【なろう日間2位獲得】カンニングして美人先輩の好みの男になって告白をOKさせる作戦

猫カレーฅ^•ω•^ฅ

カンニング

「真下先輩が1か月以内にこの学校の誰かに告白するらしい!」




そんな大ニュースが飛び込んできたのは、今日の昼休みだった。


真下朝凪(ましたあさなぎ)先輩。

モデル体型でスタイル抜群で有名な先輩。



イメージを一言で言うならば、『ちょっとエッチなお姉さん』。



別に制服を着崩したりしていないのだが、とにかく目を引く。

声やしゃべり方なんかはもちろん、仕草なんかもビリビリ来るくらいかわいいのだ。


それは、3年の間だけではなく、1年、2年にも波及して、現在では学校全体が注目している存在となっていた。


そんな大人気の先輩だが、誰とも付き合っていない。

それもまた人気に拍車をかけていた。


その先輩が自ら告白するというのだから、学校内で話題にならない訳がないのだ。






俺は、石原銀河(いしはらぎんが)、1年で直接的に真下先輩とはつながりがない。

じゃあ、チャンスが無いかと言えば、そうではないのだ。


うちのクラスには、真下朝凪先輩の妹、真下夕凪(ましたゆうなぎ)がいる。

こいつは、俺と幼馴染。

夕凪は、どっちかって言うと、パッとしない感じで同じ姉妹とは思えないくらい。


姉の朝凪先輩が、キラキラだとしたら、妹の夕凪は半眼で無表情、いつも冷静という感じ。


それでも、夕凪を含め、俺の少ない人脈を辿って行けば朝凪先輩の好みがわかるかもしれない。


俺は、先回りしてその理想の男子になって朝凪先輩に告白されようという魂胆だ。

そうと決まれば、真っ先に夕凪のところに行った。



「夕凪!」


「えっ!?」



昼休み、ひとりで本を読んでいるところに急に声をかけてしまって驚かせてしまったようだ。

持っていた文庫本を床に落とすくらい驚いていた。


『すまん』と言って、俺は文庫本を拾い、夕凪に手渡した。

夕凪の席の前の席に座り、こそこそ声で聞いた。



「朝凪先輩の噂は本当か!?」


「噂って、お姉ちゃんが誰かに告白するって……そんなやつ?」


「そう!それ!」


「うん……確かに、そう言ってた」


「本当だったか……」


「挑戦するの?」



夕凪はちょっと慌てている。

俺は声がでかい方なので、怖がらせてしまったか。



「もちろんだ!この学校の男子なら誰でもトライしたいはず!」


「……じゃあ、お姉ちゃんから聞いた秘密を教えるね」


「マジか!?そんなのあるの!?」


「お姉ちゃんが、お昼に食堂で友達と話すときに、少しずつ好みの人のことを明かしていくんだって」


「なに!?それは本当か!?」


「お姉ちゃんは、お昼にいつも高野先輩とご飯を食べてるんだけど、あ、高野紬(たかのつむぎ)先輩ね」


「うん」


「その高野先輩と話すときに少しずつ好みを言っていくって」


「そんなの言ってどうするよ!?」


「高野先輩は、情報通だから、学校中に噂を流すんだってさ」



なるほど、実際、俺のところにも『朝凪先輩が誰かに告白する』という噂は見事に伝わってきている。

それならば、直接聞いて、正確に好みの男になった方がいいな。


俺は毎日弁当だったが、これから1か月間は食堂利用に切り替えることを決意した。



「なあ夕凪、お前、昼は食堂だったよな?これから1か月間、朝凪先輩の席の近くを確保して一緒に昼ご飯を食べてくれないか?」


「銀ちゃん、本気ー!?」


「そうだ」


「しょうがないなぁ。わかった。いいよ」



こうして、俺は内通者を一人確保して、他よりもアドバンテージを得た。





■1日目

昼休み、朝凪先輩がいつもどこの席で食べているのかを夕凪に調べておいてもらい、そのすぐ隣に陣取った。

夕凪がいることで、俺がそこにいても変じゃない。


我ながら素晴らしい作戦だ。



俺は静かに夕凪と2人用のテーブルに向かい合って定食を食べている。


少し離れてやはり2人用テーブルに、朝凪先輩と高野先輩がいて話しながらご飯を食べている。

夕凪がいたことで『あら、珍しいわね』なんて朝凪先輩が話しかけてくれたけど『はい』としか返せなかった。


朝凪先輩が誰にも聞こえないくらいの声で『よしよし、釣れた釣れた』と言っていたのを俺は聞き逃さなかった。


俺のことを狙ってくれている!?

