4-3 三人で混浴してみた

「ご飯、おいしかったね」

「そうね。……まあまあだったかしら」


 旧寮の俺のボロ部屋。飯から戻ってきたランは上機嫌だった。お泊まり会が、楽しくて仕方ないんだろう。なんせ代わり映えのない毎日だからなー。気持ちはわかる。


「ねえモーブ。お風呂入れといてくれた」

「おう。もう適温だ」

「じゃあ入ろう。行くよ、マルグレーテちゃん」

「うん」


 マルグレーテは、ベッドに置いたバッグを取り上げた。飯のついでに、自分の部屋から寝間着と替えの下着を取ってきたんだと。


「ほら、モーブも」

「おう」

「えっ!?」


 俺が立ち上がると、マルグレーテの声が裏返った。


「モ、モーブも?」

「そうだよ。毎日一緒に入ってるし。ねっモーブ」

「そうだな、ラン」

「ち、ちょっと待って。わ、わたくし殿方とは……」

「お風呂、気持ちいいよ」

「それとこれとは……」

「……せっかく友達になったのに」


 悲しげに、ランが眉を寄せた。


「その……モーブ、わたくしの裸見たりしないわよね」

「しないしない。風呂桶は大きいし、端に漬かればいいよ、マルグレーテ」

「そ、そうね……」


 まだなにか迷っているようだ。瞳が泳いでいる。一度バッグをベッドに置いて、それからまた持ったりしている。


「い、いいわ。入りましょ」


 おっ。ようやく決断したか。


「別にただのお風呂だものね。お父様との約束、破ることにはならないし」

「わあ。じゃあ行こっ。こっちこっち」


 手を引いてグイグイ歩く。ラン、散歩する大型犬みたいだなー。


         ●


 マルグレーテ、見てたら笑うよ。脱衣場でもキャビネットの陰に隠れて、頭しか見えない位置で脱いでたし。一番でかいバスタオルを選び、よせばいいのに体に巻いたまま浴場に入った。俺とランは普通に素っ裸だ。いつものことだしな。


「じゃあ入ろっ」


 胸も腰も隠さず、あっけらかんとしたランが、湯船に入った。こちらに向き直る。湯の深さは膝丈もないくらいだから、ぜーんぶ丸見えだ。


 ざぶーんと豪快に腰を下ろした。そうすると、ちょうど胸の半分くらいの位置に、水面が来る。


「うん。いいお湯だよ。モーブ、今日も完璧だねっ」

「おう」

「早く来なよマルグレーテちゃん。このお湯、私が森で摘んできた薬草を入れた、薬湯だよ」

「そうなのね。いい香りがすると思ってたわ」


 マルグレーテの体にはきつく、白いバスタオルが巻いてある。もう脇の下から膝下まで全部隠れてるから、シロクマ毛皮のタイトなパーティードレス着てる雰囲気だわ。髪もお団子にまとめてくくってるから、「盛り髪」風だし。


「モーブ。こっち向かないでよね」


 横に立つ俺を、見もせずに警告する。そりゃあな。俺はいまスッパだし、体の角度変えたら、全部見えちゃうからな。ランは無邪気だし、俺の裸とか気にもしないけど。


 おそるおそるといった様子で湯船に近寄ると、ちょっとだけバスタオルをめくって、浴槽の縁を跨いだ。ランの隣でこちらを向くと、下を見たまま、湯に浸かる。バスタオルを湯浴み着のように巻いたまま。


「は、早くモーブも入りなさいよっ」


 下を向いたままだ。そりゃあな。このまま顔を起こしたら、俺の股間、ちょうど顔の真正面で見ることになるし。貴族の令嬢が、それはキツいだろう。


「わかったわかった」


 ざぶざぶ入ると、ランの隣に位置取った。マルグレーテの隣に座ったらどうかなと一瞬考えたけど、そこまでからかったら、さすがにかわいそうだ。なんせ揺れる湯を通して、俺の下半身の形、なんとなくわかるからな。


