第三部 「海岸歓楽都市ポルト・プレイザー」編

1 甘くとろける真夏の日々

1-1 久し振りの宿屋

「ほら。ここに座れ」

「うん」

「わかった」


 俺の腿に、裸のランとマルグレーテが跨った。三人で例によって風呂に入り、背中を洗い終わったところだ。


「久し振りのお風呂は、気持ちいいねー」

「そうね。これまで泉や川での水浴ばかりだったものね」


 エリク家の屋敷を発って十日ほど。街道筋で大きめの街にようやく入ったので、贅沢していい宿を取った。名物とかいう鉱泉水を沸かした広い内風呂があり、誰はばかることなく入浴を楽しめるってわけさ。


 学園長の依頼で海岸都市ポルト・プレイザーに向かう途上とはいえ、急ぐ旅でもない。道中、街道から逸れては雑魚狩りを繰り返したから、レアドロップ固定効果により、アイテムがたんまり溜まった。雑魚相手なんで、レアドロップとはいえ自分達で使う装備にするには物足りないが、街で売れば結構な金額になる。こうして豪勢な宿を取れるくらいには。


「よく泡立つなー、この石鹸」

「獣脂じゃなくて植物油脂を原料に使ってるって、宿の人が自慢してたわよ」

「それでかな。……ほら、上を向け」

「はい」

「うん」


 泡立てた手で、ふたりの顎から首筋を洗ってやる。石鹸香料のいい香りが、風呂場に広がり始めた。


「くすぐったいよ」


 ランがもぞもぞし始めた。


「我慢しろ。もう少しだ」

「うん……やっ!」


 耳の後ろに触ると、飛び上がった。どうも、ランはこのあたりが弱いみたいだ。マルグレーテは胸のほうがはるかに敏感だけど。俺も前世童貞だったからよくわからんが、人によっていろいろ違うもんだな。


「ほら、もう終わったぞ」

「うん。はあ……」


 どうして「気持ちと体がふわふわする」か、ランは自分でもわからないみたいだわ。ふうふう言っててかわいい。泡を立て直すと、ふたりの胸に移る。今度はマルグレーテがもじもじし始めた。


 でもあれだよなー……。


 ふたりの胸を優しく撫でながら、俺は思った。


 胸ってなんでこんなに気持ちいいんだろなー。


 なんといっても、肌の肌理きめがことさら細かくて、手に吸い着くようだし。適度に弾力と芯があって、いくら揉んでいても飽きないし。それに胸の中央部――乳輪って奴――が、周囲よりずっと柔らかい。生クリームを指ですくったときのように繊細な柔らかさ。先も同じ感じの弱々しさだから、舌や指でこねるようにしたり、口に含んで思いっ切り吸ったときに、なんというか征服感と懐かしさが入り交じった、不思議な幸せを感じる。


 そうしてしばらくいたずらしていると、胸の先だけ、マシュマロのように硬くなってくる。俺を誘うかのように。それでいて周囲は生クリームの柔らかさをキープしてるんだからな。俺の舌の動きに合わせて高まる喘ぎ声をBGMに硬くなった胸の先を攻撃していると、これもう、俺を喜ばせるために神様が作ったんじゃないか――としか思えなくなる。


「モーブったら、さっきから胸ばっかり洗ってる」くすくす。

「あっ……」


 ランに笑われた。いかんいかん。胸妄想に耽るあまり、手がそこで止まってたわ。マルグレーテは笑う余裕はないみたいだ。胸を動き回る俺の手に自分の手を重ねて、はあはあと荒い息遣いになってるし。


「ごめんな、ふたりとも」


 胸はそこまでにして、腹に移る。そうは言っても、腹だって天国だからな。ランの腹部は、俺をどこまでも受け入れるかのようにソフト。マルグレーテは奥にかわいい腹筋を微かに感じる具合が、また最高だし。


