2-4 対「アンノウン触手」戦
「よしっ!」
「冥王の剣」が、二本めの触手を斬り落とした。チーズを切るように、すんなり刃が入ってゆく。さすがは裏ボスレアドロップ品。必中スキル持ちの剣だけある。
切った断面は、まさに
「減速レベル三っ」
ランの魔法が飛んできた。重ねがけされて、残った四本の触手の動きが、また遅くなった。
「タコ野郎っ」
三本めに飛びついた俺の剣が、また脚を斬り落とした。斬り落とされた触手は、苦しそうに暴れている。
イケるっ。これはイケるぞっ!
と、その瞬間――。
どんっ!
大音響と共に、地面が吹っ飛んだ。大量の土埃が飛ぶ。
「モーブっ!」
マルグレーテが叫ぶ。
「見てっ!」
新たな敵……じゃないな、触手だ。今、見えた。地面から、新たに触手が生えた。三本ほど。うねうねと、火炎のように蠢いている。出てきたばかりだけに、なんの魔法効果も受けていない。斬り落とされた触手に素早く近寄ると、側に居た俺に触れ、一気に巻き付いてきた。
「くそっ!」
持ち上げられた。そのまま振り回される。腕ごと巻き付かれているので、剣を振るえない。触手は、俺を地面に叩きつけた。巻き付いたまま何度も。首がムチウチのようになって、頭がくらくらする。
マルグレーテが投げた回復ポーションが、俺の体に掛かった。
「ランちゃん、早く減速を。治療より先よっ」
「わかってる、マルグレーテちゃん」
ランは、一瞬だけ瞳を閉じた。
「減速レベル一っ」
魔法が飛んできて、触手の動きがわずかに鈍った。ランはもっと高レベルの減速魔法を使える。あえて低レベルにしたのは、詠唱時間を短くするためだろう。
「
マルグレーテの魔法が手裏剣のように触手を襲うと一本切れ、俺は空中に放り出された。
「ぐふっ……」
なすすべなく、俺はごろごろ転がされた。
「立ってっ! モーブ。次が来るっ」
マルグレーテの声を背に、なんとか立ち上がった。
「鎌鼬っ」
カンッ――。
マルグレーテの魔法はしかし、金属音と共に触手に弾かれた。見ると、この二本だけは色が違う。蛇の肌のように、
多分硬い。物理的な攻撃魔法では厳しそうだ。
「あっ!」
その二本が、ランを捕らえた。足首に巻き付き、地面の中へと引きずり込もうとする。
「てめえっ!」
飛びついて、冥王の剣を突き刺す。必中スキル持ちの剣だけに、相手がどれほど硬かろうが、関係ない。剣が触手を貫いて、地面に突き刺さった。昆虫標本を留めるピンのように、触手を固定できたことになる。
「やれ。マルグレーテ。凍らせるんだ」
「わかった! ――結氷レベル三っ」
大声で宣言すると、詠唱に入る。
残った三本の触手も、ランに這い寄ってきた。五本の触手すべてを使って、ランを地中に引きずり込む気だ。たちまち一本、ランの胴体に巻き付く。服の上から腹を締め付け、触手の先が胸に掛かっている。ランは囚われの身となった。締められる胸が苦しいのか、顔を歪めている。
「この野郎!」
俺は業物の剣を抜いた。鱗の触手は無理だが、ぬめってる野郎なら、この剣でもダメージを与えられる。
這い寄ってきた触手を一撃すると、すっと引っ込む。また様子を窺ってランに巻き付こうとする。ゲームセンターのなんちゃらパニック並の繰り返しだ。俺はそれを防ぎ続けた。
「ふ、
足首と胴を締め付けられ振り回されながらも、ランがけなげに詠唱する。詠唱終了と共に、俺とランを温かな緑の光が包んだ。
「飛んでっ!」
マルグレーテの願いと共に、真っ青な氷魔法が二本の触手、その根本に飛ぶ。触手の根本が一気に凍りつき動きを止めた。
凄い。
「結氷」は全体魔法ではない。全体に効かない代わりに強力な、個別魔法だ。それを同時に二発撃つとか、並の魔道士ではできない話。さすがはゲームのメインメイジ枠だけある。
今だっ。
ランを掴んでいる奴の根本に向かい、「業物の剣」で思いっきり、叩くように斬りつけた。
カンッ。
金属質の音と共に、砕けるように触手が分断される。根本から分断されても、触手は蠢いている。生命力の強い野郎だ。
地面に刺していた「冥王の剣」を抜くと、ランの足首と胸に絡みついていた部分を叩き切る。
「ラン、逃げろっ」
「うん」
ランがマルグレーテの横に逃げる。
「マルグレーテ。ぬめぬめ野郎は任せた」
「うんっ」
マルグレーテが鎌鼬を連発する。
「うおーっ!」
冥王の剣を振りかざした俺は、凍って地中に逃げることもできなくなった鱗の触手に斬撃を加え続けた。
●次話「新アーティファクト」、明日公開!
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