喜ぶか否か

「あらぁ、随分と変わっちゃったわねぇ……」


 サマンサは思い出の地の変わり果てた姿を見て、悲しげな表情を浮かべる。


「話には聞いていたが、これはひでぇな」


 コーツもショックを隠せない。


「大丈夫大丈夫、ニジイロソウはちゃんとこっちに咲いてるから」


 2人の反応を見て、タフィは急いでマレッドのところへと案内する。


「ほら、あそこ見て、ちゃんと咲いてるだろ」


 タフィが指差す先を見ると、虹と同じ配色で7本のニジイロソウが美しく咲き誇っていた。


「おぉ、数は少ねぇが、きれいに咲いてるじゃねぇか」


「ええ。それに、あの上に咲いてるピンクの花もきれいね」


 先ほどとは打って変わって、2人の顔には笑みがこぼれる。


「で、そのピンクの花がジェイコブセンさん」


(ドウモ)


「おぉっ!」


「ひゃっ!」


 マレッドとの初接触で、コーツとサマンサは当然のように驚いた。


「やっぱ最初はびっくりするよな」


 2人のリアクションを見てタフィは笑っている。


 コーツはタフィに向かって軽く咳払いをすると、何事もなかったかのようにあいさつし始めた。


「……はじめまして、コーツ・ゴッチです。こっちは、妻のサマンサです」


「どうも。ちょっとびっくりしちゃったわよぉ、いきなり声が聞こえてくるんだもの。あのね、あたしあなたの包丁ずっと使ってるの。あれ、切れ味が全然落ちないわね。しかも、もう何十年も使ってるんだけど、砥石で研いだのなんて数えるくらいだから、刃もそんなに減ってないのよ。本当に良くできてるわねあの包丁」


(……ア、ソレハドウモ)


 マレッドはサマンサの間欠泉のようなおしゃべりに圧倒されている。


「あとね……」


「おばあちゃん、ちょっとしゃべりすぎ」


 見かねたカリンが止めに入る。


「あらそお?」


 サマンサにその自覚はなかった。


(……タフィタチカラ話ハ聞イテルト思ウガ、ササノハアワダチソウニヨッテ、ココニ咲イテイタニジイロソウハ、ソノホトンドガ失ワレテシマッタ。ダガ、見テノトオリアワダチソウハ皆排除シタ。時間ハカカルガ、イズレ元ノヨウニニジイロソウガ咲キ誇ルヨウニナル)


「そうですか……それは楽しみですな」


 コーツは改めてゆっくりと周囲を見回し、最後にタフィへ顔を向けた。


「タフィ……儂は喜んだぞ」


「え?」


 タフィはその言葉の意味をすぐに理解することができなかった。


「……わかんねぇのか? 儂は、“喜んだんだ”ぞ」


 コーツはわかりやすく強調して言い直し、タフィもようやくその意味に気づく。


「あ、もしかして試験合格ってこと?」


 コーツはうなずきつつ文句を言う。


「スッと気づけ」


「わりぃわりぃ、ただの感想かと思ってさ」


「儂はそんなバカみたいな感想は言わんぞ。……まぁいい、これでお前とボイヤーは晴れて卒業決定だ」


「おっし、やったぞボイヤー」


「はい」


「おめでとう、タフィ、ボイヤー」


「おめでとう。2人ともよく頑張ったわね。あたしも最初にここの光景を見た時は言葉を失っちゃったけど、いずれ元に戻るって聞いて、本当に嬉しかったわ。ありがとうね」


(無事卒業デキテ良カッタナ)


 カリンが2人に向かってお祝いの拍手を送ると、サマンサも続いて拍手を始め、マレッドも祝意を述べた。


「戻ったらすぐに卒業式をやるからな」


「すぐって、まさか明日ってことはないよな?」


 タフィは念のために確認する。


「さすがにそれはねぇよ。まぁ、準備等々を考えて3日後ってとこかな」


 こうして、タフィとボイヤーの卒業試験は無事終了したのであった。

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