「せっかくだから、ここにもう一泊してもいいかもな」


 というか、明日も風呂でいちゃつきたいだけだけどさ。


「そうね……はあ」


 胸が終わったので、マルグレーテの息も、ようやく整ってきたようだ。


「ずっと馬車で走りっぱなしだったし。わたくしたちだけじゃなく、馬も休ませてあげたら喜ぶわね」


 さすがテイマースキル保持者らしい発言だな。


「いいね。……じゃあ明日は一日、この街のグルメ巡りしようよ。いかづち丸たちは、宿の人に世話を任せればいいし。この街、特別な穀物で育てた鶏料理が名物なんだって。ぱりっと焼けた皮が香ばしくて、肉はぷりぷりのジューシー。塩と香草のソースは単純だけれど、肉自体が特別だから、むしろそれくらいシンプルなほうがおいしいとか」


 くそっ。そりゃたしかにうまそうだ。それにしても……。


「それにしても、いつの間にそんなの詳しく聞いたんだよ、ラン」

「おいしいものの話は、自然と耳に入ってくるんだよ。ねっ、マルグレーテちゃん」

「ランちゃんの言うとおりよ。モーブったら、旅の先、そのまた先でやることしか考えてないんだもの。真面目に仕事の段取り組む人みたい」

「そうそう。ねーっ」

「ねーっ」


 頷き合っている。……なんだ、ふたりで戦線張ってきたな。仕方ないだろ、俺は前世社畜だ。社畜根性が染み付いてるからな


「わかったからちょっと腰上げろ、マルグレーテ」

「はい」


 腿から脚の付け根まで洗ってやった。


「ほら、ランも」

「うん」


 尻から前にかけて洗ってやる。ふたりともここはことさらデリケートに柔らかいから、そっと、撫でる程度にな。あんまりていねいにやるとふたりとも鼻にかかった声が漏れ始めるから、俺のスイッチが入っちゃいそうだし。


 でもなんだなー。最初に風呂に入ったときはマルグレーテ、俺から体を隠すのに必死だったのにな。今はもう、こうして胸から腹から脚の付け根まで、安心しきって俺に晒して任せてくれる。仲良くなれるもんだなー、貴族のお嬢様でも。


「ほらおいで、ふたりとも」

「うん」

「はい……」


 にじり寄るようにして、俺の顔に胸を押し付けてくる。


「……」

「……」

「……んっ」

「モーブ、石鹸が口に入っちゃうよ」

「いいんだよ……」


 風呂でいちばん好きな時間だからな、これ。ふたりがおとなしく俺に胸を与えてくれる、この瞬間が。


「あっ……」


 体を震わせたマルグレーテが、俺の頭を抱え込んだ。夢中になって、俺の頭を胸に押し付ける。強く吸ってやると、いやいやと頭を振った。


「……はい終わり」


 泡だらけになった顔を、俺は起こした。いたずらもこのくらいにしておかないと、このままふたり、ここに押し倒しちゃいそうだ。


「もういいぞ、ふたりとも」

「まだだよ。モーブのこと、洗ってあげてないし。ねっ、マルグレーテちゃん」

「そ、そうね……」


 そういやそうか。ふたりで分け合うように石鹸を泡立てると、俺の首やら胸やらに手を伸ばし始めた。といっても、下半身に手を突っ込んでくるのは、いつも通りランだけだ。マルグレーテはさすがに恥ずかしいらしい。ランはなにも知らないから、その点、無邪気なもんさ。なんたってこれ、添い寝したり風呂に入ったりするとなぜかときどき形の変わる、俺にしかない不思議な器官――くらいにしか思ってないからな、ランは。


「あ、あんまり握って動かすな」

「なんでー」


 くすくす。


「ヘンなモーブ」

「変でもなんでもさ」


 馬車での雑魚寝禁欲生活ばかりが続いたこともあり、いろいろ暴発する危険性がある。


「もうきれいになった。流してもう一度、湯船に漬かろうぜ」




●次話「魂のふれあい」、明日昼12:33公開!

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