

「うん。そう」

「あの家は大きいよ。だから地下室があるでしょ。冷たいし定温だから、食料保管に使うんだ。村でもあったよね、モーブ」

「そうだな、ラン」

「大丈夫」


 首を振る。


「あたしもそう思ったから調べたんだ。たしかに地下室はあったけど、敵は居ない」

「事前の観測どおり、敵は十人で確定か。……あとボスのふたりと」

「どう攻める、モーブくん」

「はい、リーナ先生。夜襲にします」


 俺は説明を始めた。


 最終的にボス戦で終わるのは確定。ボスは出て来ないから、地下坑道最深部のボス部屋ってことになる。村人を盾にさせないためには、坑道から村人を出す必要がある。敵の目のある中での移動は難しいので、やはり、敵も村人も坑道から居なくなる夜間がいいだろう。


「ボス部屋で戦闘になれば、宿舎の魔道士に連絡が行くと俺は思ってます。つまり――」

「事前に宿舎を無力化しておくわけね」

「そうだよ、マルグレーテ。最初に宿舎を襲い、雑魚を一掃しておく。それから地下に侵入すれば万全だ」

「決行日が決まったら、私が村人に告知しておくね。夜に宿舎で戦闘があるから、騒がずに隠れているようにと」

「お願いします、リーナさん」

「でも宿舎は多分、耐炎魔法で守られてるんじゃないかって、モーブ言ってたよ」


 ランは首を傾げた。そうすると、きれいな金髪がさらっと流れるから、かわいいんだよな。俺の好きなラン仕草だわ。


「マルグレーテちゃんの魔法で燃やし尽くすことはできない。どうやって攻めるの、モーブ」

「ワンフロアずつ制圧するしかないだろう」

「問題は、音をなるだけ立てずにってところだね」

「そうだ。上階に気づかれると、敵との総力戦になる。おまけに魔道士はボス部屋に連絡を入れるだろう」

「そうなったら泥沼だね」

「そういうこと」

「ホブゴブリンは、レミリアの弓矢でいいわね。ただトロールは難しい。体力があるから、一撃で殺すのは無理。矢がいくつ当たっても、叫びながら棍棒を振り回すに決まっているわ」

「そうだなマルグレーテ。だから睡眠ポーションを使う。深睡眠に入ったところで、なます斬りだ」

「私、カティーノ使えるよ。睡眠魔法」

「ランが使えるのは知ってるよ。ただ下で魔法を使えば、三階の魔道士に気づかれる。ジョブ特性として奴ら、魔法を感知できるからな」

「そっか」

「睡眠ポーション作れますか、リーナ先生」

「任せて。私の治療室にはいろんな薬草がある。ここ周囲は山と森だから、そのへんラッキーでね。それ使えば結構強いの作れるよ」

「よし」

「それで一階を制圧したとする。二階はどう攻める」

「睡眠ポーションの量が足りるなら、同じだ。今の俺達とオークなら、トロールほどは手こずらないはず。でもなんせ四体だ。リスクを下げるため、ポーションに頼ろう」

「いいわね。さすがモーブくん。私達のリーダーだけあるわ」


 頼もしげに、リーナさんに見つめられた。


「あとは三階の魔道士ふたり。レミリアの斥候によれば、こいつらは入り口にセンサーを張っている。つまりどうせ侵入はバレるから、今さら魔法不使用もクソもない。扉を俺が開けた瞬間マルグレーテ、お前が超強力な魔法を中にぶち込め。気づかれたって、相手は寝ぼけてる。頭がはっきりする前に先手必勝だ」

