ep.05 ゲーミング・ガール
「なつ海、お前をいちゲーマーとして見込んで聞くが」
「サッカーゲームで攻められてるときに限って、急に話かけるのやめない?
次にリープしたのは、3日後の同じく昼の時間。
6月11日、日曜だった。
昼寝から覚めた俺は、妹のなつ海に起こされて兄妹の日課であるテレビゲームに勤しんでいた。
休みにまで妹のわがままに付き合う俺って優しくないか。
リビングに備え付けられた50インチの薄型テレビに繋がる最新の家庭用ゲーム機。
コントローラーを握りながら画面を見る。
ゲームに集中しながらも、ちらちらと横目にリサマの第二のヒロイン、妹のなつ海を見る。
床に座り立膝をつきながら画面に食い入る姿はとても無防備で、年頃の男子の目線で見て、その姿はエロくも感じる。
だが、それでいて俺はこの子の兄であるという気持ちも自然と心の奥から芽生え始めてもいた。
そして日に日に俺は記憶、感情レベルでこのリサマの世界で主人公、真田一樹と同一化していっていることを実感していた。
コンシューマー移植前からいるメインヒロインの一人だ。
高校二年の一樹より3学年下にあたる、中等部3学年という設定ではあるものの、大人の事情で18歳だったキャラクターだ。(コンシューマー版では15歳だった)
家のなかでのゲーム中はいつもキャミソールにショートパンツ姿といったラフな姿で、その無駄のない華奢な体つきに似つかわしくないバストを持つリサマの人気キャラクター。
両親が海外出張中で、住宅街の一角にある一軒家になつ海とともにふたりで暮らす。
そんなゲームシナリオにおいてはありがちの、自由な環境が真田家の構成だ。
真田家はゲーマー一家だ。
両親ともにプロゲーマー、e-sportsで稼ぎを得ており、真田一樹も、またその血を強く受け継いでいる。
その設定に俺はどこか自身を重ねていたところもある。
そして、なつ海もまた例外なく、真田家の血をひくゲーマーだ。
「いや……、いつもはそうだけど。今回は、そういうつもりじゃなくて! まあいい。質問に戻るとするが、用意されたエンディングがGood or Badだけって変だと思わないか」
「はあ? なに急に。あ、こぼれ球もらった!! やったゴール!」
「……んー、やっぱり兄さんスポーツゲーム弱いよね。いちゲーマーとして、実の兄がこんなのなんて、恥ずかしいよわたし」
大げさに喜びをあげるたび、なつ海の胸は揺れる。
ソファーに座っている俺から見れば、床に座っているなつ海その谷間が間近に見える。
『でかいな』と、兄としてそう思う。
あくまで兄として。いろいろと大きな存在だよ、なつ海は。
「悪かったな。どうせエ、ギャルゲーの帝王だよ俺は」
「ほら、涙吹いて。あとエロゲーって言いそうになって言い直さなくていいから。もう知ってるし。部屋から聞こえてるし」
「おお……。そんなカミングアウト。3点差をつけた今、さらにこの瞬間にとどめを刺すのか妹よ」
「嘆かわしいわ兄さん……。あ、さっきの質問だけど変とはわたしは思わないなー。兄さんは、
そう言って俺のほうを振り返るなつ海。
鮮やかなみず色の髪色。ゆるくウェーブがかるサイドテールふわりと揺れて、柑橘系の匂いが広がる。
ここまで生き生きと描いたイラストレーターに感謝したい。
きっとこの香りも、キャラを描きながら想定して作られたのだろうと感謝する。
どこか眠たげな眼差しは、なつ海の特徴的な表情で。
いわゆるジト目というのだろうか、どこか物事に頓着せず興味のないようなところもまた可愛らしくも見えてしまう。
知ってるか、俺はPC版ではお前を最初にクリアした。
そう胸の中で呟いておく。
「その通り。もし第三のエンディング。Trueが用意されているとして、仮にだけど分岐タイミングはいつだ」
「何のゲームかも聞いてないけど、兄さんお得意の美少女ノベルゲームだとすると、Trueは全キャラクリア後か、正規ヒロインのルートから分岐じゃないかな。わたしだったら正ヒロで
この回答で俺は確信した。
序盤で乗せるべきルート構成と選択肢は正ヒロイン『結城さやか』に絞ると。
そして、セーブ機能のない中でその分岐を探るのが目的のプレイだと。
「ありがとな、お前は最高の妹キャラだよ」
「ちょ、なんなの兄さん! 人をキャラ扱いするなっての。え、もうゲーム終わるの?」
俺は3-0で敗れたサッカーゲームの画面を後目にし、そそくさと着替えを始める。
財布と、スマホを持ち、そしてジャケットを羽織る。
日曜という貴重なイベントタイミングを失うことがないように。
そしてリサマのヒロインである妹キャラ、真田なつ海とのルートを回避する為に。
「すまんな、ちょっと野暮用でな」
「え、ちょっ自分勝手すぎっ! 兄さんなんて落ちゲーで『おじゃまぷよ』に挟まれて詰んじゃえ! もう!」
幾度となく聞いた妹の悪態を聞き流して、
俺は、真田家を飛び出した。
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