ep.12 わたしも恋したいなー、なんつって、なんつって
夕方になり、乃愛と沙織を駅前まで見送り、さやかも隣の自宅へと帰っていった。
賑やかだった家の中は、少し寂しい感じがした。
ルート分岐はきっと『結城さやか』に向いた。
そう思える状況ではあったが、この世界は俺の知るリサマの世界と違うイベントが起きることも
単なるシナリオの繰り返しでは、うまくいかないのだろうと思うとともに、もう俺は第三者として関わることをやめてもいいのじゃないかと思うようになってきた。
いち、ゲーマーとしてじゃなくて。
ただの真田一樹として。
そう思えるにようになったのは、俺がここの世界に来て日に日に、真田一樹であることに違和感がなくなってきたからなのか。
――まるで、もともとそうだったような感覚すらあるのだけど。
もしもこれから、佐藤沙織とのシナリオ導線に移行したとして、
それが俺の、そして、なつ海やさやか、乃愛、何より沙織にとってのグッドエンドではないんじゃないか。
誰かの犠牲と引き換えにした未来に、意味なんてない気がするんだよな。
――ハーレムエンドとか、用意されてねーかな。
「兄さんそれ、相当あぶない発言だけど、大丈夫?」
「俺、また口に出してたか……?」
「うん、ばっちし。で、兄さんはコーヒーでいい?」
なつ海とはこの深夜の時間によくお茶をする。
普段は格ゲーだったり、パズルゲームをしながら他愛のない話を挟みながらだが、
由依が来てからは三人でパーティゲームを楽しむことも増えていた時間だ。
「あ、ああ、サンキュ」
「なんか、ちょっと寂しい感じだね」
二人で、一つのソファーに腰をかける。
風呂上りの火照りで顔を赤らめた、なつ海の表情。
ゲームをしていないのは、今日の集まりではしゃぎすぎたためだろう。
いつもより、少し疲れて見える。
「そうだな。そういえば、由依ちゃんは?」
「疲れたみたいで、もう寝てるよ。あんなにはしゃいでるあの子、初めて見たかも」
確かにはしゃいでいた。
大人しい子というイメージは、直接かかわるとここまで変わるものなんだろうか。
「UNOって言ってない! って声、こっちまで聞こえてたぞ」
「あはは。ごめんねー、兄さんゆっくり休めなかったんじゃない?」
「ところがどっこい、割とガチの二度寝してたぞ。盛り上がってたみたいだけど、なにか話してた?」
「んー、女子の秘密のおはなし~。知りたい? 知りたいよね?」
そう言って俺の眼の前まで悪戯な表情で詰め寄る。
黒いシャツのやけにゆるい胸元から、零れそうなバスト。そして、ちらりとブラの水色が見える。
そういえば、傷んでゆるんできたから部屋着にしよーとか言ってたな。
「食い気味でこっち迫ってくるなよ。妹の谷間見たって嬉しくないんだから」
「言いますなー。兄さんはさや姉のがいいんだもんね。それとも乃愛さん? 沙織さんだ! んー、でもでも、兄さん由依のこともそういう目で見てたし……ロリ派?」
「いや、ロリコンでもないし。そもそもなんで、あいつらなんだよ」
こういうとき、俺の知るリサマなら、ヒロイン外の名前は出てこない。
この世界において、佐藤沙織の存在意義は変化している気がする。
「んー。んー……。なんか色々わかっちゃった気がしましてね。わたしとしても複雑なんですよ」
「なんだよそれ」
「老婆心ならぬ、妹心ってやつよ。女子の恋バナには危険がつきものなのですよ。あ~わたしも恋したいなー、なんつって、なんつって」
「休日にずっと家でゲームしてる限り、厳しくねーか?」
「はいはい、そうですね。ゲーマーに恋する時間はないですからねー」
「スポーツマンかよ」
冗談めいて話すが、なつ海はゲームのことに関してはストイックだ。
両親に単にあこがれているだけではなく、将来同じ仕事を手につけたいと思っているのだろう。
それは彼女のルートを攻略したうえで知っていること以上に、この世界で直接接して肌で感じたことだ。
「あ、そういえば。まえの話だけど。ルート分岐がどうとかっていう、あれ何のゲームなの」
「エロゲー」
さすがに存在しないゲームのことは話せない。
まして、転生した真実などなつ海に言おうものなら、なまじゲームに詳しい分、なつ海のルートを攻略したことまで丸裸にされそうだ。
きっと、いや間違えなく、軽蔑される。
「今日は素直なんだ。そうじゃなくって何てゲーム?」
追及してくるな。
適当にはぐらかすことにしよう。
「あー、あれなんだけどさ」
「ん? なになに」
「いや、いいや。俺明日はやいし、そろそろ寝るわ。」
「えええ、もう寝るの? せっかく相談のってあげよーって思ったのに」
「中学生の手を借りるほど、俺は落ちぶれちゃいねーのさ」
「なによ。いつも子ども扱いして! 兄さんなんて壁と爆弾のあいだに挟まれて詰んじゃえよ! もう!」
今日のバリエーションは、レトロゲーか。
すまん妹よ。心配は有難いが、兄さんには守るべき尊厳というのがあるのだ。
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