満更じゃないってことか。

このチャンスを俺はモノにする!


食事中、チラチラと横目で盗み見たら、お箸の使い方が美しい!

そう言えば、夕凪もお箸の持ち方が正しいし、真下家の教育方針なのかな?

俺も真似せねば。



「私、付き合うなら清潔感がある人がいいの」


「それは、大事よね」



食事の後、朝凪先輩が好みについて話し始めた。

高野先輩はスマホにメモしながら聞いているようだ。

これは本格的だ。



「髪型が似合っているかは別として、髪の毛伸び放題の人はちょっとねぇ」



なるほど、『こまめに散髪』と。

今日は、学校帰りに早速髪を切ろうか。




食事が終わると、朝凪先輩と高野先輩は行ってしまった。



「バッチリ聞こえたね」



夕凪が『ほら言った通りでしょう?』と言わんばかりに言った。



「たしかに。この調子で1か月間頼むよ」


「しょうがないなぁ、銀ちゃんのお願いだからね」



お礼とばかりに2人分のトレイを片付けることくらいはする。



「銀ちゃん、ありがとう」


「気にすんな」



俺は通常2か月に1回くらいしか髪を切らない。

切りに行くのが面倒だからだ。


でも、朝凪先輩と付き合えるのならば、月一……必要なら2週間に1回くらいのペースで切っても全く問題ない。






■2日目

今日も朝凪先輩の席の近くを確保した。

どうもいつも朝凪先輩と高野先輩は同じ席で食事をしているらしい。


それがわかっていれば、席の確保はしやすい。

一刻も早く食堂に着て、俺と夕凪の席を確保しつつ、一応朝凪先輩と高野先輩の席も確保し、先輩が来る直前に空ければいいのだから。


しかも、さりげなく毎日会うことで、俺自身をアピールすることができる。

完璧すぎる作戦だ。



「朝、自分で起きられる人ね」


「低血圧はダメってこと?」


「うーん、前の日に無駄に遅くまで起きていないとか、規則正しい生活って意味かな」


「なるほど」



今日も簡単に実現できそうなものだ。






その後、1週間同じようにカンニングしてみたが、『制服を着崩さない』『靴のかかとは踏まない』など、比較的簡単に実現できる身だしなみや生活態度についてのことだった。


特に問題なしだ。






■2週目

2週目は、趣味に関するものだった。

先輩は意外にも本をたくさん読むらしい。

だから、本の趣味がある人がいいらしい。


そこで、夕凪に聞くと、朝凪先輩とはよく本を貸し合って読んでいるのだという。

つまり、夕凪の持っている本を読めば、朝凪先輩とも本の話ができる、と。


これは、他のやつに大きく差をつけるチャンスだ。



「夕凪、本を俺にも貸してもらえるか!」


「いいけど、ラノベとかだから、銀ちゃんつまらないかもよ?」


「いいんだ。知りたいんだ!」


「しょうがないなぁ。わかった……じゃあ、読みやすそうなのから持ってきてみるね」


「夕凪は1冊どれくらいで読むの?」


「時間?1晩か2晩で1冊読んじゃうかな」



思ったよりもペースが早いな。



「家に本って何冊くらいあるの?」


「うーん、100冊くらいかなぁ?いっぱいになったら古本屋さんに売りに行ったりしているし」



3週間で100冊読むとしたら、1日1冊持ってきてもらっていては間に合わない。



「夕凪、今日、家に行くから10冊ずつくらい貸してもらえないかな?」


「え!?銀ちゃんがうちに!?い、いいけど……」



運が良ければ朝凪先輩にも会えるかもしれない。




「おじゃましまーす」


「いらっしゃい」



そう言えば、夕凪の家に来るのは小学校以来。

小学校の高学年になるころには、クラスのやつに冷やかされて、できるだけ一緒にいないようにしていたっけ。


中学の時は、俺が部活、部活で全然普通の生活じゃなかったし。


なんか不思議な感覚。

久々に来たのに、昔のままみたいな……


あれ?夕凪って私服もダサダサだな。

せっかく朝凪先輩の妹なんだから、もうちょっとちゃんとしたら、かわいいだろうに。


部屋に通されたが、部屋も昔の雰囲気のまま。

机なんて、小学校の時に使っていたやつそのままだ。



「本はね、この本棚と、この段ボールの中。好きなのから持って行っていいよ」


「サンキュ」



100冊は伊達じゃない。

結構な量があった。


どれがいいのかわからないので、夕凪がおすすめの本の中から、表紙の絵を見て10冊選んで借りて行った。



「あ、これは持って行った方がいいかも」


「これ?」



一冊の本を特に勧めてきた。



「一番最近お姉ちゃんに貸したし、面白かったって言ってた」


「マジか!?それから読む!」


「ふふふ」


「どうした?」


「銀ちゃんと本の話ができる日が来るとは思わなかったから…」


「俺、普段マンガばっかだからな」


「マンガも原作がラノベってのが結構あるよ?」


「マジ!?」


「これとか、この間、銀ちゃんが読んでたやつ」


「え!?これ原作ラノベなの!?」


「うん、他にも、ドラマになるやつとかも最近多いかな」


「へー、そうなんだ」



俺の知らない世界だった。

とりあえず、読んでみるか。



(コンコン)「ユウー」


「なにー?」



ガチャという音と共に、朝凪先輩が顔を出した。

タンクトップにショートパンツというかなりラフな格好で、かなり露出の高い……



「あ、ごめん。お客さん?ああ、銀河くんか。珍しいね」


「あ、はい。まあ……」



朝凪先輩は、電池かなにかを夕凪が持ってないか聞きに来たらしい。

めちゃくちゃ色っぽい姿が見られた。

眼福、眼福……



「朝凪先輩って家ではいつもあんな感じ?」



夕凪の方を見て聞いてみる。



「お姉ちゃん、家では割とだらしなくて……」



めちゃめちゃいいじゃないか!

学校ではピシッとしていて、家ではダラダラ……

『俺だけが知っている』感が優越感を煽る。




ある日、わざとらしく食堂で例の本をテーブルの上に取り出した。

そしたら、朝凪先輩の目にとまったらしく、話しかけてくれた。



「あ、それ読んでるの!?私も読んだ!」



まあ、まさにその本なんですけどね、これが。



「これ面白いですよね。まさか、犯人と被害者と探偵が全て同一人物なんて」


「そう!発想がすごいよね!」



上手く朝凪先輩と話もできた。

上々だ。



「ふふふ、好みが一緒だとお姉さん嬉しいなぁ」


「あ、俺も嬉しいです」



めちゃくちゃ好印象!

朝凪先輩が笑ってくれた!


