第十三話「温泉といえばアヒル」
パイ爆撃を直撃したお二人はあーだこーだお互いの悪口を言いながらもスムーズに清掃を済ませ、先生にバレる前になんとか綺麗にしたようです。まあ、一番の被害者は桃咲あひりだと思うんですけれど…流石に体に付いた分までは綺麗に取れなかったようなので、金持ち令嬢様がチャーターした超高級移動式銭湯バスで入浴中。僕(しもべ)に対する情けなのか知らんけど、一応ほまれさんにも使用許可がおりているらしいです。
「ご入浴料金は後払いでもよろしいですわよ。このワタクシの恩義を忘れずに今後はしっかりと忠誠を誓いなさい。」
「事の発端はアンタだろうがよ。しかも金までせびるなんて、随分と立派なご令嬢様だこと。」
堅実なお嬢さまなのかケチなお嬢さまなのか分かりませんなw
まあ、多くの人はケチなお嬢さまだとお思いでしょうね。それにしても、このこまろ銭湯はやはり格式がお高いようで…利用者二人しかいないのに広すぎ、施設充実しすぎ、変なライオンが口から黄金のゲロ吐きすぎ。湯煙モクモクで大事なトコ隠れすぎw
「ってか、こまろちゃんって毎日こんなお風呂入ってるの…?」
「いえいえ、普段はこんなグレードの低い所は利用しませんわよ。臨時用として仕方なくチャーターしたまでですわ。」
「・・・これで低グレードって…贅沢突き抜けて、もう頭おかしい人だわ。」
学校に寄贈したチェアとデスクの金額を聞いた時から、すでに頭おかしい人だと分かってましたけれどねw
逆に普段入っている高グレードな風呂ってどんなレベルだよ!!っと誰しもが思うことでしょう。きっと多数のライオンが黄金ゲロを吐きまくっている、温泉のサファリパークなんだろうねぇ〜。
「それにしても、ほまれさん。小さくて可愛らしいですわね。」
「小さいってなにg・・・」
ほまれさんの目がこまろさんの視線の先を追っかけると、そこには緩やかな傾斜の丘が広がっていたようです。対して目の前にいる人物はエベレスト級の山を所有している。その確認が済むとなぜかほまれさんの顔が真っ赤になっているではありませんか!
きっと、あったかい温泉でのぼせ始めてきたんでしょうね〜…うんうん。
「ワタクシのは少々大きすぎて、凄く肩が凝りますのよ。インナーもなかなかサイズの合うものがなくて困りものですの。ほまれさんはコスパが良くて羨ましいですわ〜。」
「それ、ものすごーく嫌味にしか聞こえないんですけど…ってか絶対嫌味で言ってるだろ、あんた。胸取りじいさんにでももぎ取られとけ!!」
ほまれさん、気を荒くしないで。夢は大きければ大きいほど良いものだけれど、それが世の全てじゃないから。高い山を目指す者もいれば緩やかな丘を好んで目指す者もいるんだぞ!需要と供給の問題だ。それに該当しない者は廃れゆく運命。それだけだ!←(ヤベー、自分でも何言ってるのか分からんわw)
ってか、胸取りじいさんってただのセクハラジジイじゃねーか!もぎ取られて喜ぶのそのクソジジイだけだぞw
※
「あっ!二人ともいたいた。ズルいよ、二人だけでこんないい温泉入ってるなんて!」
「あれ、あひちゃん?…何故にここに?」
「ウフフ、折角なのでワタクシが特別にご招待したのですわよ。」
ああ、このトリオは結局は毎回揃う運命にあるのね〜・・・ん?いやでも、こまろお嬢がこんな気の利く人格者なわけがないはず…こやつ絶対またなんか企んでいるな。もう、こまろ見たら泥棒と思え!な人だしねぇ。
「ところであひちゃん。その浮き輪みたいなの、何?」
「えっ?浮き輪だけど…それがどうしたの?」
「う、うん…いやだから、何で温泉に浮き輪?」
「ほまれさん、人間は溺れたら死んじゃうのですよ。そのアヒル型浮き輪があひりさんをピンチから救ってくださるのですわ。分かっておりませんね〜。」
「うんうん、そうそう。でも、こまろちゃん。これアヒル型じゃなくてダンディバードなんだけれど…」
(チッ!折角、ワタクシがフォローを入れたというのにこの仕打ち。絶壁娘の浮き具なぞ、なんでもいいではありませんこと!!)
