ep.19 ひとつ、ヒントをあげる 1/2
放課後、人もまばらになった図書館で、さやかと乃愛が対峙していた。
机のうえには水晶玉と古めかしい占星術の書物。
夕暮れの日差しに反射して、オレンジ色に怪しく光っていた。
「さやか、あなたって大胆なところもあるけど、結構繊細なのね」
「え? あ、確かに……。乃愛に言われると、そうかもって思っちゃう」
「あと……そうね、小さな不安を抱えているんじゃないかしら」
「ッ! うんうん、そうなの!」
やりとりからして、乃愛が占い師で、さやかはその客役のようだった。
図書館に集合した理由は、乃愛、さやか、そして俺の3人で図書委員の沙織を待つためだ。
「それって、夢のこととか、恋愛のことかしら」
「そうなんです。なんでわかるんですか……ちょっと怖いですよ。その水晶玉に何が映ってるんですか」
「さやか、あと乃愛先輩もこんなところでなにやってんの」
あまりに本格的な乃愛の話術に、俺は入り込むタイミングをつかめずにいたが、さすがに口を挟む。
「えっと、沙織待ちでね。書庫の奥から、占いの本と……この水晶玉が出てきたから。そしたら乃愛さん……えっと乃愛がね。占いできるっていうから」
「天才はなんでもできるんだな」
まさか占いまで出来るとは。
「とーぜん」
したり顔の乃愛は、今日は当たり前だが制服姿だ。
ここ日本の学園の制服では、乃愛ほどの金髪は目立つ。
まして、変わらずピアスがきらめいているのだからなおさらだ。
それが似合ってしまうのが、彼女の魅力なんだろう。
自由な校風で有名なここ一ノ宮学園であっても本来ならNGな服務規程だが、彼女が帰国子女であることと、その成績によって黙認されている、らしい。
「――It's a Barnum effect」
「え? ば、なむ?」
「バーナム効果、グレーテストショーマン、P・Tバーナムから名づけられた心理学的現象。でしょ? 乃愛さん」
「あ、沙織! もう委員の仕事はおしまい?」
沙織の流暢な英語の発音に、俺もさやかも何と言ったかわからなかった。
ご丁寧な解説付きで助かる。
「うん、いま終わったところ」
「沙織はやっぱり博識ねー。ちなみにフォアラー効果とも言ったりする心理学用語ね。大抵の人は小さな不安くらい持ってるし、青春に夢と恋の悩みはつきもの。だから誰にでも当てはまりそうなことを言う。ビジネスとかそれこそ占いとかの手法よ」
博識な沙織に対して、IQ130の天才さまは補足の説明をしてくれる。
おそらく、凡人の俺とさやかのためだ。
「えーー、じゃあ乃愛、私のこと騙したの~?」
「騙されるほうが悪いのよ。でも、まんざらでもなかったんじゃなくて? 恋とかね」
「……ぅぅ。そんなこと、ないもん乃愛のバカ!」
からかわれて、耳まで赤くした美少女が机に顔をうずめ悶える。
ここで、さやかが先輩である乃愛を呼び捨てにしていることに気づいた。
「なんか、いつの間にか仲良くなってんのな、さやかと乃愛センパイ」
「そうよー? 沙織もね」
「そうそう、よく3人で遊びいくからねー。一樹が一緒にいるほうが珍しいんじゃないの?」
その沙織の一言がぐさりと刺さる。
「俺が邪魔ものなのか……?」
「邪魔じゃないってば、そんな落ち込まないの。もしかして邪魔だと思ってこの前、家では部屋で寝てたのー?」
「バカズキがいなかったら乃愛とも仲良くなることなかったわけだしね」
「そういうことよ。元気だしなさいよ。あ、せっかくだし占いしてあげよっか?」
三者三葉のフォローが入る。
「でも、なんで急にそんな実験をしてたのかな。乃愛さんは」
実験?
沙織は、乃愛の占いを実験だと言う。
「沙織も、先輩とか気にしないで、乃愛でいいんだけど? 7年も子供のままだったんだし、私のほうが年下な気分よ? でも実験ってのは正解。良くわかるね、沙織は鋭いなー。未来を見るための方法を考えてたんだ」
「未来を見る? それって乃愛が前に言ってたラプラスの悪魔のこと?」
「そう、それに付随して考えてみたんだけどね。事象、いわゆる物事や物体の配置は読めるじゃない? でも人の意思はそうはいかないもの。だから人の感情や、感覚を操作できるなら予測できる。予測できることは、誘導することもできる。未来を手繰り寄せることができるって思ってね」
それは乃愛のリサマでの存在意義であり、最終目的だ。
俺の知る乃愛とのフラグやルート分岐を介さずに、この話に進む予想もとれず、俺はここまでそのことを忘れていた。
そうなると、次に乃愛が提案することは……。
「でもデータはもっと欲しいかな。あ、そっか。学園祭、私たちで占い屋しよーよ。やるよね? やるっしょ? ね?」
そうこれは学園祭イベント。
Re;summer、第3のヒロイン。ギフテッド、源乃愛のシナリオの一つ。
「え、と。準備、間に合う……? 乃愛、あと三日だよ?」
一ノ宮学園の学園祭は、7月1日。
3日後に迫っていた。
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