今日の食事の後に夕凪にお礼を言った。



「かなりアピールできたっぽい!ありがと!」


「よかったね。新しいのがあったら優先的に教えるよ」


「サンキュ」



ふふふ、完璧なタッグ体制が構築されている。





■3週目

3週目となるとかなりハードルが高くなってきていた。



「さあ、今日の好みを教えて」


「そうね、カレシには女友達もいてほしいわ」


「え?でも、やきもち妬いちゃわない?」


「うーん、仲が良い子がいても、それでも私ってのが萌えない?」


「なるほど、ちょっとわかるかも」



女友達か……俺には夕凪しかいない。

食堂で、朝凪先輩たちが立ち去った後、夕凪に聞いた。



「俺たち友達だよな!?」


「なに?どうしたの?急に」


「ほら、さっきの『女友達』…俺にはお前しかいないんだよ」


「なんか急に口説かれているような錯覚を起こしてきたよ」



確かに、言葉だけを聞いたらそう聞こえなくもない。



「私という友達を踏み台にして、お姉ちゃんを捕まえようとしているんだから、ひどい男だよ。銀ちゃんって」


「そういうなよ。ちゃんと埋め合わせはするから!」


「しょうがないなぁ。期待しないで待ってる」




これで『女友達』は確保だ。





次のハードルはまた難しかった。



「女友達の髪型とか服装にアドバイスできる人がいいな」


「センスとかあるからね」



相変わらずの高野先輩との会話では、女友達に、髪型とか服のアドバイス……

急にむちゃくちゃハードルが高くなった。



「夕凪……お前、髪型とか……」


「うん、ほとんど気にしてないね」


「とりえず、美容院に行ってみないか?」


「それも、お姉ちゃんの?」


「そう」


「まあ、付き合ってもいいけど……私あんまり目つき良くないから前髪は短くしたくないよ?」


「半眼だけど、それはそれでアリだと思うぞ?」


「そうかなぁ?」


「お前は、昔から前髪長いし、髪の毛多いから全体的にもっさりしてたんだよ。前髪切って、髪梳(すい)いてもらったら?」


「変になったら恥ずかしいの私だよ?責任取ってくれる?」


「責任って?」


「髪を伸ばすとか」


「無茶を言う!」


「しょうがないなぁ。まあ、いいや。銀ちゃんのためだ、ちょっと切ってみるよ」


「おお!サンキュ!じゃあ、『服装のアドバイス』の方で、服をプレゼントするよ!」


「え?服?」


「お前いっつも黒っぽいのしか着てないから、もうちょっと違うやつ」


「えー、着ないかもー」


「俺からのプレゼントだったら、着なくても損はないだろ?」


「まー、そうだけどぉ……」


「じゃあ、今週末買いに行くか!」


「え?一緒に!?」


「だって、好みとかあるだろうし、サイズとか俺知らないし」


「うーん……わかった」



渋々って感じだけど、OKしてくれた。

これでまた朝凪先輩が近づいたな。






日曜日には、ちょっと小洒落たショップに行って、服を選んだ。

話好きの店員さんの勧めで夕凪の上から下まで一式買ってしまった。

高校生の財布には厳しかったけど、びっくりするくらい似合っていた。


だから着て欲しかった。

たまには、幼馴染にプレゼントも悪くない。


会計が終わると店員さんが紙袋を手渡してくれた。


それをそのまま夕凪の前に出した。



「……ありがとう。お姉ちゃんにアピールしとくよ」


「ああ、頼む」



なんか、紙袋を大切に持ってくれていた。

こういうの嬉しいな。






■4週目

4週目は、夕凪に食堂まで付き添ってもらうのをやめた。

