コーツの反応ふたたび
翌朝、タフィたちはコーツのもとを訪れ、“コーツの思い出の場所復活プロジェクト”ともいえる一連の活動内容を丁寧に説明した。
「……というわけで、なんとかこの状態まで持ってきたんだよ」
タフィは、前回以上に頑張ったんだよ感を前面に押し出して力説した。
「そうか、そんなに際どい状況だったのか。しかし、お前らも随分と顔が広いな。儂も知り合いは多い方だが、さすがに植物の知り合いまではおらん」
「俺らもこの前知り合ったばっかりなんだけどね。頭に直接語りかけてくるから、慣れるまでちょっとびっくりするんだけど、悪い人じゃないよ」
「ジェイコブセンさんとは、儂も2回ぐらいお会いしたことがあるが、あまり愛想がいい感じではなかったな」
「そんなことより、俺らと一緒に花を見に行ってくれるだろ?」
「もちろんだとも。そうだ、サマンサを一緒に連れていっても構わないか?」
「もちろん構わないよ」
断る理由などあろうはずがなかった。
「で、出発なんだが、ヴァネティには宿があったよな?」
「うん、あるよ」
「なら、今日の午後に出発しよう。馬車の支度とかを整えておくから、昼過ぎあたりにまたここへ来い」
「わかった」
この後、タフィたちは予定どおり馬車でヴァネティ村へと出発し、宿で1泊した。
翌日、5人は心地よい風を受けながら河原を歩いていた。
「ここを歩くのも何年ぶりかなぁ?」
「5年ぶりくらいじゃないですか」
コーツのつぶやきに対し、甲高い声で答えたのが妻のサマンサ。身長151センチと体格は夫に比べてだいぶ華奢だが、声のボリュームは夫に引けを取らないほどに大きい。また、今の髪色はピンクベージュだが、季節や気分によってちょいちょい色を変えていた。
「あの足取りなら大丈夫そうかな」
先を歩くカリンは、時々後ろを振り返ってサマンサの様子を確認していた。
「この前の恐竜でもいいから、なんか出てきてくんないかな」
タフィは向こう岸の方を見ながら不意にそんなことをつぶやいた。
「なんでですか? 出ない方が安全でいいじゃないですか」
ボイヤーにはタフィの考えていることがよくわからなかった。
「そりゃそうなんだけどさ。折角学園長がいるんだから、俺のバッティングで獲物を仕留めるさまを見てもらいたいんだよね」
「なるほど。その気持ちはわからなくないですね」
すると、タフィのつぶやきに呼応するかの如く、50メートルほど先の進路上に野生動物が姿を現した。
「お、なんかが水飲みに来たぞ」
「あれはハートケラトプスの子供ですね」
現れたのは体長70センチほどの四足歩行の恐竜で、鼻先には小さな角があり、後頭部には盾のように大きく上部に張り出した襟飾りがあった。
ちなみに、正面から見た顔の形がハートに似ていることが名前の由来である。
「ああいうの攻撃したら100パー怒られるな……あっ!」
森の中から出てきたのは体長3メートルほどの巨大なイノシシで、一直線にハートケラトプスへ向けて突進し、そのままガブッと食らいついたのだ。
「あいつなんだ?」
「あれはオオミミイノシシですね。イノシシの仲間としては珍しい肉食性で、とても食欲旺盛なんです。あの大きな耳で微かな物音でも聞き漏らさずに反応して、ああいう風に獲物に襲いかかるんですよ」
「要するに、危険な動物ってことだよな?」
タフィは念押しするように聞いた。
「……はい」
ボイヤーは苦笑しながらうなずいた。
「なら問題なしだな。ボイヤー、ファイヤーボールの準備」
前回の失敗を踏まえ、タフィはしっかりと足もとを整える。
「よしっ、投げろ」
「はい」
「おらぁっ!」
タフィは食事に夢中になっているオオミミイノシシの頭部へ狙いを定め、トスされたファイヤーボールをフルスイング。
「プギィーー!」
鋭いライナーとなったファイヤーボールは、狙いどおりオオミミイノシシの頭部を直撃し、イノシシは悲鳴をあげながら絶命した。
「よっしゃぁ!」
タフィは後ろをチラッと振り返って、コーツの反応をうかがった。
「ほおぉ、随分と使いこなしてるじゃねぇか」
「へへっ……あっ」
タフィはコーツと目線が合い、慌てて正面を向く。
「ガッハッハッハッハ!」
それを見て、コーツは周囲に響き渡るような大声で豪快に笑うのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます