3-5 愛の形

「モーブ……」


 俺の左肩に頭を乗せ、ランは荒い息だ。


「どうした、ラン」


 ふたりを両側に抱いたまま、俺は寝室の天井を見つめていた。先程までランとマルグレーテの喘ぎ声が満ちていた寝室には、まだねっとりと情事の雰囲気が漂っている。


「体の中がまだ熱いよ。……最後までって、こういうことだったんだね」


 これまで我慢してきた俺の気持ちを、ランの中にたっぷり注ぎ込んだからな。


「そうだよ、ラン。愛してる証拠さ」

「私……なんだか幸せ」


 涙がひと筋流れた。人生二回目だし、ランはまだ痛いようだった。それでも前回のように逃げることなく、両手でシーツを強く握り締めたまま、俺が動くのを受け入れてくれた。とてつもなく愛おしい。


「わたくしもよ……。幸せ……。モーブに巡り会えてよかったわ」

「よしよし」


 求めてきたので、キスしてあげた。マルグレーテも、痛みに体をのけぞらせていた。それでも中に入った俺が動き始めると、苦しげな息遣いだけでなく、かわいらしい喘ぎを漏らし始めた。俺の動きに応じて声が出るから、心から愛し合っている実感がものすごくあって、魂の底から幸せだった。


「汗、かいちゃったな、みんな」

「ええ……」


 きれいな赤い髪が、汗まみれの胸に張り付いて、先を隠している。そっと外すと、口を着けた。マルグレーテの香りがする。甘く、誘うような。


「はあ……モーブ、好き」

「俺もだ。ふたりともかわいいぞ」

「キスして頂戴」

「マルグレーテ」


 三人でキスをし合う。全てが終わった後のじゃれ合いのようなものだ。子猫が三匹、無心に遊ぶような。


「お風呂、途中になっちゃったわね。……どうしようか」


 俺の肩に頭を乗せ、マルグレーテは俺の胸をいじり始めた。


「お風呂もいいけど、お腹減ったよ、私」


 ランがくすくす笑った。


「ヘンかな。……こんなことした後だっていうのに」

「変じゃないさ。先に晩飯にしよう。……風呂の続きはその後でいいだろ」

「そうね……。わたくしも少し空腹だし。……わあ、モーブの胸、硬くなってきた」

「あんまりいじるな、マルグレーテ」

「ふふっ。どうして?」


 ふざけるように、胸に口を着けてくる。うっとりと吸って。


「面白いわ、モーブの胸って」

「どうしてってその……わかるだろ」

「あら!」


 俺の下半身に乗せていた脚を、マルグレーテは引っ込めた。


「イヤだ。……また大きくなってる」

「お前が胸を吸うからだ」


 マルグレーテ、とにかく好きだからなあ……、俺の体にキスするの。なんか俺の体、マルグレーテがちょっかい出してくる右半分だけ開発された気がするわ。


「男の人も、胸が気持ちいいのかしら」

「『男の人も』って、女のマルグレーテはどうなんだよ」

「それは……モーブに胸をキスされると幸せでふわっとなって、強く吸われたりすると……」


 なにを思い出したのか、赤くなった。


「ひ、秘密」

「ほら、ふたりとも横になれ。今度はひとりずつじゃないぞ。ふたり一緒だ」

「わあ。それも楽しそうだね」


 ランは嬉しそうだ。


「私、また幸せになっちゃう」


 うきうきと、マルグレーテに体を寄せる。並ぶというよりふたり、抱き合うように。


「なにしてんだ」

「だって……ねーっ」

「そうよ。ねーっ」


 息を合わせてふたり、ぴったり寄り添った。


「ランちゃんとわたくし、親友だから。言葉に出さなくても、考えをわかり合えるもの」


 マルグレーテは、訳知り顔だ。


「なんだよ……」

「モーブって、わたくしやランちゃんの胸、大好きでしょう。いっつも、お風呂でたっぷり時間をかけて洗ってくれるし。寝台でだって、さっきみたいに……、ほら」

「ま、まあな」


 そうはっきり言われると、なんだか胸に執着する赤ちゃん扱いされてるようで照れくさいわ。


「だから、ほら……」


 ふたり、また体を寄せ合った。


 ああ、そういう……。


「どうぞ。モーブご主人様……」


 ふたり、胸の先を合わせてくれていたんだ。ランの右胸と、マルグレーテの左胸を。寄り添ったふたりの胸の先は、微妙に色も形も異なっている。南国の花が、並んで美しさを競っているかのようだ。


 なら遠慮することはないよな。どうせこの後、ふたりとはまたするんだし。


「かわいいぞ、ふたりとも」


 ふたりの胸を同時に口に含むと、俺の心に幸せが舞い降りてきた。この一瞬を一生忘れないだろうという、強い予感と共に。




●明日公開の次話からは、新章「第四章 大賢者アルネ・サクヌッセンムの影」に入ります。リゾートを彷徨い、リーナさんを捜す三人。モーブの前に現れたのは、意外すぎる人物だった……。第四章での「世界の謎」解明に続き、第五章ではモーブがリゾートカジノのイベント攻略に入ります。お楽しみにー。


いつも通り、「限定公開近況ノート」枠にて、初稿アップして推敲中の第四章全話を、先行公開します。本編にて全話公開済みとなった第三章については、近況ノートから削除します。




●近況ノートでも告知しましたが、マルグレーテがノイマン家に囚えられモーブが救いに行く展開あたりで引っかかる方が多いようなので、全面的に修正しました。第二部第四章以降、第三部も含め十六話に及ぶ大規模改稿です。


手を入れた話は、たとえば「4-3 エリク家救済の絵図」から「4-3-2 エリク家救済の絵図」などと、バージョン2であることがわかるようにしてあります。



内容面の違いは、ざっくりこんな感じです。


■改稿後、現在の本編ストーリーは、マルグレーテが囚えられることなく、モーブやランと一緒にノイマン家に交渉に行ってアドミニストレータ戦になるパターン。モーブの恋愛エピソードも、シリアス感より甘々感が強調された形になっています。ノンストレス志向です。


■改稿前オリジナルのストーリーは、マルグレーテひとりが騙され囚えられたのを、モーブとランが救いに行って敵を倒すパターン。関連して、モーブとマルグレーテの恋愛エピソードも、ややシリアスでドラマチックに描かれています。



既に最新話まで進行した方は、わざわざ読み返す必要はありません。どちらのルートを進んでも、この最新話の時点で、物語はもう合流しているので。



●元の展開をお好みの方もいるでしょうから、修正前の原稿差分は

別小説「即死モブ転生からの成り上がり【大規模改稿前の原稿差分】」

https://kakuyomu.jp/works/16817139557653956317

として、新規投稿・公開しました。


どちらのルートでも、お好みのストーリーをお楽しみ下さい。また双方を読み比べるのも楽しいと思います。

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