第十二話「モモッコ問題」

本日最後の6時限目の授業は道徳です。最近は授業内容から撤廃されているところもあるらしいですが、彼女らの学校では存在します。こまろさんには特にいい勉強になりそうな気がしますがね。


「それでは三人一組になってプリントに書かれているお題について議論をお願いします!」


一之瀬先生が授業の初めに軽くいろいろと説明した後に、生徒たちはグループ別に分かれて議論をし始めた。もちろん、あひりのいるグループはいつものメンツね。


「これ、トロッコ問題ですわね。なかなか面白そうですわ。」


「コロッケ問題だって〜、あひちゃん。美味しそうだね〜。」


「コーンコロッケを食べて死ぬか、カニクリームコロッケを食べて死ぬかどちらか選べ!って問題でしょ?知ってるよ、私。」


「うんうん、そうそう。でも私は牛肉コロッケ派だから死なないけどね〜。悪いけどあひちゃんだけご臨終しといて。」


「あ、ほまれちゃんずるい!私も牛肉コロッケ好きだもん!(プンスカ)」


「・・・(これはワタクシにツッコめ!と暗示しているのですかね?…断固拒否しますけれどw)」


ほまれさん、無理にボケ役に回ってあひりに吹っかけなくてもいいんですよ。二人よりも陰が薄くなっているのを気にしなくてもいいんですよ〜w

まあそれはさておき、トロッコ問題って制御不能で爆走するトロッコのポイントをそばにいる自分が切り替えるか否かの問題ですよね。切り替えないでそのままだと線路上にいる5人が確実に死ぬ。切り替えるとその5人は生存できるけど、別の線路上にいる1人が確実に死ぬ。自分の手で5人を助けて1人を犠牲にするか、何も手を染めずに5人を見殺しにして自身が罪を背負わないようにするかの難しい問題よね。・・・いや、そんなもん道徳の授業でやるなよ!どうなってんだよ、この学校は!





「ほまれちゃん、プリントに書かれてる説明読んだら全然違うじゃん!」


「ごめん、あひちゃん。私知ってたんだ。久々にプンスカを見たかったからつい…ねw」


「う〜ん…この問題、私だったら切り替えるかな。5人死んじゃうし。」


「それですと、切り替え先の線路上の1人はお亡くなりになりますけれど…まあ、多少の犠牲はやむを得ませんよね。線路上に1人でいる地点で危機管理の薄い自殺行為ですし、そんなお方は早かれ遅かれあの世に行く運命の人で、そのお方のスペアはいくらでもいますしね。」


「・・・非情だな、あんた…」


ま、まあ今までのこまろお嬢の人格を鑑みても、温かい回答を期待する方がおかしいんですよ。


「あ、そっか。それじゃダメだよね…なら、もう切り替えずに神様にお祈りをすることにするよ。強く念じれば願いはきっと叶い、人々は救われる。…ってダンディバードも言ってたし!」


「あひちゃん、そんなアニメ・マンガみたいに都合よくいけば誰も悩まんよ…」


いや、でもあひりさんのその考えも悪くない回答だと思いますよ。変に手を出すと責任を追求されるハメになってしまいますから。


「そういうほまれさんは、どちらなんですか?何かいいご回答をお持ちなんですよね?」


「わ、私は…やっぱり…切り替えるかも。5人死ぬのと1人死ぬのじゃ、悲しみの度合いが違うし。」


「あらら、なんだかんだ言って結局、功利主義派なのですね。残念なお話ですけれど、社会的価値は人によって違いますのよ。極悪非道の殺人鬼と国公認の社会貢献者が同列だなんて思いませんよね?数字だけを見て、大きい方を取るために小さい方を救助道具として酷使し、犠牲にする。非常に安直で残忍だと思いませんこと?」


「・・・正論で何にも言い返せないけど、アンタにだけは言われたくないわ。」


まあ、かく言うこまろさんも二律背反のズルいポジション取っているんですけどねw

正解のない選択肢を選ぶのって大変よね。まして人生はそれの連続なんですから、何かに縋りたくなる時もあるし、その過程で敵も味方もできる。常に最適解を選び続けるなんて出来ませんから、自分らしい選択をして生きたいものですね。・・・と悟ってみた。


「ねぇ、こまろちゃんはどっちなの?切り替える方?それとも神様にお祈りする方?」


「そうそう、私とあひちゃんは答えたんだから、後はあなただけよ!」


「ウフフ、そうですね…ワタクシの場合、まず『金額査定アプリ』で5人と1人どちらが価値ある人材かを素早く精査しますわね。価値ある人材の方に生存してもらって、その救われた恩義でワタクシの忠実な僕(しもべ)になっていただきますの。亡くなった方には申し訳ないのですが、栗宮のとある機関に問い合わせて事実関係を抹消していただき、コトの発端となったトロッコ関係の業者さんには、これまた栗宮のとある機関から軽く圧力をかけて献金させますの。…いかがです?これが最適解ですわ。」


「・・・いや、私利私欲に塗れた一番クズな回答なんですけど…」


ホントです!ってか、そのアプリはアンタがこの前アンインストールしただろうが!

