ep.50 十分、良いステージまでいけたんじゃないかな 1/2
強い日差しが照りつけているなか、
それを避けるように木々の翳りに位置したベンチに座る。
飲料メーカーのロゴが入る古びた木製の古いもので、
二人で座るには十分な広さだった。
「冷たッ……。んーー、美味しい」
備え付けの小さな匙で、チョコミントアイスの先端から掬い口に運ぶ。
沙織は、感嘆の声をあげながらさも幸せそうな表情を見せていた。
「ちょっとは機嫌直してくれたか? アイスで買収っていうのもあれなんだけどさ」
「ん? え? あー。最初から別に怒ってないよ? アタシ。ちょっと一樹のことからかっただけだもん」
「は? なんでだよ」
「だってー。アタシの気を引くためにわざと後輩ちゃん達とロールケーキ食べてるところ見せつけたりー? そんなあざといことした仕返しかなー」
つむぎと渚とお茶をしていたときのことだろう。
あれは、必要なイベントのためで決して他意はないのだが……。
そもそも発案したのは俺じゃない。
「いや、あれはなつ海が!」
「あーあ、そんな妹のせいになんて……なつ海ちゃん可哀想。……嘆かわしい! ってまた言われるよ?」
なつ海の口調を真似て沙織は大げさに言い放つ。
土曜日ということもあり、沙織はいつかと同じくワンピースにベレー帽という私服姿だった。可愛いよりは格好良い女性といった感じだ。
「……よくご存知で」
「全部、見てるって言ったでしょ、君のこと。あ、いまのナシ。なんか恥ずかしいこと言った気がする」
帽子のつばを手で抑えて少し被りを深くする。
恥ずかしがりなところは、付き合うまえからも見てとれたことではあるが、目に見えてこうも照れられるとこっちまで恥ずかしくなる。
「それにしても……朝から猫カフェ行って。アイス食べて。これから映画ってことは」
「うん、わかった? 一樹がやってきたこと。全部見ておきたいんだ。だから連れてってくれるよね、カレシさん」
源乃愛とのファーストコンタクトとなったカフェ。
結城さやかと訪れたアイスクリーム屋でアイスをねだった理由。
そしてこれから向かう先は、日向由依とのデートコース。
その行動と日付を、俺はすべて彼女に伝え続けてきた。
「アイス、鼻についてるぞ」
彼女の鼻先に触れる。
アイスブルーのクリームをすくい取り舐める。
甘さのあとで少しだけミントの香りがした。
「えへへ、ありがと。アタシずっと聞き役だったからさー。何日には、乃愛さんとどこいったーとか、何日にはさやかとなになにを食べたーとかね。連絡してっていいましたけどー。妬かないわけないよね」
「でも、わかってるよ。君がそうやって頑張ってくれていたこと」
「そりゃどうも。なんかさやかから言われたか?」
「ん、たっぷりとね。でも、応援してくれてる。……あのことは、これからのことはあんまり話してないかな。なつ海ちゃんたちは?」
「こっちは色々聞かれたり、若干不機嫌だったり。ゲーム付き合わされたりしたくらいだな。現象のことは特に話してないな。明日には乃愛とさやかを加えて話すってことになったわけだしさ」
リサマなら、そろそろ最後のリープが発生するはずだった。
それは書き換えられた死という現象の
いや、誰であっても駄目なんだ。だれが欠けても俺達にとっての幸せなエンディングじゃないのだから。
「どんな顔してみんなに会えばいいんだろー……! やっぱり、開口一番ごめんなさい。とかかな」
「謝罪会見じゃないんだからさ」
「うー……不安でチョコミント吐きそう〜〜」
そう言って沙織は、口元を抑える。
このときの俺はまだ彼女の心をわかっていなかったのかもしれない。
沙織のもつ強さも決意も知らないままで、俺は彼女の手をとった。
「そろそろ映画始まるから、急ごうぜ」
「うん! でもちょっと……アタシまだ、コーンのとこ食べきってないの!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます