ep.11 恋バナとか、してみない? 2/2(主人公・沙織視点混在)

◇◆ 主人公視点 ◆◇


 沙織の言おうとした、大事な部分は聞き取れないままだった。


「んんー? なに、聞いてなかったの? 2回は言いませんよ。沙織的には、いまので精一杯なんですよ」


 聞き返した際に、こんな言葉ではぐらかされてしまった。

 少し深く被り直した帽子のせいで、

 去り際の沙織の表情までは見られなかった。

 

 部屋越しに聞こえるUNOの合戦は、もう少し続きそうだった。

 

 沙織が去ったベッドは彼女の残り香がする。

 俺はもう少しだけの間、ベッドで横になることにし、深く息を吸った。

 その行動に、深い意味はないのだけれど。


 そして現状を整理してみようと思った。

 リサマにはヒロインが5人いる。追加ヒロインはさらに2人。

 俺がこの世界に転生してからコンタクトをとったのはこの4名。

 

結城ゆうきさやか』


真田なつ海さなだなつみ


源乃愛みなもとのあ

 

日向由依ひゅうがゆい


 この中で、家で顔を合わせることもあり『真田なつ海』と『日向由依』は全ルート共通のメインキャラだ。

 とはいえ、ここまで一緒にいるとヒロインという感覚よりも、家族としての存在としてのほうがしっくりくる。


 そして『結城さやか』攻略ルートにおいて、特に絡むことになるのが『源乃愛』だ。

 そのため今日いま家に集まってる4人、そしてそこに佐藤沙織を含めたメンバーが、『結城さやか』ルートを進めるうえで必要なコネクションだった。

 ノベルゲームのキャラクター分岐で悪手となるのは、ルートで関わりあいを持たない他のヒロインとの必要以上の接触と言われている。


 現状、関わっていない残りヒロインは3名。


 第4のメインヒロイン『北城渚ほくじょうなぎさ』とその友達で、追加ヒロイン枠の『神前こうさきつむぎ』。

 

 最後のメインヒロインは、『水月すいげつ』という名の少女。

 素性もわからない存在。


 俺はこのなかでまだ出会っていない『北城渚』へのルートを断ち切る必要があると考えていた。

 そうすれば同じく『神前つむぎ』とのルートも分岐不可となるため、『結城さやか』のシナリオルートの路線にたどり着けるはずだ。


「あとは、水月か」 


 この世界がリサマの世界通りあるのならば、『水月』とはいずれ出会うことになるだろう。

 それが、どんなに残酷なシナリオの幕開けだとしても。


       ***

◇◆ 沙織視点 ◆◇


 最近、気になる人ができたのかもしれない。

 ううん。それは少し違うかな。

 ずっと気になっていたひととの距離を少し詰めてみたいと思う自分の気持ちに気づいたんだ。

 

 そう思うようになったときから、より意識してしまうようになった気がする。

 目で追うことが増えた気がする。

 

 一緒にいるときが楽しくて、そうじゃないと退屈。


 もっと女の子っぽくすればいいのかな。とか。

 積極的になってみようかな。とか。

 

 考えて、気持ちが少し前に進んで。

 落ち込んで、巻き戻す。


 こういう気持ちのことを、恋というのだろうね。

 

「恋バナとか、してみない?」


 そんな言葉が口から出たのは、アタシ自身のこの気持ちを誰かと共有したかったからかもしれない。

 いやそれも違うかな。親友の……さやかの気持ちを確認したかったのだと思う。

 

「いいですね、沙織さん。やりましょーよ」


 まず最初に同意したのは、妹のなつ海ちゃんだった。

 そして、由依ちゃん、乃愛さん。そして、さやか。


 女子4人、UNOのカードで散らばる床に円になって、座り込む。

 そして、円から外れたままのを抜きに、話をはじめた。

 

 恋人の有無、については誰もいないという結論。

 しかし皆、気になる人はいるようだった。乃愛さんだけは大人な様子ではぐらかしていたようにもみえたのだけど。


 そんな会話のなかで、なつ海ちゃんの友達だという、由依ちゃんが一言投下した言葉。その質問に、アタシは答えを持っていない。


――同じひとを好きになってしまった場合、皆さんならどうしますか?


 ずっと宿題にしてきた問題を突きつけられ、困ってしまった。

 アタシなら……。どうするだろう。

 

 なにか頭の片隅に、ひっかかるものがあった。

 でもその蓋を開けちゃいけない気がした。

 

 頭の中に流れ込んでくるのは、記憶?

 断片的なスクリプトがアタシという存在を書き換えていくように思えた。


『ねえ、さやか。恋愛より友情のほうが、沙織的には大事なんだよ』

『んー、そっか。じゃあ私もこの恋、おりるよ』

『どうして?』

『諦めることはできないけど、Stayステイにするくらいならできるもん』


――恋心を仕舞い込むくらいの化粧箱は、女の子なら誰だって心に持ってるもの

 

 一斉になだれ込むように脳内に浮かび上がる雨の日のさやかとの記憶。

 記憶といっても、そんな想い出なんてアタシは知らない。

 思わず怖くなって、アタシは必死に閉じようと思った。

 

 何を閉じようとしたのかはわからないけど。

 多分その想い出の中で、さやかが言った化粧箱の蓋を閉じようと思ったんだと思う。

 それくらいには、アタシも女の子なんだとも思った。

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