皆さんはこんな風な大人になってはいけませんよ。天の保護者とのお約束ね!


「でもこの問題さ、5人と1人が自分とすごく仲が良いのか悪いのかでも変わってくるよね。例えば、ほまれちゃんとこまろちゃんがその5人の中にいて、ダンディバードが敵対する悪の組織の構成員の人が1人の方だったら、私は絶対切り替えるし。」


「やはり、あひりさんも人の価値を査定して決めるのですね。その考え方はワタクシと同じですわよ!…では、ワタクシが1人の方で、ほまれさんが5人の方でしたらどうなさいます?」


「え〜、難しいな〜。・・・こまろちゃんごめん!助かる人数が多い方がいいから5人の方かも。」


(グサッ!!・・・な、なんでですの。今の話の流れだとどう考えてもこの高貴なワタクシが生存すべきではないのですの?ワタクシはこのしもべ+有象無象よりも格が下だとでもいうのですか!?…有り得ませんわよ!!)


「あ〜、私がもしその立場だったらあひちゃんと同じだわ〜。(トロッコで出棺されとけ、モブが!。)」


「ほまれさん、何かおっしゃいましt…?」


「いえ、何も!」


やっぱり、人が判断する以上自分との親密度が判断基準になるものですよね。数の問題では一概には計れない。まあ、この問題でそんなことを考えられる余裕があればですけど。





鬼畜な道徳授業を終えた後の放課後です。

1ーA教室はいつものメンツ3人を残して、他のクラスメイトは下校だの部活動の見学・体験だので散っていきました。また、他愛もないコントでもするつもりなんでしょうか。


(ピロピロピロ〜♪)


「あっ、お母さんからだ。ちょっとごめんね。…はい、もしもし〜・・・あのねあのね・・・」


「ちょっとちょっと、こまろちゃん。こっちきて、あひちゃん今電話中だから。」


「はいはい、何用でしょうか?」


「あの、プレゼントの中身何なのさ?絶対良くないものでしょ。私にだけでも教えてよ!あひちゃんプンスカに協力するからさ。」


ほまれさんが珍しくこまろさんに加担するっぽい模様。自分が被害に巻き込まれたくないか二人の存在感に潰されてもうちょっと活躍の場が欲しいからだと推察いたしますw


「あら、珍しく忠実ですわね。いいですわよ。あれは、あと5分で起爆してあひりさんの顔面がパイで真っ白になりますの。きっと行き場のない怒りと恥ずかしさで狂わされることでしょうね〜…ウフフ。」


「・・・うんうん、あの箱見た瞬間、そうなんじゃないかは大体予測ついてたわ…」


この人、またショボいドッキリトラップで桃咲あひりに挑もうとしてるし。…でも面白そうだから応援しとこうっとw


「二人ともごめん!私、ちょっと急用ができて急いで帰らないと行けないからお先にね!…あっ、そうだった。(ガサゴソ)・・・お母さんが何も悪いことしてない人から物を頂くのは良くないって言ってたから、これこまろちゃんに返すよ!じゃ、また明日ね〜!!」


天然っ娘はそう告げるとロッカーに保管していた例のプレゼントをこまろの両手へとガッチリ返却して足早に去っていった。


「お、お待ちを。あひりさ〜ん!!・・・(ほまれをチラ見)ほまれさん、いつもお世話になってますわね。差し上げますわ。(ポイ!)」


「ちょ!…衝撃与えるとマズイっしょ!元々あんたの物だからいらないよ!(ポイ!)」


「あなたはワタクシのしもべですの。主には従うべきでありませんこと!(ポイ!)」


「いつから私があんたのしもべになんかなったのよ!この悪役お嬢さま!(ポイ!)」


「不敬ですわよ!下級身分風情なのですから自身の言動は慎みなさい!(ポイ!)」


「いいとこ出の娘だからって調子にのっt・・・」


(パーーーーーーーーーーーン!!)


ほまれさんとこまろさんのちょうど間ぐらいで制限時間になったらしいです。二人のお顔はお嬢の狙い通りの真っ白でパイも張り付いてもう、グチャグチャのドロドロ。面白いものを見せてもらいました。あざーす!


「あんたのせいで私もグチャグチャじゃないのよ!これでも喰らえ!(ポイ!)」


ほまれさんが顔面に張り付いていたパイをこまろに投げつけた。・・・けれど、こまろには当たらず、空いていた教室の窓から外に出て行ってしまった。


「ん?なんか雨が降りそうな空になってきたな〜。雲も黒くてそろそろ降るんじゃ・・・(べちょ!)っんげ!!…なんで雨じゃなくてパイが降ってくるの〜!もう最近変なことばっかり起こるし、なんなの!!(プンスカ)」


みんな仲良くパイの餌食になりました!

あと、先生に気づかれる前にちゃんと教室綺麗にしときなさいよ。

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