「はあー、いい湯だね、モーブ」

「そうだな。ラン。やっぱり梅雨は、風呂に限るな。毎日じめじめしてるから、さっぱりしたいし」

「そうだよ。湿気があるから私の髪もほら、こんなにぼさっと広がっちゃってるし」


 俺の手を取り、自分の頭に触らせる。マルグレーテと違ってくくっていないから、長い髪の先は湯に漬かってクラゲのように揺れている。


「湿度のせいね」


 マルグレーテが会話に参加してきた。さっきまで顔まっかだったけど、ようやく落ち着いたみたいだな。俺の位置からはマルグレーテ見えないし。


「ランちゃんの髪、量が多くて素敵よ。カールしててかわいいし。女子っぽい」

「えー……。そうかな。洗うの大変だよー。ごめんね、モーブ」


 腕を上げて、巻毛の金髪を摘んで見せた。そうすると胸が上がって、先が水面の上に出た。ランのそこ、きれいなんだよなー、薄桃色で。柔らかそうだし。白い肌、薄い色の金髪に、よく似合ってるわ。


「わたくしの髪は、ランちゃんみたいにきれいにカールしてないし」

「でも、きれいなストレートだから、洗うの楽そう」

「それはそうね」

「それに、赤毛もかわいい。ツヤツヤしてるし」

「手入れが大変よね。女子は」

「えへへっ。大丈夫。モーブ、上手いから」

「あの……さっきから少し……」


 戸惑ってるな。


「さて温まったし、モーブ。洗いっこしよう」


 ざばー。


 俺の手を取って立ち上がった。


「おう」


 ふたり、洗い場に移動する。


「洗いっこ……」


 マルグレーテの呟きが聞こえた。


「どっちが先にする、モーブ」

「いつもどおり、俺が洗ってやるよ、ラン」

「わあ。じゃあお願いねっ」


 腰掛けたまま、ランが俺に背中を向ける。


「まず頭からな」


 ランの頭に湯を掛けると、シャンプー入りのガラス瓶を手に取った。ガチ異世界じゃなくゲーム世界だけに、普通にシャンプーとかあって楽だわ。手に出した。


「目をつぶってろよ。入ると痛いから」

「うん」


 マッサージするようにして、頭に揉み込む。またシャンプーを、今度は大量に出すと、髪の真ん中あたりに。ラン、髪が多いだけに、こうして三部分くらいに分けて洗わないとならないんだよ。


 マルグレーテは、なにも言わない。あの位置からだと、俺とランを横から覗く形だ。俺は腰に小さなタオルを掛けているから、とりあえず下半身は隠れている。だから多分だけど、安心してこっちを見ているはずだ。自分が俺に見られるのは恥ずかしいだろうけど、逆ならただの男の裸だからな。


「終わったぞ、ラン」

「次は体、お願いね」

「えっ……」


 湯船から声が聞こえたけど、無視……というか、聞こえないフリをする。


「はい、モーブ」


 自分の髪をまとめて、前に持っていった。俺の前には、すべすべのランの背中が見えている。湯で温まって、ほのかに赤らんだ、真っ白な。背筋がきれいにすっと通っている。


「痛いから、手でやってよね」

「わかってるって」


 タオルとかタワシ的なものを使うと、嫌がるんだよ、ラン。痛いって。


 石鹸を手に塗り泡立てると、ランの背中に置いた。温かくて柔らかい。


 そのまま、生卵の表面を撫でるように優しく、洗っていく。背中左右、脇腹、もう少し上に手をずらして、脇の下。首筋と耳――。


 ランの奴、脇の下とか首筋洗ってやると、すごくくすぐったがるんだよ。手をぎゅっと握って腿に当て、目をつぶって我慢してる。あと多分だけど、くすぐったいを通り過ぎて、ちょっと感じてるんじゃないかな。ときどき体が震えたり、小声が漏れたりするし。


 そういうときも、俺は知らん顔して洗うんだ。もう毎日のルーティンだから、慣れたってのもあるし。


 背筋を上から下まで。ついでにもう少し下まで行って、肛門くらいは洗ってやるんだ。ここヘクトールのトイレは、洗浄用のシャワーが付いている。この世界で電気は利用されていないので、ただのホースで自分で洗うだけだが。だからきれいなはずだけど、風呂入ったら絶対洗うだろ。ここも、どえらくくすぐったがるんだわ。洗ってる間中、もぞもぞしてるし。


「ほら、終わったぞ」

「ふう……」


 溜息ついてるな。


「前は自分で洗えよ」

「うん」


 石鹸を塗った手で、胸や腹、脚なんかを洗っている。


「……じゃあ、次はモーブね」


 こっちを向いたんで、俺は背中を向けた。

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