もう一人で大丈夫。

ミッションのハードルは益々上がっていった。



「え?デート!?」


「そう!今週のミッションは、女の子をエスコートできるようにならないといけないんだよ!」


「ううう、どうしよう。今日は本屋に行きたい……」


「よし!それだ!本屋デートしよう!」


「うーん、それなら……しょうがないなぁ。」





■翌日

「え?また!?」


「そう、1コースだけだと付け焼刃でも何とかなるだろ?今日は図書館行ってみようぜ!」


「図書館……」



難色を示す夕凪。



「ここの図書館は、やたらラノベが多いらしい。タダで借りられるなら良くない?」


「え?そうなの?……じゃあ、行ってみようかな」






「この作家さんがここの書店で週末サイン会するらしいよ?」


「え!?ホント!?」


「ちょっと遠いけど行ってみたい?」


「うん!行く!」



4週目はほとんど夕凪とデートして過ごした。






今日は放課後、夕凪の家に来ている。

借りていたラノベを返して、新しいものを借りるためだ。


本棚の前でしゃがんで吟味している時に、後ろから夕凪に声をかけられた。



「ねぇ、そろそろじゃない?」


「なにが?」


「お姉ちゃんの告白の日」


「ああ、そうだね」


「今日、いるから聞いてきてあげようか?」


「いや、いいや」


「でも……」


「もう、いいんだ。朝凪先輩は憧れだった。俺が今、好きなのは夕凪なんだ」


「は!?」


「これまでは、朝凪先輩に好かれようと思って、行動してきたんだけど、これからは夕凪に好かれるように行動しようと思って」


「いつから?」


「実は、今週は朝凪先輩の話聞いてない……」


「だからかぁ、やたら私とデートだったし……」


「夕凪とデートしたかったから……」



めちゃくちゃかっこ悪い告白に恥ずかしい思いをしながらも、振り返って夕凪を見た。

彼女はベッドの上に座っていたけど、いつもの半眼で表情は読みにくかった。



「それは無理かも……」


「俺じゃダメってこと!?」



慌てて身体ごと夕凪の方を向いた。



「私って昔から銀ちゃんのこと好きだから……」


「え!?」


「普通いないよ?他の女に好かれるために協力する女の子。我ながらダメだと思ったよ」


「ふっ」


「あと、途中で思ったけど、多分、お姉ちゃん誰にも告白しないと思うよ?」


「そうなの?」


「ちょっと前、私に『銀河くんとは最近どうなの?』って聞いてきたから、『銀ちゃんは、お姉ちゃんに夢中』って答えたし」


「それに関しては……」


「ホントにいいの?私、お姉ちゃんに似てないよ?」


「夕凪の良いところを知ってるのは俺だけだし、一見、無表情でも、俺なら分かるし、考えてみたら、最高だった」


「私も買ってもらった服とか嬉しかった……新しい髪型も、挑戦してみてよかった」


「かわいくなったと思うよ?ただ、他のヤツに見せたくないっていうか……」


「なに、急に独占欲出してきてんの」


「独占されてよ~」


「しょうがないなぁ、銀ちゃんは」


「あと、心配しているかもしれないから、朝凪先輩に報告に行く?」


「それは恥ずかしいから嫌」



結局、俺は朝凪先輩に思った通りに動かされていたのかもしれない。

それでも、踊らされることで最高にかわいい彼女ができた。

あとでお礼を言いに行こう。

夕凪と一緒に、朝凪先輩が好きそうなラノベを持って。

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