「いいわね。腕が鳴るわ」

「なるだけ音の出ない奴で頼む」

「なら圧縮魔法にするわ。声出す隙も与えず、圧殺よ」

「宿舎を無力化したら、装備やこちらの被害などを確かめ対応してから、坑道に向かう」

「でもボス部屋って、扉にノブもないし、魔法でないと開かないんじゃないかな」

「ランちゃんの言うとおりね。リーナ先生の解錠スキルでも開くかはわからないわよ、モーブ」

「だから、ホブゴブリンは殺さずにおく。坑道まで連れて行き、なんらかの理由を着けてボスに呼びかけさせ、扉を開けさせよう」

「ホブゴブリンは敵最弱、だから残しておいてもリスクも少ないってわけね」

「そういうことだ、マルグレーテ。初手で眠らせておいて、宿舎無力化の後で魔法で目覚めさせよう」


 ハンプとダンプとか言ったっけ、あのホブゴブリン。あいつらなら操縦は楽だろう。


「では、後は決行日ね」


 リーナさんに見つめられた。


「モーブくん、いつにする」

「そうですね。実はもう余裕がない。立ち聞きした話では、連中は近々目的を達成しそうです。地脈と精神感応して、なんらかの情報を得るとか」

「モーブくんは以前、それは魔王を倒す勇者情報じゃないかと言ってたわよね」

「ええ、リーナさん。……ただ今日、ヴェーヌスの『父上』が、『そもそも我々には関係ない』って言ってたんですよ。魔族なら勇者が関係ないなんてありえない。むしろいちばん気になる存在だ」

「勇者情報じゃないってこと? ならなんだろ」

「ラン、俺にもさっぱりだ」

「単にミスリル鉱石の場所でも探ってるんじゃないの。ダウジング棒みたいな感じで」


 もぐもぐと口を動かしながら、レミリアが適当に言う。


「ダウジングか……」


 たしかL字型の金属棒を持って、鉱脈を探すオカルト器具だよな。昔の詐欺師が使う。


「そうそう。地脈と精神感応して、鉱脈のありかを探るんだよ。今となってはミスリルは貴重だからね。見つけられれば、魔王軍の幹部クラスはとてつもない防御力を手に入れられるし」

「勇者戦が有利になるよ」

「となると、魔王代理人の『あの野郎』が、地場魔族の『あのお方・父上』に頼んだってことかしらね。それなら、その『父上』が『自分達にはそもそも関係ない』って言ってたことと整合するし」

「でも、魔王の要請を断る魔族がいるかな」

「それは……たしかに」


 ランの指摘に、テーブルは重い沈黙に包まれた。


「時間がない。ただ、ボスに関しては不明点が多い。それがリスクだ。だからあと一日だけ調べてみよう」

「どうするの、モーブ」

「幸い俺は、今日倒れた。だからリーナさん、俺を明日一日、鉱夫ローテーションから外すと、魔族に言って下さい」

「体調がまだ回復してないって話にするのね」

「ええ。ただもちろん、俺が二日連続で遊ぶとなれば、魔族は嫌な顔をする。疑われるかもしれない。だから明日は。俺が食料調達に付き合うと言うんです。狩りをすると」

「わかった。ホブゴブリン――ハンプとダンプのお供になるのね」

「そういうことだ、マルグレーテ。あのホブゴブリンは知能が足りず、警戒心もない。俺が適当におだてて、作業中にいろいろ聞き出してみる」

「いいねーそれ」


 ようやく、レミリアはミルク粥を食べ終えた。


「話の筋に無理がないから、魔族はあっさり信じるよ。はい、ごほうび」


 懐からなにか取り出してテーブルに置いた。丸い果実だ。


「なんだよこれ」

「魔族の宿舎でくすねた」

「バレるだろ」

「平気だよ、ひとつやふたつ。気が付かないような奴だけ選んだし」

「それなら……まあ」

「ほら、みんなの分もあるよ。もちろんあたしの分もねっ。バレないよう、いろんな種類に散らしたからさ、気にしないで食べていいよ」


 ひょいひょいと、次々に果物を取り出す。


 いやレミリア、お前の懐、ドラえもんのポケットかよ。マジ、どんだけ食い意地張ってるんだ、こいつ。




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