分かってない奴らの集まりだったらしいです。ここはw
いや、この状況を一番理解不能で分かっていないのはこの私、天の保護者なんですが…噛み合っていない会話を聞かされるこちらの身にもなって下さい、お嬢様方。
「ねぇ、ほまれちゃん。あそこにブクブクしてる所あるけど、アレ何?」
「ああ、アレはバブルっていうのかな?あの気泡結構気持ちいいんだよね。あひちゃんも浴びてくれば、虜になっちゃうぞ〜!」
「えっ、そう?じゃあ浴びにいk・・・ってうわ〜!!…オボボボ〜。」
「も、桃咲アヒル〜!!(笑)・・・だ、ダメだ。本体が消えて形見(アヒル型浮き輪)だけになっちまったw」
どうやら目的の場所付近は一段ほど深さがあったようです。今回ばかりはほまれさんに悪気があったわけではなく、アヒルが勝手に沈没していっただけなんですけどね。でも、ニヤニヤしながら救助(という名の観察)に向かうほまれさんを見ていると、なんだか複雑な気持ちになりますわ。
「も、もう!ほまれちゃん。ここ深くなってるの知ってたでしょ!!(プンスカ)」
「い、いやホント全然知らなかったよ・・・ククク。あひちゃんが沈んで、アヒルに転生したの見て・・・ククク。だ、ダメだお腹痛いw」
「(イラッ!)随分と楽しそうですわね〜、ほまれさん。それでは今度はワタクシがあなたを転生させて差し上げまs・・・」
「いやいや、結構で〜す!!跡形もない別の生物になりそうなんでご遠慮させていただきま〜す!」
持ちつ持たれつのいい関係性のあるトリオですね。彼女らは(笑)
私も天から見守ってて全く飽きることがなくて、充実した世界で過ごせていますわ〜。
※
「それではワタクシは少々、露天風呂の方で寛いできますの。こちらの屋内施設はお好きにご利用していただいて構いませんので…それでは。」
「うん。こまろちゃんもゆっくりね!」
「ま、まあ。ごゆっくり。(絶対何か企んでそうだけど、ワカラン)」
こまろお嬢が抜け、珍しくあひ・ほまコンビが残ったわけだけど・・・何かおかしい。裏があるのでは?…っと、ほまれさんも疑って止まない所だと思われます。今度はどんなショボいトラップを仕掛けてくるのか見ものです。
「ほまれちゃん見て見て。あそこにクラゲが浮いてる!」
「クラゲ?・・・あ、あひちゃん。アレは世紀の大発見レベルのクラゲだよ!珍種タオル性の。まさかこんなところで見られるなんてね、ビックリ!」
どうやら、てるてる坊主型にしただけのタオルがあひり沈没ポイント付近にプカプカと漂っているらしいです。ああ、私もそのクラゲはよく製造していた時期ありましたわ。ツンツン突っついたり握り潰したりして遊んでたしw
我が身勝手に振る舞う令嬢に毎回振り回されるしもべ、ほまれさんも今回ばかりは嬉々としてノリが良いのね。・・・いや、ってか誰だね。あんな物をこんな広い銭湯の中に放流したヤツはよ。おうちのお風呂場だけにしなさいよ。知らないおじさんに注意されても知らんからな!…って、ここは女湯だったわw
「えっ、そんな凄いクラゲなの!?もっと近くで見たいな。ちょっと行ってくるね。」
「お、おい!そこはさっき沈んだ場所だろ…って、待て待て〜アヒル〜!!」
毎回疾走することにだけは長けているアヒル。見事に再び温泉の底に。救助に向かったお調子者は沈みゆくアヒルに足を掴まれ、懸命に道連れを回避しようとする。…も虚しく、盛大にぶっ倒れそうになるが何とか踏ん張った。…が、どう考えても怪しい珍種クラゲにお手をかけてしまっていた。・・・ほまれさん、時すでに遅し。
「あっ・・・(絶対にヤベーと分かっている物体に触っちまった…)」
(墨スミブラック、プシュー!)
「何であひりさんではなく、ほまれさんが引っ掛かるのですか!使えないですわね、ホント…(イライラしながらモニタリングするこまろさん)」
パイ攻撃でお顔真っ白の次はお顔真っ黒。女の子のお化粧って大変ね〜w
そのお隣で泳ぎが下手なアヒルも行き場のないプンスカを撒き散らしているし。温泉は疲れを癒す所です。体の疲れだけでなく心の疲れも癒しましょう。そして風呂上がりにはコーヒー牛乳をグビッと飲んで唇の上にリング跡を刻む一仕事をする。…っと誰か彼女らを説教しに行って下さい。
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